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自分の対象外には興味がない

好きな事ばかりで生きてました。

 再びどこかの建物の上に一時停止。


 メイは羽でホバリングしながら。

 ルーフはそんな妹の浮遊する体を片手で掴み、もう片方の手にはしっかりとスマホを。


 画面の中の動画サイト、そこに流れている映像。


 リアルタイムの電子情報と、肉眼によってもたらされる生々しい現実。


 そんな事をしたって無意味であると、自分自身が一番強く訴えかけているのにもかかわらず、ルーフは何故か画面と肉眼の行き来をせずにはいられなかった。


 片方を見てはもう片方を見る、空虚なるやり取りを数回ほど。


 そうすることで、そんな事をするまでもなく十分が過ぎるほどに自覚できる事実を、しっかりきっかりとその身に浸透させることになる。


「行きますよ、お兄さま」


 メイが乱れた息遣いで、それでいて意思がしっかりと灯った声音で兄に指示を出す。


「ああ、そうだな」


 もはやそれは必要ないと、ルーフは光り輝くスマホを懐にしまって現実だけに集中力を割く判断をつける。


 兄妹が目指す場所、二組の瞳が凝視している光景。


 そこそこに高度のある、人の頭を粉砕するには十分な高さのあるビルの屋上。

 すでに完成され尽くしている建造物、その屋上から異物感たっぷりに生えている黒々とした何か。


 はたしてあれは一体何なのだろうか、遠目から見る形だけで判別するならば成長著しい若木のように見えなくもないが。


 しかしそのような奇怪なる建築物の事は今は特筆すべき事ではなく、それ以上の異常がその場所には絶賛現在進行形で繰り広げられていた。


 兄妹達は言葉で示し合せることを必要とせず、自然と方向をおなじものに定めて体を動かす。


 やはり正体も用途もあずかり知らぬビルの上、決して広々と形容できそうにはないほどの広さだけがある屋上。


 そこには複数の人々がひしめき合っていて、そのうちの数人は屋上内に入りきらず柵の辺りやらビルの側面やらにつかまっていたり、あるいは若木のように見えた金属質の塊にへばりついていたりと。


 とにかくたくさんの人間が屋上内にて密集しており、駅構内やら都市の中を歩いている時とは異なる嫌悪感がルーフの下の上を苦々しく染める。


 こんなにも大勢いるのにもかかわらず、屋上に集まっている人々にはどうにも統一感が足りない。


 生き物としての種別はもちろんの事、身に着けている衣服も皆一様に勝手それぞれ。


 その姿はルーフの価値観における「社会人」のイメージとは遠くかけ離れていて、どちらかといえば休日にたまたま集まってしまった謎の集団にしか見えない。


 だがそれは自分の勝手な虚妄でしかないと、今回ばかりはルーフにもすぐに察することが出来た。


「この人たちは、みんな魔法が使える人なのでしょうね」


 疲労に乱れる呼吸音の隙間、火照る体でメイが兄に軽やかな確認行為をする。


「ああ、そうだろうな」


 汗が滲む妹の手を握りしめながら、ルーフは短く深く息を吸って近くにいる誰かに声をかけてみる。


「あの、これは一体どういう状況なのでしょうか?」


 現実で言葉にしてみれば間抜け極まりない、それでいてしかも自分たちはこの場において何一つ関与をしていない部外者である。


 よもやまともな答えが返ってくるとは思っていなかったのだが。


「ああ、あれね」


 しかし意外なことに声をかけた魔法使いは、それはほうれい線がくっきりと刻まれたつぶらな瞳の女性だったのだが、彼女は正体不明の兄妹にも狼狽えることなく淡々と、現場の状況に対する情報を言葉にしてくれた。


「あなたたちも興味が出るのは仕方ないにしても、こんな所にいると危ないわよ」


 丁寧に心配までしてくれる彼女の厚意。それをロクに受け取ろうともせずにルーフは軽く礼を言った後上を、魔法使いたちがじっと見つめている場所を見上げる。


 そこにはやはり金属質な枝が空間にのびており、その隙間には動画で見たものと同じ生き物が───。


 ………はて? とルーフは肉の伴った視界の上で疑問を抱く。

 あれは一体何なのか、怪物であることはもうすでに自分にも解している事ではあるものの。


 さて、それにしたってアレはいくらなんでもおかしすぎないだろうか。


 怪物の現状がどうなっているか、そのこと自体は動画から与えられる情報にて既に認識してはいる。


 こうして実際に目にしてみてもやはり、その姿は最初に抱いたものと同様で、そこは別に何の問題も。


 それよりも、それ以上に、はたしてあれは何なのか? 理解を通り抜けた深層でルーフは誰にも答えてもらえそうにない疑いを抱く。


 あんなのが、あんなよくわからない形をしているものが、なぜこんな所に、こんな世界にいるのだろう。


 首をかしげそうに、なった所で。


「うわーっ」


 誰かの悲鳴が少年の耳を刺し殺すが如く刺激した、聞き覚えのある声であまり聞きたいとも思えない声だった。


「誰か落ちてくるぞ!」


 傍観者たる魔法使いの中の誰かか察しよく叫んでいたような気がする。


 だがその言葉はルーフの脳味噌に届くこと叶わず、それよりも先に彼の体は上空より振り下ろされた黒い塊に激突されていた。


「ぐああ?」


 最初の瞬間こそ、まさか唐突に何の脈絡もなく隕石が降ってきて、たまたまの偶然に自分の体に直撃したものだと。

 そうだとすれば死ぬことが出来るのだろうか、であるならばできるだけ即死の方が自分的には有難い。


 等々、そんな下らない妄想を考えてはみたものの。


 しかしルーフはすぐさまそれが、自分の体にぶつかってきたそれが何者であるか、自分でも驚くほどのスピードで判断することが出来た。


 ずるずると転がる二人の若い人間の体。魔法使いたちが急激に自分たちのほうへやって来た以上に驚き、悲鳴をあげるよりも早くその体を後退させる。


 海が割れるように、集団の然るべき無意識の内によって作成された空間。


 その中心において二人の若者はそれぞれの思惑の中、今この瞬間においてのみ同様の感覚をその身に宿す。


「痛ってえ………」


「あ痛たた……」


 単純な筋力の差も関係して、先に行動を再開したのは空から落ちてきた方の若者。


「うわあ! すみません大丈夫ですかお怪我ございませんか!」


 激突を果たした割には、と言うよりはむしろそういった衝撃による賜物なのか、おぞましいまでの早口で口を動かしている。


「あれえ! 仮面君、なんでこんな所に?」


 キンシと言う名の魔法使い、ルーフは数時間ぶりなのか詳しいことは分からずとも、そう大して久しぶりでもないその見慣れた顔面を嫌と言うほどに見た。


 見た後で目を逸らそうとしても、盛大に乱れまくっている黒髪の中に光る白髪がチラチラと、どうしようもなく彼の目線を誘惑して。


 秒を待たぬうちに彼の心にはすっかりなじみの嫌悪感がポツポツと涌き出てくる。


「いえいえ、そんな事よりもですね。すみませんぶつかってしまって、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」


 自分の失態の被害者が知人であることに安心したのか、キンシは幾らか落ち着きを取り戻してすぐに立ち上がり、姿勢を正し少年に向けて改まった謝罪を向ける。


 真っ直ぐと力強く伸びている背筋。

 姿勢と言葉遣いこそ丁寧さがたっぷり含まれているにしても、その声音やらゴーグルの隙間から見え隠れする表情やらには少年に対する怪訝さが滲み出ている。


 キンシは口を動かすこともなく、唇を結んだままルーフへ手を差し伸べてくる。


 そのなんて事のない動作ですら、自分が此処にいることに対しての疑問やらなんやら、無遠慮な好奇心が覆い隠すこともせずに噴出しているようで。


 きっとその顔を覆い隠しているゴーグルを取りはずしたならば、奥にある眼球は好奇心に爛々としているのではないか。


 その事を考えるとルーフはどうにも、気だるい気分にならずにはいられなかった。

しかしいつか限界が来るのでしょう。

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