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夏とはそういうものだ

夏とはそういうものだ


もわっとした湿気だけで懐かしいあの日を思い出す。

あのひ、もうここにいない彼女と待ち合わせをした。

待ち合わせ場所と時間がぐだぐだで、

一時間待っても出会えなくて、帰った直後に彼女がやってきた。

うだるような蒸し暑さに、彼女は隠されていたんだと思うことにした。

あの日、何もないと呼びたいほど静かだったアスファルト上で、

僕ら出会えていたなら幸せだっただろうか。

彼女が彼に告白できるかも、

彼女がいつまでも彼と一緒にいられるかも。


夏にすれ違った彼女は、受験生だった。

合格すれば、彼女は想い人とおそらく永遠にお別れ。

落ちれば彼女の夢は叶わないかもしれない。

誰がどんなことを幸せに思うかなんて、

まだ12歳の僕にはわからない。

彼女が合格して、僕が彼女の想い人と付き合うことになるのか、

彼女が落ちて、僕は初恋とさよならするのか。


夏の日差しは僕らを射すようだけど、

木漏れ日だけは優しかったことを覚えている。

屋上のプールでバカみたいな一発芸を披露して、

青い世界を見ていた。

たくさん水があるから、その中に涙を落としこんでも気づかないだろうね。


蝉の声がやかましい。

ポケットに一つだけ入れた液体ムヒを握りしめて、僕は神社の石段を上る。

石と石の隙間から顔をのぞかせる苔に足を取られないように気を付けて、

本殿の前に立った。

夏の涼しさに響き渡る鐘の音。

僕のほかに誰もいない境内。

雨が降ったわけでもないのに、やたらに湿っている。

僕は高らかに手を叩いて、

天邪鬼なお願い事をした。

「彼女が、彼女の想い人に、ちゃんと想いを伝えられますように!」

貼りつくような湿気にさえぎられて、僕の本当の心は神様にだって分からないはずだ。

だから、これで良かったんだよ。


雨が降らなくって、アスファルトはサイの肌のように白く乾いてしまった。

彼女のことを考えながら歩いていた。

子ども特有の楽観的思考と、思春期にありがちな鬱思考が混じって、

カラフルな雨を降らせていた。

リゾート地のような南風に

僕は目を閉じる。


夏がもう一回来て、家に挟まれた坂道に、

眠るようにたまる陽炎を見ていたら、

僕はあの日がふと懐かしくなって、

そして後悔ばかりをする。

そこで息を深く吸うか吸わないかで未来が変わる」っていうのが本当だとしたら、

あの時もう10分彼女を待っていたらどうなっただろう。

あの時彼女と待ち合わせをしなければ。

日差しが照って夏の日は、

平衡世界に想いを馳せる。


夏。

こんにちは。きらすけです。

前回からちょっと間があいてしまいました。

夏の思い出って、いろいろありますけど、案外どうでもよいようなことが頭に残っているんですよね。

「彼女」は受験に合格しました。多分。

夏に友達と遊んだ記憶からイメージを膨らませて作りました。

つまりセミフィクション。蝉だけにか。何言うとんねん。


いつも読んでくださっている方、また初めてお会いした方も、読んでくださってありがとうございます。

できれば次も読んでくれると嬉しいです。ありがとうございました。


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