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ドキドキ灰笛常識クイズ

型が不思議

 それってつまり、つまりはそういうことになるのだろう。なるのだろうか?


「えっとつまり………」


「つまりは」


 キンシはルーフの言葉をそれとなく予測して、皆まで言わせる必要性を特に見出すことも出来ず、あえて台詞をいくつか脚色して先取りする。


「ミッタさんは僕等とは少し違う生き方をする、ってことになりますね」


 すでに自分のすぐそばまで、少し体を動かせば衣服が擦れ合いそうなほどに近付いてきている少年。振り向けばすぐに見えるであろう彼の表情を、あえて一切見ようとせずにキンシは結論を結び続ける。


「だけどそれがどうしたんですか? 何か問題でもあるんでしょうか?」


「何かって、そりゃあ……」


 思いがけず至極簡単そうな質問をぶつけられて、ルーフは少し戸惑いながらもすぐに答えを魔法使いに投げ返す。


「色々と、問題ありまくりだろうよ。だって、そんな」


 答えを音声にする、その動作の中でルーフは改めてキンシのそばで食事行為をしている生き物を見る。

 明らかに、どう見たって、自分と同じ何の変哲もないただの人間の、それの幼いバージョンにしか見えなその生き物を、躊躇いもなくジロジロと見る。


「そんな………」


「そんなこともあんなこともみんなみんな、だからなんだって言うんですかね」

 

 何かしら未来でも見据えてしまいそうな、くだらなく歌うかのようにキンシは質問かどうかも判断がつき難い言葉をルーフに送り続ける。


「そんな人は、ちょっと人とは異なる人なんてこの世界の何処にだっていますよ。特に驚いて注目するようなことでもありません、ちょっとだけ僕らの乗っている乗り物と型が違うぐらいで、何を驚く必要があるってんですか」


 そこでようやく、ルーフは魔法使いと視線を交わすことになる。

 相手の方から首をほんの少しだけ傾けて、自分の方をじっと見つめてきたのだ。


 ミッタと呼ばれている生き物の事を凝視していたルーフは、特に工夫も見られない程に自然な動作の一環としてキンシと見つめ合う形になり、とっさに自分から視線を外してしまう。


 こっちは無駄に分厚くて重苦しい仮面の隙間からで、あっちは灰色の透過性が一切含まれていない分厚そうなゴーグルである。


 互いの視線が確実に交わったかどうかなど、明確さなんてそれこそ一切ないはず。

 そうであるはずなのに。


 しかしルーフは何故か、相手の表情が見えたわけでもないのに冷や汗が皮膚の合間から滲み出るのをじっとりと感じていた。


 蛇に睨まれたなんとやら、瞬間そのような意味合いの単語が脳裏を走り、立ち止まることなくどこか遠く彼方まで走り去っていった。


「あっとえっと、とにかく!」


 勝手に重力に従って流れ落ちていく体液を出来るだけ無視するように、ルーフは海風に負けないよう大声を努めて発してみた。


「要するにこう言うことだろ! そのガキは」


 だがやはり、ルーフは自分の言葉を最後まで言わさせてもらえなかった。

 何故か、いつの間にか自分のそばにまで来ていたトゥーイによって、ちょうど程よく大きく開かれていた唇の隙間に何かの物体を突っ込まれたのだ。


「ごぅ? げほっ!」


 石! 石が口の中に!

 思考の必要もなく本能的にそう察したルーフは、唾液を侵出する暇も与えず挿入された異物を激しく吐き出した。


「何を……!」


 繰り広げていた話の展開を一時忘却して、ルーフは青年に一言然るべき文句を呈しようとして。

 だが青年の姿を、彼が今まさにしていることをして声が出なくなる。


 ぼりぼり、ぼりぼり、もぐもぐ、もぐもぐと。青年は食事をしていた、ミッタと同じと思わしき、そうとしか見えない物体を口の中に入れて、少年に対してこれ見よがしにそれを歯で砕いて次々と飲み込んでいた。


「おやおや駄目じゃないですかトゥーさん、こんな朝っぱらから非常用オヤツを食べちゃったら、お腹が空いたときどうするんですか?」


 まるで不必要な間食をする子供に対してするかのような、そんな言葉をキンシはトゥーイに向ける。


「すみません先生」


 トゥーイは魔法使いの忠告にすぐに素直に従い、手の中にある花虫(はなむし)と言うのだったか、そういう名前の怪物の仲間を溶けにくいチョコレートを扱うかのように、ズボンの横ポケットにしまい込んだ。


 何だというのだ、これは一体。


「何だよ………意味がわかんねーよ」


 理解できない現実に、許容し難い事実に、頭痛が、吐き気が。


「でも仕方ありませんよお兄さま」


 彼の熱っぽくなっている耳に、メイの冷静な声が降り注いだ。


「ここは灰笛なんです、私たちのしっている場所とは、あの家とはぜんぜんちがう世界で。だからまあ、あまりこまかく気にしていても、疲れちゃうだけですよ」


 彼女はそれこそ珊瑚のように硬直している兄の体を、皮ふの下にある筋肉を直接触れるかのように、優しくそっと爪で引っ掻いてみる。


「わからないことは、あとでゆっくり考えればいいんです」


「………そうだな……」


 そんな暇などなく、自分たちにはそうできる余裕も残されてはいない。


 兄妹はそう自覚していながらも、互いにそう思い込むことでしか、現実を受け入れそうになかった。 

未知にときめいています。

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