20. 婚約者不在
ステラに婚約者がいなくなった。
元々この国では、王家以外、わりと自由に婚約者を決める。ステラの場合は王家との婚約だった為、早々に婚約者の席が埋まっていたのだが。
その席が空いたのだ。
翌日からステラへの釣書は、止めどなく送られて来ているという。
昨日の今日だというのに。
学園でもその話題で持ちきりだった。中には夜会に出席していた者もいたのだ。その席には人集りが出来ていた。
その話の中には第二王子エラトス殿下がアリサ嬢をエスコートして出てきたということもあり、それが婚約解消の原因なのでは、という憶測まで流れていた。昨夜のあの状況なら、そういう憶測が出てしまうのも当然の流れだろう。
当のステラは飄々としていた。むしろ、清々しいほどにスッキリとした表情を浮かべていた。
「嬉しそうだな? ステラ」
「えっ? そっ、そんなことないですわ」
「お前、わかりやすいぞ」
ステラはジロリと俺を見た。
「まぁ、良かったんじゃないのか?」
「ええ。生き残れる可能性が上がりましたわ」
「……ああ。今日はヴェガードと話すのか?」
「ええ。私からも兄さまにお話がありますし」
「その話、俺が同席してもかまわないか?」
ステラは一瞬、戸惑ったが、ゆっくりと頷いた。
「兄さまと二人だと話しづらかったから……シアンがいてくれたほうがいいわ」
「何故?」
「ええっと、それは……」
ステラが口ごもると、俺は話を切り替えた。
「ところで。ヴェガードの目的は何だ?」
「え?」
「夜会だよ。ベルクルックス男爵令嬢に近づいていただろう?」
「ああ……」
「あれが目的なら、彼女はステラに関係しているということだな?」
「……ええ、そうね」
「では、彼女が主人公か」
あの状況でヴェガードが自分から接触するなど、普段の彼からは考えられない。とすると、ステラに何らかの関係があるとしか思えなかった。
そこから推察するに、彼女がステラのいっていた物語の主人公である可能性が高い。
ステラは目を見開き、大きく一つ息を吐いた。
「そうよ。そして彼女もまた私と同じ状態だわ」
「彼女の中に違う彼女がいると?」
「そう。その可能性が高いの」
「なるほど。それをヴェガードは知っていたのか。だから、わざと彼女に近づいた」
「ほぼ間違いなく、そうね」
「それで? ヴェガードと二人だと話しづらいのは何故だ?」
「え? そこに戻るの?」
「ああ、当たり前だ」
ステラは観念したように口を開いた。
「ステラとヴェガ兄さまは兄妹だけど……ステラの中にいる私はステラじゃないから……」
そこまでいうと、俺を見た。
「ヴェガードとセイラは、兄と妹じゃないのよ」
「それはわかるが……何が言いたい?」
「だから! 昨日の夜会でときめいてしまったの」
「は?」
「身体は血が繋がっていても、心が繋がっていないから、どうしたらいいのか、わからないのよ!」
「……お前、ヴェガードが好きなのか? 兄としてではなく、恋愛対象として?」
「今はまだ違う! だけど、この先ずっと一緒にいたら、どうなるか、わからないじゃない。不安になってしまったのよ……」
ステラが俯く。
ヴェガードの妹への溺愛ぶりは傍から見ていてもわかる。あの状態で妹でなければ、確かに恋に落ちてしまうのではないか?
「それは……何とも言えないな……」
「まぁ、そうよね……」
二人揃って、複雑な顔をし、肩を落とした。




