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知らぬが花なんて言えやしない

止まれ

 キンシは謎の言葉を使ってシグレと話す。


「シグレさん、彼と彼女はzexegyfe25に来た、まあ、何ですかね? l9b4d7なんですよ」


 謎の言葉で自分たちのことを紹介され、ルーフはどうしようもなく不安な気分に陥りそうになる。


 シグレは細長い米粒のような指を口元に添えて、キンシの言葉を脳内で租借する。


「フうむ………? l9b47、ネえ……」


 シグレはその方言と思わしき謎の音を、当たり前のように流暢に反芻する。


 そしてゴマ粒のように小さい、いかにも変温動物っぽい両の黒い目をルーフに向けてくる。


「コどもだけで? コんな怪しい危険な町に? アやしいなあ」


 よもや魔法使いと怪物がばっこするような場所で、巨大サンショウウオに身の素性を怪しまれる日が来るなんて。


 いやはや人生とは本当に、何が起きるのかわからぬ代物である。


 そんな感じに、ルーフが場違いな感慨に耽っていると。


「マあ、ナんでもいいか。6d94yこちらへどうぞ」


 シグレは勝手に、魚の小骨のような指を遠慮がちにメイへ添えて、彼女をとある部屋まで誘導しようとする。


「え、ああ、あの………?」


 最初とは打って変わり、いたって作業的で何でもなさそうな手つきで自分の体を案内してくる彼に、メイはついつい為すがままにされてしまう。


 入店してからというものの、彼女はずっと開いた口が塞がらないままであった。

 トゥーイの怪文法はいくらでも受け入れられたのに、なぜかシグレの外国語はどうにもうまく意識に取り込むことが出来ない。


 失礼な言い方をするとしても、彼の話す言葉はおよそ外見に見合わず人らしい音程を保っている。


 にもかかわらず、


「サーて、6dbs6dbs」


 どうしてこうも、この言葉は自分の心を不安にさせ、それと同時にデジャビュを与えてくるのか。


 こんな短い間では、彼女の意識は答えを得られそうにもなかった。


 彼らが黙り込んでしまっている間にも、シグレは至極当然といった動作で鼻歌交じりに幼女をとある小部屋まで連れ込もうとする。


「え、あ、おいちょっと!」


 ワンテンポ送れて行動しようとしたルーフ。


「ごゆっくりー」


 そんな彼の腕をつかんでキンシは治癒魔法使いたちを見送った。


 魔法使いからの無遠慮な抑止力に少年はあからさまな敵意を送る。


「離せよっこの………!」


「餅ついてください無能仮面君」


 キンシの言葉がパン屋のロビー部分にひと時の沈黙を転がした。


 一拍おいて、


「落ち着けって言いたいのか?」


 ルーフが細めた瞼の隙間からキンシに確認を取る。


「あ、そうですそれです」


 いい間違いに気付かされたキンシは、まるで彼の心情を汲み取る気すらない明るさを顔面に花開かせる。


「いやー流石、無能君は脳みその動きがすごいですね」


 肯定的なのか否定的なのかいまいち判断のつかない、オブラート並みに薄っぺらな世辞の言葉。


 魔法使いの引きつった笑みから、ルーフは相手が時間稼ぎをしようとしているのだと、そう決め付けることにした。


「うるせえ、うるせえよ」


 どうにもこうにも上手い言葉がすぐに見つけられず、糞餓鬼じみた罵倒しか言い残せなかった彼は、とにもかくにも妹とサンショウウオが入っていった、小麦の香りが一番強く立ち込める扉の向こう側へ突撃しようとして。


 しかしやはり、魔法が使える者にその行動を阻まれることになる。

 

 しかもさっきのキンシのとはまるで比べ物にならぬ、むしろキンシはだいぶ優しく彼を止めてくれていたのだといやでも比較せざるを得ないほどに、まったくの遠慮がないほどの指の力で。


「ぐ、ぎ? 痛、痛い痛い?」


 鬱血も骨折もかまわぬ。

 それほどの腕力で少年の腕をトゥーイは握り締めていた。


「なにすんだよ………?」


 今日という一日の間で立て続けに降りかかった意味不明によって感覚が麻痺していたのか。

 それとも単純にここまで生身の足で移動してきたことによって、疲労感が今になって増殖したのか。


 とにかくルーフはほんの数秒の間だけ、青年の腕力に屈することなく気丈に反抗の意思を向けてきた。


「離せ!」


「それは出来ません」


 彼の意見をトゥーイは間髪入れることなく拒否する。

 そしてやや無謀だと自覚していながらも、まるで何かを期待するかのごとく、少年に説得することを試みた。


「この身に飛ばせ飛ばせ個々のマカロンを彼女は花ではなくゾンビ製作所でもなく今夜のために肉体を回帰させる必要が」


 もうすでに語る必要性すら感じられないほどに、青年の言葉は少年に伝わることなどなかった。


「うるせえよ! いいから離せよこのっ………!」


 この場合にしてみれば賢明とも取れる判断で、ルーフはトゥーイの言葉を無視して彼の腕から逃れようとする。

 

 だが出来なかった。

 説明するまでもなく、少年よりも青年のほうが力が強かったから。


「ちょ、あの………!」


 ルーフにとっての怪文法の有益性を見出すとすれば、どんなに混乱を極めている感情でもその声を聞けばたちどころに不可解さによって心がぺしゃんこな平静状態に戻される。

 といったところだろうか。


 とにかく、たとえそれが一秒に満たなくとも心理に余裕をつくっていしまったルーフは、そこでようやく自身の腕に施行されている非人道的な握力に気付く羽目になってしまった。

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