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イリーガルな移動時間は止めなさい

危ない歩き方、

 景色は早々と流れ、体はどんどん高度を増していく。

 まばたきを十回重ねる暇も与えられず、魔法使いたちはあっという間に電信柱や壁の側面を伝い、建物の屋上まで上り詰めてしまった。


「さてと」


 キンシは屋上に、とても人の出入りを許容されている環境ではなさそうな、砂埃まみれのその場所。そこの端っこ、申し訳程度に設えられている金属製の手すり、そのふちっこに足を並べる。


「えっと」


 若干息を乱しつつもハッキリとしている視界のなか、キンシは現在地と目的地の方角を軽く確認する。


「ここまで来て、あの看板があそこあるってことは………。……んー?」


 使い慣れぬ道筋ゆえに本来あるはずの土地勘を失っているキンシ。そんな若者を見かねたトゥーイは、何を言うでもなく、ミッタを背負ったままの恰好で魔法使いに見える位置に指を指し示す。


「ふむふむふむ」


 青年の指し示す方角を確認したキンシは、二回ほど素早く頷くとすぐさま体に力を入れる。


「なるほどなるほど、確かにそっちかもしれませんね。よいせっ」


 何のためらいもなく階段の一つを下るかのような足取りで、キンシの体が屋上から落下していく。


 そのまま落ち続けて、若者の体は地面と衝突して大玉スイカのように粉々に。なんてことにはならず、その体はやはり重力に逆らってフワフワと、軽々しく滑空してつま先が隣の建物に引っ掛けられる。


 そのままキンシは次々と建物上を飛び跳ねていき、ゴーグルに守られている目で跳躍しながら周囲の風景に意識を巡らせていく。


 地面の上では歩いている人が、正しい移動方法の一つをきちんと使っている人々の姿がチラホラと見える。早くも降り始めた雨に染められる彼らは、きっと自分と同じくこれから仕事に向かうのであろう。


 時折人々は頭上の気配、わざわざ魔法なんかを使ってまで電信柱の上に立っている珍妙な人物、つまりは禁止たちのことを眺め、その姿をまじまじと数秒だけ眺める。


 だがすぐに興味を失い、あるいはそんな面倒くさそうな奴に朝っぱらから関わり合いたくないのか、すぐに何事もなかったかのように目をそらして自分の目的だけに意識を向けて歩き去っていく。


 そういった反応がほとんどで、それらを繰り返していくうちに青年の背中にいるミッタは何となく、心の内がそわそわと落ち着かなくなってきていて。


 そうなったころには建物の波はだいぶ高さを増し、風はより冷たく雨は強く皮膚を打ち付け、地面には人の気配が沢山に、そろそろ大通りの一つが近いのか車のエンジン音が空気の中に含まれ始める。


 キンシがどこかしらの何かしらの建物、その上にある貯水タンクらしき物体に着地した、そのあたりで。

 魔法使いたちの頭上を一つの大きな影が横切って行った。


「? ? (゜o゜)」


 ミッタが不思議そうに、空中を通り過ぎていくその機械を眺める。


 ブゥゥーンン………。

 低い、獣の唸り声のような音を立てて過ぎ去っていくその機械は一見して地面を走るタイプの二輪車に似ていて、実際にそれは人の手によって作動しているものであった。


 しかしそれはどうにも、普通の町を走っているような二輪車では決してなく、なにせ空を飛んでいるしそもそもその機械には車輪にあたる部品が付いてすらもいない。


 代わりについている、とでも言うべきなのか。その運搬用機械には巨大な、それこそ大玉のスイカほどの大きさの、キラキラと発行する鉱物が埋め込まれていた。


 普通の二輪車でたとえるところの後輪があるはずの場所、その部分に紫水晶をそのままくり抜いてきたかのような、粗雑な研磨がされている石がさも当たり前のように機械に組み込まれていた。


 ブゥゥーンン……。

 鉱物を搭載したバイクは、給水タンクの上の子供たちのことなど全く気にかけるそぶりもなく、安全運転と思わしきスピードでそのまま飛び去っていく。


 その先には大通りがあり、屋根の上から地面を走る車をうかがい知ることはできなくとも、その上に走っている、もとい跳んでいる車の流れを匂いと共に確認することができた。


 ミッタは遠く彼方、地面の上からでは見ることのできないその風景。まるで水槽の中を泳ぎ回る魚の群れのような、一定した規則のあるその機械の流れをもっとよく見ようとして身を乗り出し、うっかりトゥーイの背中から落ちそうになる。


「よし、ちょうどいい感じの時間ですね」


 キンシは手袋を軽くまくり上げ、左手にある時計で時刻を確認する。


「こっから一気に跳びますよ、せーの!」


 とぶ、………跳ぶ? 

 

 何のことか、ミッタがそれに気づくための時間。

 それすらも与えることもせず魔法使いたちの体は今度こそ高々と、それこそ飛行に値する勢いで跳躍し始めた。


「わ、あーあ! (〇□〇;)」


 もうすでに、早くも魔法の移動に慣れていたはずのミッタも、その大跳躍には盛大なる悲鳴をあげずにはいられなかった。


「間に合えー!」


 正しい重力、ごうごうと唸る風の中、キンシの視線はまっすぐ下方に。町中の道路の上を走るバス、鉱物に頼り地面以外を走る力を備えたタイプの車両めがけて、隕石よろしく落下して。


「よいしょ」


 バスが走り去る、そのギリギリでキンシたちは何とか車の天井部分に体を引っ掛けることに成功した。


「うわわっ」


 トゥーイのほうは静かに優雅さを感じさせる動作でそれをこなしたものの、キンシのほうは勢い余ってバスの上をゴロゴロと転がる。


 くるくるとかき乱された脳細胞、ふらつく仕草で立ち上がりながらキンシは幼児に向かって、いかにもなキメ顔で歯を見せてくる。


「いやー、いやはや。間に合いましたね、よかったよかった」


「………… (=‐=;)」


 玉のような汗をびっしり浮かべている魔法使いをミッタは、自分も同じく汗だくになりながら、そしてそれを風の中で涼やかに冷やしつつじっと見つめた。  

大満足に走り抜けます。

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