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鉄板仕組みは同様です

間違いさがし。

 それでもここに彼がいるわけではなく、だからこそルーフは必要以上のことを言う気も起きず、透明な傘の内から仕方なしに灰笛の集合住宅を見上げてみる。


「それで、どうやってこの荷物をそこに届けるべきか、どうしたもんかな」


 ここがもしも普通の、何の変哲もなく人が多いだけの都市部であったならば、階段なりエスカレーターなりを使用してその206号だかの割り振りがなされている部屋に迎える、そのはずなのだが。


 しかし残念なことに、この灰笛は魔法使いの町であり魔法使いが、それはもう沢山暮らしまくっている。言わば普通なんて概念とは遠く遠く、遥か彼方に位置している都会なのである。


 そうとなるならば、そうであるはずならば、この集合住宅の内部の普通であるはずがない。


「そもそも、階段で登れるような造りにすら見えねーし………」


 仮に人間が階上へ上昇するための手段があるとしても、果たして今の自分に、片手に傘ともう片手にそこそこ重い段ボールをぶら下げている自分に、この高層住宅を探索できるほどの体力気力があるのか。

 その辺からして怪しい所で。


「ねえ、お兄さま」


 そうだ、それ以上に、今は妹が傍にいる。体の小さい、しかも雨に体を冷やしてしまっている、彼女に無暗な苦労を掛けさせるなどと、それこそルーフにとっては信じがたい選択である。


「お兄さまったら」


 そうと決まれば、いい感じの───。


「お兄さま!」


「うわあ?」


 急に体が下に強く引っ張られたので、ルーフは予想外の驚きに大げさな声を上げてしまう。


 見るとメイが懸命に手を伸ばして、ルーフの着ているとてつもなく一般的なデザインのパーカーの、柔らかい裾に穴を開けることもいとわず爪を食いこませていた。


「ど、ど、どうしたんだよメイ? そんな慌てた顔をして」


 妹の行動にルーフが確信のある疑問点を抱くよりも先に、彼女は黙ってもう片方の爪でとある方向を指さした。


「………んん?」


 その指の先、彼女が驚いた原因は割とすぐ近くに、もとい転がっているというべきなのか、とにかく存在していた。


 それは。


「板?」


「板、ですね」


 視覚的情報を得た時間の差によるものなのか、兄よりも先に幾ばかりか冷静さを取り戻してきたメイは、握りしめていた指を開放してゆっくりとそれに、その箱に近付いてみる。


 その板はルーフの抱える段ボール箱の数倍は大きく、メイはいつかのテレビドラマで見たサーフボードの事を連想して。


 してみたものの、現実に伴って観察を繰り返し重ねていく内に、その想像が間違っている物だと思い知らされていく。


 まずその板はとてもじゃないが水に浮きそうにない、全体から重厚さをこれでもかと漂わせている金属質である。

 あえて見慣れた物体で無理やりに例えてみるならば、マンホールを伸ばして角をつけたような感じ。


 ちょうどよく模様が刻み込まれている所が、よりそれっぽくなっていると思える。


「ふしぎな板、どうしてこんな所にころがっているのかしら?」


「おいメイ………、あんま近付くんじゃ………」


 その時ばかり、そんな時に限ってルーフの想定は的確さを発揮してしまい。それまではだだの、いつの間にか道端に転がっているだけの鉄製の板が突然、


「わ、きゃあ?」


 ジャラジャラ、ジャララッ、金属質な連続音をけたたましく鳴り響かせて、板がまるで意思を持っているかのような自働性でメイの元へと寄ってきたのだ。


 まさしく、少なくともこの場面に遭遇した人間、つまりは兄妹のどちらも予期していなかった現象に、二人は周りもはばからず悲鳴をあげる。


「メイ!」


 なんにせよ、とにかく目の前に意味不明から妹の身だけでも守ろうと、ルーフは牙をむいて自動する鉄板に近付いてみる。


 そうすることにより嫌でもその、謎すぎる鉄板の姿をまざまざと子細に見ることが出来るようになってしまう。


 てっきりそれはふわふわと、魔法のじゅうたんのように重力に逆らっている物だと思い込んでいたが。 

 よく見るとそんなことはなかった。それは決して飛んでいるわけではなく、その代わりに体を支えているのはジャラジャラと沢山連なっている、同じく金属質の鎖によるものだった。


 子供の身長ほどに大きい鉄の板。

 それをまるで神経の通った肉体の一部のように、板が本体なのかそれとも鎖の方なのかあずかり知らないが。


 どっちにしても鎖の連続はまるで触手のようにアスファルトの上を這い回り、ルーフは頭を四角くぺしゃんこに潰されてしまったタコの姿を、その魔法らしき道具から想像した。


「えーと?」


 色々と言いたいことがあり過ぎて、逆に沈黙してしまうルーフとメイ。


 兄妹達の一心な視線を浴びながらその魔法道具は平然と、道具としての存在を誇示するかのように無感情で、一定した安定さを保ちながら自動で移動をする。


 そして不安定に震える彼を通り過ぎ、そこに大した意味あるかどうかは関係ないにしても、なぜか彼女の方に近付いて。

 

 金属の音を奏で、刻印の溝に雨水を見たし、鎖に露を光らせ。


 どこかうやうやしさを錯覚させる動作で、彼女の足元に体を傾け。


 そして。

かしが意味不明。

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