言葉が通じず睨まれました
モチベーションが
スケートボード程の大きさのウーパールーパー。
全体的に白く、ところどころ生き物らしきほんのりとした赤みのあるサンショウウオ。
もといシグレと自らを名乗る自称男性は、油で揚げて塩でいただいたら美味しそうな体をプヨンプヨンと揺らしながら、しどけない腰つきでルーフの表情を飄々と観察してくる。
「ウーむ、b;fb;f、マた随分とちんちくりんなお客様だ」
「は、はあ………」
自分でもたいして大きくはないと自覚している身長、それの三分の一にも満たない全長のサンショウウオにそのことを指摘され、ルーフは一体全体どんな反応を示せばよいのか、完全に脳内で迷宮に入り込んでしまう。
「えっと?」
玄関先からメイが歩いてくる。
そしてサンショウウオの近くまで来て、一人ふむふむと頷いている彼にそっと話しかける。
「あなたがその………、この不思議なパン屋さんの経営者のシグレさんとかいう人、なの……、ですか?」
兄のルーフほど大げさではなくとも、彼女もまた崖の上にあるこのベーカリーの外見と内面のギャップに至極当然な驚愕を抱えていたらしい。
そしてこの不思議なサンショウウオ、シグレと男性的な声で名乗る生き物に対しても同様で同等の感情を抱いていることも、兄には理解できていた。
なんというか、もう。
この店のこと、そこで働くオーナーのこと、そしてそんな場所を当たり前のように知っていて、わざわざ自分たちに臆面もなく紹介してきた魔法使いの素性。
ありとあらゆることが不思議で意味不明で、とても少年の貧相な想像力では対応できる容量をオーバーしまくっている。
だからこそ、故に、ルーフは情報を集めるために必須な動作をしばらく急停止してしまった。
そのため、
「オお? 666!」
シグレなる生物? 意思の通う言葉によって意思が疎通できる分には人間として扱うべきなのか。
いったいどうすればいいのか?
なんにしても、彼はいかにも頼りなさそうな二本の後ろ足をヒタヒタとその場で足踏みし、太くて長い尻尾を起用に引きずりながらメイの声がしたほうを振り向くと、不思議な抑揚をつけて驚きの声を上げた。
「コれはこれは………! uysm/rode!」
パンくずを食べる池の鯉のように激しく口を開閉させて、彼はその体躯からはおよそ想像もつかない速度でペタタタ、とメイのもとへと駆け寄る。
「コんなところで、貴女のようなjd9に出会うとは………!」
「ひゃ、ひゃああ………!」
謎の造形をしている彼が不躾にも妹の体に触ろうとしているのを見て、ルーフは抱えてきた疑問をすべてかなぐり捨てる。
「おい、あんた」
ルーフの低い声音に、シグレは首だけを回転させて彼のほうを見やる。
意外と関節は柔らかいらしい。
そしてすぐに、いかにも人間っぽく言い訳の身振り手振りを作る。
「オっとっと、コれは失敬。イきなりのことで驚いたとしても、ナんの許可もなしに女性へにじり寄るのはアカンことだね」
シグレは簡単な謝罪だけをルーフに送ると、今度はそれとなく距離感と保ちながらメイに恭しく語りかける。
「オじょうさん、ミたところだいぶ疲労がたまっているようだね。チゆ魔法を使ったのは久しぶりだったのかな?」
ルーフからは丸っこい鏡餅のような背中しか見えなかったので、シグレがいったいどんな表情を込めてその言葉を妹に送ったのか、彼には分らなかった。
だから妹の瞳孔が静かにゆっくりと拡大された、その理由もよくわからなかった。
「あなたは、貴方は一体、何者なの………?」
若干、それほどの力をこめずに見開いた目のままでメイはルーフがずっと気になっていたことを、改めて問いただした。
シグレは細い腕を意味深に組み、いかにも楽しそうに彼女に向けて話した。
「サきほど申し上げた通り、ソれいじょうの情報なんて持ち合わせていないよ。ワたしはこのパン屋のオーナーで、ソして」
そこでサンショウウオの彼はだらりと体をリラックスさせて、じっくりと言葉を話す。
「シがない斑入り者。かつてはiy:yだった、ソしてそうしていることを捨ててしまった。タだの大ばか者で俗っぽいtuqのうちの一匹でございます」
「…………、……?」
兄弟は彼が何のことを言っているのか、やはりどうしても理解できず。
その場には気まずい自虐だけが蔓延っていた。
「シグレさん」
ずっとその様子を見ていたキンシが他人行儀に彼へ注意する。
「また方言が出ちゃってます、言葉が、z4dwjpy」
まるで習いたての外国語を使う学生のように、魔法使いはサンショウウオと同じ言葉を使った。
死に晒しました、殺したいです。




