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埋められた鉄の蛇

思い出して、

 なんといってもそこには、その部屋にはたくさんの本があった。それはそれはもう、大量に溜め込まれている本が細長い部屋の中に、その床の範囲が許される限り本が設置され、子供部屋のおもちゃのように散らばり、高々と積まれていたのだ。


 ルーフはその紙製の山脈の中で一段低くなっているほうへ、自分が蹴とばしたことによって等を崩壊させたほうへと近づいてみる。


 屈んで見ると山の一つを形成していたその本は、そのほとんどがいわゆる文庫サイズと呼ばれる形状で流通している、小さく手のひらサイズにまとめられている書籍だった。


 安上がりの保存を主要としない、中身の文章を世に流通することを本懐とした設計の本。


 ツヤツヤでペラリとした表紙にはまるで統一性がなく、目を凝らす必要性もなくさまざまな種類の、それは例えばフィクションであったりノンフィクションであったり、とにかくあらゆるジャンルの書物があることぐらいはルーフにもすぐに理解できた。


 ふと、紙によって構成されている雪崩の中で彼の視界にとある本が目に留まる。


 好奇心のみの限りなく無心な動作で、ルーフはその本を雪崩の中から拾い上げる。

 それもまた文章を内蔵された本で、見たところ少し分厚めの小説のようだった。

 

 ルーフという名のこの少年は別段読書を好む性質ではなく、なんならこの部屋に溜め込まれている本の、おそらくほとんどが小説だと思われるそれらのことを彼はほとんど、内容はおろかタイトルや作者名におよそ興味など抱かない、そう自信満々に主張できてしまうほどに本が好きではないのだが。


 しかしその本だけは、いま彼の手の中に握られているその本だけは少年の心を妙に惹きつけていた。


 自分自身のささやかなる心理に理由を見出すより先に、ルーフはそれとない動作でその本の表紙を眺める。


 そして、ああなるほどな、と行動よりも先に納得だけが自分の心に落ち着いた。

 その本はいわゆるノベライズで、内容としてはとある少し昔のゲームを原作に置いた作品だったのだ。


 原作におけるゲームを彼はプレイしたことがない、だが名前だけなら聞いたことがある。

 たしか………、なんと言うべきなのだろうか、「大人のかくれんぼ」的な感じのゲームだったような気がする。実際に遊んだことがないので、そのたとえが正解しているかどうかは今は確かめようがない。


 なんにしても、ルーフの思考はスルスルと仮定を結ぶ。

 たぶんおそらく、勝手な予想としてはこの部屋の主もそのゲームをプレイしたことなどないと思う。

 そんな気がした。


 まあ、それはそれとして。

 今はそんなことをどうこう気にしている場合ではないだろう。


 兄がらしくなく本に夢中になっている間、妹のメイは床以外の部屋全体について考え意見を作り出していた。


「ああ、やっぱりね………」


 彼女は狭苦しい足元に十分気を配りつつ、ゆっくりと慎重に歩を進めながら部屋の内部に対して確信を築き上げる。


「このお部屋、アレででつくられて……。いえ、まさしくアレそのものにしかみえないわ」


 メイは小さな文庫本の山を一つ越えて兄に同意を求める。


「ねえ、お兄さま?」


「うわ、あ?」


 すっかり文庫本に夢中になっていたルーフは、いよいよその中身まで指を馳せようかどうか悩んでいたところに声をかけられて、自分でも呆れてしまいそうなほどにオーバーなリアクションをとってしまう。


「あ、え、何? なんだよどうした」


 しどろもどろになっている兄に少し怪訝さを覚えつつ、メイはあまり気にすることなくもう一度意見を求めた。


「ねえお兄さま、このお部屋ってなんだか不思議な形をしていると思いませんか」


 持ち主が目と鼻の先にいる手前、はっきりと「変な部屋」と言い切ることにためらいがあったメイはそれとなく丁寧に、そうすることでむしろ失礼さが増してしまいそうなほどに気を遣った言い回しをした。


「ああ、えっと………部屋?」


 足元の、自分によってもたらされた崩壊部分に、そこに混ざっていた本にしか意識を向けていなかったルーフは、妹に指摘されたその時点でようやく自分が今立たされている場所の、その部屋の全貌を意識し始める。


 なるほど確かに、彼女が主張したことはすぐに理解できた。


 暗闇とそこから一転した明るさによってしばし麻痺していた空間への認識がその部屋に対する違和感を長細く、幅のバランスの悪さを訴えかけてくる。


 確かに本がありすぎて散らかりすぎて床面積はだいぶ圧迫されてはいる。

 しかしそれ以上の違和感がその部屋にはあった。


 人が住む部屋にしては奥行きが有り余りすぎ、人間が生活する空間にしては幅が狭すぎる。

 どうにも、どうしても部屋と呼ぶには居心地が悪そうで、どちらかといえば其処はまるで他人のにおいにまみれた温度のない外のよう。


 だがどうしようもなく見覚えがあって、兄弟にとっては本日の朝にちょうどその部屋の内装にそっくりな内部を備えた電動式の移動機関を使用したばかりである。


「なあインチキ手品」


「どうしましたか無能仮面君」


 ルーフはキンシに、部屋に暮らしているであろう住人に質問してみる。


「どうして、こんな地面の中に電車が丸々埋まってるんだ?」

これでいいのかと泣きました。

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