66 だんらんの、のその後ろでは・・・ 1ページ目
皆さん初めまして、アシュトンです。
・・・色々な事がありましたが、コルネリウス様の傍仕えを外される事はありませんでした。
これも、全てアスライール様とフィーネリオン様のお陰です。ついでにソール様も入れておきましょう。
例の事があって、新緑祭の始めの1日目から父に扱かれていた私は、その時に初めてアスライール様の奥方様であるフィーネリオン様にお会いしました。
実際にお姿を見たのはその時が初めてだったのですが、どういった姿をしているのかに付いては色々と聞いていましたから大きく驚く事は無かったと思います。
・・・ご結婚の経緯を知らなかったら、アスライール様の事を疑っていたかも知れませんが・・。
フィーネリオン様については、コルネリウス様と私とで出来る範囲で調べさせて頂きました。
それこそ、家族構成から家の事、交友関係に周囲の評判・・・。
思い付く限り調べさせて頂きましたが、フィーネリオン様がアスライール様と結婚した時にヴァレンタ家に不利になる所は「全く」とは言えませんが、私達が対処の出来ない様な問題はありませんでした。
・・・あえて言うなら、年齢が「多少」離れているくらいでしょうか?アスライール様は騎士ですが、貴族でもあります。お2人の年の差であれば問題の無い範囲でしたから、私達はその事については気にしませんでした。
何より私達が驚いたのは、フィーネリオン様ご自身とご実家である「ミュー商店」の事です。ご実家の商店についてはヴァレンタ家の領地に居る私達や帝都では聞かない名前ですが、ご実家のある商業都市では不思議と名前が売れているようでした。
特に、一般の住民や冒険者といった「平民層」に限っての知名度はとても高かったのです。
私共は要用になった物がある場合は、商業都市の中央区に向かいます。中央区の品物は貴族向けの品物が多いので値段も高く平民の方には手が届きません。
そんな中で、値段はそれなりで平民でも手の届く品物を扱っているお店があったらどうなるだろう?
・・・当然、品物が欲しい者は買いに行くでしょう。
平民は、あまり華美な物を身に付けたりはしません。銀の食器や、宝石の付いたペン。絹の手巾、羽根の扇・・・。どれも、手入れの必要な物ばかりとなります。それらを維持するのにたくさんのお金が掛かるから、平民はそれらに夢見ても手にする事はありません。
だけど、それらが「毎日使える物」なら?
自分が「欲しいと思う物」が、日にちを置けば手に入るなら?
「絵柄の入った食器」「使うヒトを選ばない漆塗りのペン」「刺繍の入った綿の手巾」「木を組み合わせた扇」どれも大きな手入れは必要ありません。ただ「使いやすい」「少しの贅沢品」と言うだけです。欲しいヒトであれば、買うでしょう。
それと、前もって知らせておけば、ある程度の物を店舗の方に「確保」するという信じられない事もしていました。これらを、冒険者たちが利用していると聞いた時にはコルネリウス様も「信じられない!」と言っていました。
いざ、納品となった時に彼らが商品を受け取らなかったらどうするのだろう?
そう思った私達には、この取引が理解出来ませんでした。・・・でも、実際にその商売が成り立っているので、需要はあるのでしょう。
そんな時にヴァレンタ家の宗家であるスターリング家から来た使いの人物が「侯爵様からです。」と言って結構な枚数の資料をコルネリウス様に渡したのです。
その資料を読んだコルネリウス様は「信じられない!」と言って読み進めて行きます。
「アシュトン!こんなに信じられない事があっていいのか!?
この商店は、一時期伯父上の抜き打ちを年に5回受けていて、全て『問題なし』の評価を受けている!
・・・しかも、売り上げが毎年変わらないくらいと言う事にも驚いた!税も問題無く収められているようだし、・・・何年か前には1度査察に入っているみたいなんだ。
一体どういう事だ!」
その資料を見ながら、コルネリウス様は「訳が分からない!」と言って頭を抱えてしまいました。
「見てみろ」と渡された資料には、今の店主に代替わりした頃からの収入と納税額が記入されていて、その記入内容に怪しい所はありませんでした。
「・・・一般の・・・、一個人の平民が経営している所なのに、何の修正も無く書類が提出されているんだ・・・。」
コルネリウス様の言葉にハッとしました。
何かしらの経営を行っている所では「会計士」と「税理士」と呼ばれる人物がいます。ただ、個人経営者が会計士を雇うのは大変です。・・・主に、雇用金額の面で。ちなみに、会計士の資格がある者は貴族の屋敷でも好待遇で雇われています。
大きな店舗であればある程、売り上げも比例して大きくなります。例え計算が得意であったとしても金額が大きくなれば間違いも出ます。なので、納税の時には領主館で雇っている会計士や税理士が、申請者に手を貸しながら書類作成をしているのです。
その為に、個人経営の店舗が提出している納税の申請用紙には、修正が何カ所か入るのです。この納税の時に偽りの申請をした場合、その店主が経営を行う事は難しくなります。悪質な場合、その一族で行っている事業を止める事もあります。なので、「怪しい」と思われる所には役人による抜き打ちの査察が入ったりするのです。
「店主がとても優秀なのかも知れませんね。元より大きな店では無いようですし、売り上げの面でも、扱う物が物ですからソコまでの・・・。」
およそ4年前の報告書で手が止まります。
「金額が跳ね上がった・・・?」
驚きが声に出てしまいました。
「そこから毎年、騎士団からの収入が入るようになっているんだ。」
コルネリウス様の言葉に驚いて「収入内訳」の欄を見ると、それ以前には無かった取引先名に確かに「帝国騎士団」と記入されていました。
概要には「辺境伯駐留移動用の携帯食品、および雑務用品」と記入されていて、別紙に思わず「なる程」と納得してしまいそうな程、事細やかに納品された物の名前と個数が記入されていました。
これはとても分かりやすいです。何かあっても取引先と確認が取りやすくなっていますね。
・・・4年前と言う事は、帝都は皇帝陛下のお陰で混乱の最中でしたから、辺境伯領へ行くまでの物資が帝都で集められなかったのでしょうね。
「凄いだろう?この年の収支報告書の作成人物を見てみろ、驚くぞ。」
私の感心している様子に、嫌な笑顔でコルネリウス様は促します。
作成者:リューイ・ミュー
・・・ここ最近でよく見た名前です。ミュー商店店主殿の長男ですね。
「この年以降の作成者は全て同じ人物が作っているようだ。・・・あぁあ~!この書類作成能力はウチにも欲しい!」
私を見ながらコルネリウス様がそう言ってきますが、確かこのヒトは学院でも結構良い成績を残していませんでしたか?
そこで「身内調査」の書類を出します。
「・・・あぁ、やっぱり。・・・コルネリウス様、この方は学院で『経営学』の成績を『優秀』で修めています。基本の学科もほとんど『優秀』ですね。」
私の言葉にコルネリウス様が静かになります。
「なぁ、フィーネリオン嬢もそんな感じの成績だった気がするんだが・・・?」
神妙な面持ちでそう言ったコルネリウス様には申し訳ないのですが、多分この方も本当に『優秀』なんでしょうけれど、軍配は妹君のフィーネリオン嬢でしょう。基本の学科と特殊学科、両方とも主席卒業ですからね。
スターリング侯爵様がフィーネリオン嬢周辺の資料を集めたのも、ご子息であるユーレイン様の補佐官かご令嬢であるラヴィアーネ様の侍女に・・・。とお考えになった為では無いのでしょうか?
「・・・何だか、こんな事をしているのが馬鹿らしく思えてきたのだが・・・。」
コルネリウス様はそう言って座っている椅子から立ち上がります。
「アスライールの為に精霊様が『選んで下さった』ヒトだ、善良で無いはずが無い。そういう事にしよう!」
コルネリウス様はそう言っていますが、考えるのに疲れたのですね。
「騎士の既婚者は、伴侶殿のいる所から長く離れる事は無いからな。アスライールとこの先を一緒に『生きる』人物がいるのであれば、父上達も安心するだろう。」
コルネリウス様のこの言葉で、コルネリウス様がこの先、私達を見送る事になるアスライール様の事を心配していた事を理解しました。
「・・・後は、ゼーセスだな!」
コルネリウス様はそう言って部屋から出て行きます。ゼーセス様も良い年齢なので、結婚に本腰を入れて頂かないと、大奥様であるマゼンタ様が強硬手段に出そうですね。
・・・まぁ、道はまだまだ長そうですね・・・。
・・・とまぁ、そんな事があって今に繋がっているのですが、私としては懐かしい過去となっています。
目の前で一族間の対立が起きている事を気にしなければ・・・。
私はコルネリウス様の傍仕えですからこの場にいる事を許されていますが、傍仕えは呼ばれない限りは部屋の外で待機する様になっています。ある意味では特等席にいる感じですかね・・・。
この争いの経緯は、コルネリウス様の離婚の報告から始まり、アスライール様の結婚の報告で起きました。
少し前に似たような事があったような気がしますが、あの時は私はその場にいませんでしたし「前哨戦」だったと思えば良いのでしょうか?隣に立っている父をソッと窺い部屋の中心に視線を戻します。
次回に続きます!




