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質問に答えよ

それはあまり追及されたくないこと

「それで?」


 まだあまり年齢を重ねていないように見える、男の魔法使いは腕を組みながらじっと自分よりも若い後輩を見下ろしていた。


「なあキンシよ、俺は今色々と聞きたいことが、この状況について知りたいことがあるんだが?」


 キンシと呼ばれた後輩魔法使いが、にへらにへらと口元を歪めて相手の様子を探る。


「どうぞどうぞ、何でも聞いてくださいなオーギ先輩。好奇心は魔法使いの始まり、ってよく言うじゃありませんか」


 後輩からオーギと言う名前で呼ばれた若い男は、依然として腕組みを固くしたまま、視線もそのままに質問文を続けていく。


「とりあえず……あれだな、これはどういうことだ?」


 姿勢を崩すことなく、オーギは顎だけでキンシの背後にいる「色々な事」を指し示した。


 どういうことだ、と問われてどう答えるべきなのか。どうすればこの状況を自分にとって平和的に解決及び回避できるのだろうか。それはキンシには全く分からないことであった。


 灰色のゴーグルに覆い隠され可視出来なくなっているキンシの目玉、だがオーギにはその下にある後輩の動揺しきった瞳の震えが安易に想像することが出来た。


 漏れ出出そうになる溜め息を噛み殺して、オーギは一旦すっかり萎縮している後輩から目を逸らし、その後方に佇んでいる生き物たちに視線を向ける。


「……………」


 生き物たちは総じて沈黙の中で、堂々と腕組みの姿勢を作っている先輩魔法使いの事を凝視していた。


 その中の片方、自分よりも背が高く年齢も人生経験の層も沢山ありそうな青年。そちらはオーギにとって見慣れた人物、いつも後輩であるキンシのそばに存在している。


 トゥーイと周囲の人間から呼称されている青年は、紫キャベツのような虹彩をじっとオーギに向けて、時々思い出したかのように瞬きを規則正しく繰り返している。


 その無機質な視線を一身に浴びながら、いまだ慣れぬ感覚がブツブツとオーギの肌を這い回りそうになり彼は急いで、それを気取られぬよう無表情に徹しつつ青年からも視線を外す。


 だがそうすると、そうすることによってオーギはもっと見たくないものを見ることになる。

 見ざるを得ない、トゥーイの背中にへばり付いている、何事も問題なく当たり前の表情を浮かべて、じっと自分のほうを不思議そうに見つめている。


「……… (・-・)」


 灰色の、つぶらな瞳をした人間のような生き物。


 それはオーギにとっては紛うことなく、否定もしようもなく本日初めて見る生き物であり。

 そして同時に現在彼の頭の中を(さいな)んでいる、今日と言う人生においてごくごく短い限られた時間の中、その中に置いて多大なる不安をもたらす。


 そういった感覚がオーギの脳内において猛烈な勢いで建築されていた。


「とにかく、だな」


 状況の理解は後回しでいいか。オーギはとりあえずの判断をつけて、まず最初にこの場合における何よりの参考意見を述べるべき人物に質問を投げかけてみた。


「なあ、キンシよ」


「何でしょうか、オーギ先輩」


「トゥーイの背中にいるアレ、アレは一体何だ?」


 オーギは腕組みを解いて硬直しかけていた体を少しだけ開放する。


「アレと言うか、彼なのか彼女なのかもよく解んねーけど」


「オーギ先輩、この人の名前はミッタさんと言います」


 キンシは何故か自信ありげに、この場合においては何一つとして有益でもない情報をオーギに伝えてくる。


「ミッタさんは昨日、ほら、オーギ先輩がシマエ嬢とデートランデブーランチしていた時に」


「止めろ、嬢とか言うんじゃねえ」


 後輩の品のない語り口調を軽く諌めつつも、オーギはその先の言葉をじっくりと待つ。


「その時に僕は綿々で昼食を澄ますことにしたんですけれど、その時に彼方さんが店に突っ込んできましてね、それを退治したら揺り籠の中からミッタさんが……」


「は、え? ちょ、ちょっと待て」


 連続する情報の峰々にオーギは戸惑い、一旦後輩の事情説明を中断させる。


「彼方が出たって、お前……そういうのはなあ、ちゃんと俺に連絡しろって何度言ったら……」


 早速喉から溢れそうになる叱責を、だがオーギは最後まで出し切ることなく途中で切断する。


「いやあ……だって、」


 キンシはしどろもどろに苦し紛れな言い訳をする。


「社長の御令嬢と会食っていう試練の中、その渦中にいるオーギ先輩を呼び出しするなんて無粋な事、僕にはとてもできないですよ」


 付け入る隙を見出したつもりなのか、キンシの言葉に僅かながらの軽薄さが見え始めてくる。


 だがオーギは姿勢を崩すことなく、むしろいよいよ本格的に語気を強める判断をつけることが出来た。


「心遣い感謝するよ、おかげで昨日はそれなりに楽しかったさ」


「おお……! それはそれは、よかっ」


「だが、それとこれとは別だ。報告義務の怠慢はまた今度、じっくりコトコトと語り合おうや」


 オーギはにっこりと、満を持して登場したホラー映画のモチーフキャラクターのように笑う。


 それと相対するように、ぽっかりと浮かびかけた明るさがキンシの顔から急速に消失していく。


 人間の顔面に、骨と肉と皮の上に、不可視の領域で明滅する感情の流れ。

 それから目を離すことなく、オーギはキンシに本題を投げかける。


「それで、その彼方から出てきたっつーチビッ子を、こんな所に連れて来て、お前はどうしたいってんだ?」

誤魔化しが昔から下手くそでした。

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