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最終話 これから

 目を開けると、ルルナとツルギ、それにペティーシェの顔があった。


「あ、起きた!」

「……あ、俺気を失ってたのか」


 頭を押さえながら上体を起こす。


「痛いところはない?」


 三人がぺたぺたと俺の身体を触ってくる。


「ちょっ!? だ、大丈夫だからっ!」

「あ、リュート……もしかして照れてる?」


 そりゃ照れるだろ普通! 俺は健全な青少年なの! 刺激が強いの!


「リュートくんはスケベ親父ケロ~」

「スケベ親父でござるなぁ~」

「酷過ぎない!? 俺泣いちゃうよ!?」


 じゃれ合っていると、エルギールが黒いマントをはためかせながらやってきた。

 俺が起きるのを待っていたのだろうか。


「やあ、元気そうだねリュート君」

「エルギール。君は大丈夫なの?」

「ああ、僕は特に怪我もなかったからね」

「これじゃどっちが勝ったのかわかったもんじゃないね、あはは……」


 俺は自分とエルギールを見比べて言う。

 エルギールは黙って首を横に振った。


「今回は僕の完敗だよ。まったく、敗者より傷ついた勝者だなんて……カッコいいじゃないか、リュート君」

「ありがとう、エルギール」

「僕はもう少し自分を鍛え直すことにするよ。……でもやっぱり悔しいっ! リュートくぅぅぅぅんっっっ! 次は負けないからなああああぁぁぁぁー…………!」


 エルギールはそれだけ言い残し、走ってどこかへ行ってしまった。


「暑苦しいナルシストって斬新だよね」

「言ってやるなよ……」


 たしかにそうだけどさ。


「でも、よく勝てたでござるな」

「俺もそう思う。運が良かったよ。……あとはまあ、皆が応援してくれてるのが聞こえたからね」


 ちょっとキザかもしれないけど、本心なんだから仕方ない。

 三人がいなければ、俺はまず間違いなく負けていただろう。


「それなら拙者たちが応援した意味もあったでござる。ルルナなんてずっと神様にお祈りしてたでござるからな」

「えへへ、正直祈ってばっかりで気が気じゃなかったよ」

「ありがとうな」


 恥ずかしそうに頬を掻くルルナ。かわいい。


 その横で、ペティーシェがピョンピョンと飛び跳ねながら手を上げた。

 フードを抑えながら飛んでいるのがなんとなく面白い。


「おいらも。おいらもっ」


 そうか、ペティーシェもお祈りしてくれたのか。

 本当にまあ、ありがたい話だ。


「そうか。ありがとうなペティーシェ」


 俺がお礼を言うと、ペティーシェはニコリと笑った。


「ケロケロっ。おいらもアマガエルにお祈りしたケロ」


 ことごとく予想を超えてくるね君。

 ところでそれって効果あるの……?


「あ、ありがと」


 困惑しながらも、一応もう一度お礼を告げておく。

 ペティーシェはズレたフードをもう一度被り直し、そして言う。


「ゲロゲロ、ケロケロ、ゲロッパケロケロっ!」

「ごめん、何一つわかんないや」


 ペティーシェには多分通訳が必要なんじゃないかなと俺思うんだよね。



「よぉ、よく頑張ったじゃないかリュート」


 バギランが座り込んでいる俺の頭上から声をかけてきた。


「あ、先生」

「いい試合だった。最後の機転なんかは特によかったぞ。どうだ、今から俺と戦わんか?」

「言ってる意味が理解できません、先生」


 俺はサイボーグではないので。疲れを感じるので。


「先生! ここは一つ、拙者と戦うというのはいかがかと提案させていただくでござる!」


 俺がバギランの誘いを断ったからか、ツルギがバギランの方に身を乗り出す。

 ツルギはバギランのこと尊敬してたもんな。尊敬する人と戦いたいという気持ちは俺にもわかる。


「おお、いいぜ!」


 それを聞いたバギランは間髪入れずに答えた。

 ツルギの顔がパアッと明るくなる。


「本当でござるか!? な、なら今すぐやりたいでござる!」

「そうだな。今すぐ……は無理だなこりゃ」


 バギランは修練場の様子を見ながら答える。

 俺たちの戦いに触発されたのか、一般クラスの人たちがそこらじゅうで戦いを繰り広げていた。


「明日からは予約期間に入るからもうとっくに埋まってるだろうし……戦えるのは休み明けだな」

「あんまりでござるぅー!」


 ツルギは泣き崩れた。

 ドンマイツルギ。


「ツルギ、俺のせめてもの気持ちだ。受け取れ。……すぅぅぅー……うおおおおおおおお!」


 うるせええええっ! なんだこれ、これで何が伝わるって言うん――


「感激でござる! 拙者休み明けまで我慢するでござるっ!」


 あ、何か伝わったんだ!? ならよかった。




 バギランとツルギ、それにペティーシェは一足早く帰って行ってしまった。

 残っているのはルルナだけだ。

 あまり人が多いと俺が気疲れすると思って気を回してくれたのかもしれない。

 本当にいい仲間たちだ。


 そろそろ帰るか、と俺は立ち上がる。

 すると、俺の手首から何かが落ちた。


「あっ」

「どうしたのリュート」

「ミサンガ、切れてるや」


 俺は落ちたものを拾い上げる。

 それはいつぞやにルルナに買ってもらった、黒いミサンガだった。

 円になっていたミサンガはブチリと切れてしまっている。

 それを見たルルナは、ポンと手を叩いた。


「じゃあきっとミサンガがキミのこと守ってくれたんだよ。黒のミサンガは意志の象徴だから、リュートの『勝ちたい』って思いを叶えてくれたんじゃないかな」


 へぇー。色によって違うんだ。そんなこと知らなかったな。


「じゃあ、俺が勝てたのはルルナのおかげだね。これ、ルルナから貰ったものだし」

「いや、でもリュートの頑張りがあってこそだよ。リュートが一生懸命だったから、勝てた。これが一番の理由だよ」


 ルルナはそう言ってニッコリと微笑む。


「ありがと。ルルナは俺の勝利の女神様だね」

「えぇ!? ボクが勝利の女神様なんて、似合ってないし恥ずかしいよぉ……」

「なんでさ、似合ってるよ」

「ぼ、ボクをからかうのもいい加減にしてよねっ」


 そう言って頬をむくらせるルルナ。なに君、天使なの?


「ちなみにルルナのピンクのミサンガはどういう意味なの?」


 俺は黒のミサンガで、ルルナはピンクのミサンガだったはずだ。

 ミサンガの意味を問うた途端、ルルナは口をぎゅーっと小さくとがらせる。


「これ? これは……あの……れんあ……」

「え、何?」

「……秘密!」


 なんだ、教えてくれないのか。


「ほら、早く行こうよリュート。皆もう祝勝会の準備してるんだからさ!」

「え、祝勝会?」

「そうだよっ。ボクとツルギとペティで、リュートの勝ちと、これからも同じクラスでいられることをお祝いするの!」


 ルルナの腕が俺を掴み、前へと進ませる。

 祝勝会なんてやってもらうの、生まれて初めてだ。


 俺はこれからもこの冒険者学園で、きっと色んなことを学んでいくんだろう。


「じゃあ急ごうか。二人が待ちくたびれないうちに」


 俺はそう言って笑った。

これにて完結です。

お付き合いくださりありがとうございました!

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