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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾るか
第1章

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21. 物語の内容

シアン視点→ステラ視点→シアン視点です。


「やぁ、シアン。いらっしゃい」


 アステリア家の屋敷につくと、いつもと変わらない微笑みでヴェガードが出迎えた。


「先日の夜会以来だね。まさかシアンも出席するとは思わなかったけれど」

「…………」

「ステラはだいぶ気に入られているみたいだ」


 ヴェガードの言葉に、まっすぐ視線を合わせた。

 ジッとこちらを伺うように見つめる彼の瞳の奥は、まるで何かを見定めているかのようだった。


「ごめんね? ステラの婚約解消が発表されてから、ステラにはいろんなのが引っ付いてくるからさ。何だか癖になってしまって」


 そういって、珍しく眉尻を下げたヴェガードの顔は紛れもなく、妹を心配する兄のものだった。

 ステラが――セイラが心配するようなことはきっとないのだろう、と思った。


「とはいえ、シアンのことは()()、信頼しているんだよ? 何といっても、()()()()()()を共有しているのだから」


 その言葉に、ドクリと胸が高鳴った。


 ――ステラの秘密の共有。


 あの時、感じた言い様のない感情。

 それをヴェガードに()()()()口に出して言われた。

 ヴェガードは恐らく、俺の感情のブレを見ているのだろう。

 彼は絶対に敵に回したくない類の人間だと本能的に感じた。


「それで。ステラは?」

「ああ。先にサロンで待ってるよ。行こうか」


 ヴェガードとサロンまで歩く。

 沈黙を破るように彼がいつもより低い声を出した。


「ステラは……シアンに何か言っていたかい?」

「……?」


 思わず、足を止めた。

 先を歩くヴェガードは俺が足を止めたのに気がつき、振り返った。


「夜会以降、ステラの様子がおかしい。特に――僕に対する態度が」

「ああ……」


(――あのこと、か)


 その原因を一瞬で理解したが、どう答えて良いかわからずに黙っていると、彼は大きく息をついた。


「その様子だと――シアンは知っているんだね。その理由」

「……まぁ」

「――でも、言えないってことか。わかった、無理に言わなくていいよ。ステラが一人で抱え込んでいるわけではないのなら」


 ヴェガードは俺の肩にポンと手を置いた。


「ステラが話したい時は、相手になってあげてよ。僕には言えないこともあるだろうし」


 それだけいうと、サロンへ向かい歩き出した。





 《星の花の神話を聴かせて》


 前世でプレイしていた乙女ゲームの名前。

 攻略対象が多く、複雑に関係し合っていて、攻略が難しいゲームだった。

 人気があったため、続編の話題も上がっていたが、その後、本当に続編が出たのかは知らない。

 多分、私はその前に死んだのだ。


 召喚の儀式があった、あの日。

 取り戻した、前世の記憶。


 私が転生した悪役令嬢の最期は――物語の主人公がどのルートを選んでもすべて同じ。


 ステラ・アステリアの最期は――全ルート『処刑』であり、ステラが生きて終わるエンドは存在しない、ということだった。


 でも――兄には本当のことを言えなかった。

 ステラの死が『処刑』であるという最期を伝えれば、なぜ処刑になるのかを話さなければならなくなるから。

 だから、兄に伝えたのは死んだ後の私の()()


 第二王子との婚約破棄はステラが処刑になる原因が理由なのだけど。

 なぜかこの世界では女神テミスの予言により、先に婚約が解消された。

 ただそれでも、処刑の原因はまだ残っている。


 ルートによって処刑の方法は変わるが、その理由はたった一つだけだった。

 だから、それさえしなければ処刑は免れるはず。


 けれど、それをしないようにするには、別の方法を考えなくてはいけない。

 それを回避するためには、本来、主人公(ヒロイン)が見つけるはずのものを私が彼女よりも先に見つける必要がある。

 それを使って、攻略対象を救うのだ。


 これから起こる問題が誰の身に起きるのか。

 それはきっと、主人公(アリサ)が誰を攻略するかによるのだと思う。


 彼女が誰かを選ぶ前に、私が見つけなければ。


 まずはこの国にある神話について調べよう。

 幸い私には宮廷法官の兄がいる。兄からなら、何か手がかりが得られるはずだ。


 けれど、兄との関係に気まずさを感じてしまった今、正直、この話を二人きりでするには少し躊躇いがあった。

 できることなら兄と二人きりは避けたい。

 そう思っていたところにシアンが同席を求めてきたのだ。

 有難い誘いに、私は大きく頷いた。





「この国の神話?」


 サロンに来て、侍女を下げ、三人になるとステラが『この国に神話はないか』と聞いてきた。

 俺も、ヴェガードも、首を傾げた。


「いや……聞いたことがないな。シアンはどう?」

「……ない」

「そう……」


 明らかに落ち込んだステラにヴェガードが聞く。


「神話が何か関係しているの?」

「ええ。私が話した創作物の題名が《星の花の神話を聴かせて》というの」

「星の花……」


(――星の花……どこかで聞いたことがある)


 少し考えていると、ヴェガードが口を開いた。


「宮廷でも調べよう。王城の図書館にも資料があるか、調べてみるよ」

「ありがとう、兄さま」

「可愛い妹のためだからね。御安い御用さ」


 にっこり笑いながら、いつものようにヴェガードがステラの頭を撫でようと手を伸ばす――が、その手が触れる直前でステラは避けた。


 ヴェガードの手が空中で止まる。

 ヴェガードも、俺も、そして、その手を避けてしまったステラ本人でさえも、驚いて固まった。


 張り詰めた空気がサロン内に漂う。


「……どうしたの? ステラ」


 空中で止まった手を戻し、ステラの顔を心配そうに覗き込んだヴェガードが優しく語りかける。


「……ごめんなさい。兄さま」

「いいよ。何かあるなら、言って欲しいけど」

「…………」


 ステラはそのまま黙ってしまった。

 まさか自分の兄を恋愛対象として見てしまいそう、などと本人を目の前にして言えるはずもない。

 理由を知っている俺からすれば、仕方のない行動かとは思うが、理由を知らないヴェガードからすれば、急な態度の変化に戸惑うのも無理はない。


 ヴェガードはそれ以上理由を追及するのを諦め、話を切り替えた。


「じゃあ、それらについて調べてみるよ」


 そして、そっと席を立つ。


「今日は少し仕事を持ち帰ってきたんだ。終わらせてくるよ。シアンはゆっくりしていってね」


 ヴェガードはサロンを出ていった。

 ステラは落ち込んだように俯いたままだった。

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