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 ――女王にとって、めんどうな問題は、大小にかかわらず、すべて一つの方法でかたづくのでした。「あいつの首をはねよ!」ふりかえりもせずに女王はそういいました。




「――前略、アリスの君へ。

 こんな本を取るのは君くらいだろうと思って、君に宛てています。違っていたり、思い当たる節がない人がもしもこの手紙を手に取っているなら、すぐに捨ててください。ここから先を読んでも、きっとあなたには何のことか解らないと思うから。


 ……突然で、驚いたと思います。驚いてなかったら、そっちの方がびっくり。私があっちで驚いてるわ。


 この手紙はね、卒業式の前日に書いています。時間は夕方の、四時半。久しぶりに図書委員の仕事を代わってもらったの。君は私が代わらなくなってから、此処にはこなくなったんだね。さっき代わってもらった子に訊いても、君を知らないって言ってたよ。私の妄想でなければ君は存在しているよね。私にだけ見えていた、なんてオチはないことを信じています。


 どんな風に報道されているかな。君はどんな風に大人から聞かされるかな。そして君は、どんな風に私を見るんだろう。


 あの噂はね、本当だよ。私は先生を、好きだったの。家のことで悩む私に、先生は気づいて話を聞いてくれた。先生って見た目から他の生徒には敬遠されがちだけど、実はとっても生徒思いの人なんだよ。思いすぎて、私も先生を想いすぎてしまった。何度も何度も、やめなきゃって思ったし、話し合ったよ。それでも私は先生を諦められなかった。先生の好きなクッキーを焼いて、あの日も先生を待っていたの。

 だけど現れたのは、君だった。

 それで解ったんだ。先生はこない。自分の代わりに君を寄越して、そう言ったんだって、すぐに解った。


 君といるのは、楽しかった。君といろんな話をするのは、本当に楽しかった。純粋で、無垢で、君のようになれたらと思ったこともあるよ。だからこそ君は、やっぱりアリスだとも思った。そして私も、以前はアリスだった。

 私にとってのシロウサギは先生だったの。先生はいろんな大人の世界を見せてくれた。私はそれを解りたくて、大人になろうとしたわ。けれど大人になったとしても、大人の世界は必ずしも楽しいわけではないことを知ってしまった。そして、子どもだった自分を、羨んでしまったの。

 大人になったばかりの私は、子どもの時に失敗したことを後になって知ったわ。シロウサギは、ハートの女王のものだってことを、知っていたのに忘れていたの。先生は、先生には奥さんがいて、私は彼女の夫を取った罪人だった。先生と一緒にいるところを他の生徒に見られて、噂になって、それが彼女の耳に入った時、彼女は私を責めたわ。当然なんだけどね。『気持ち悪い、汚らしい、消えろ』と言わんばかりだった。もう卒業だから、とたしなめた先生も突き飛ばして、彼女はすごい剣幕で怒り狂っていたわ。『エタノールの清潔な匂いのするあなただから結婚したのに』って嘆いていた。彼女も先生を好きだったの。私とは違うところで、彼女も先生を本当に好きだった。私、彼女と私を置き換えて考えてみたわ。そうしたら、私は私をとても疎ましく思った。いなくなれば良いのにって。


 気持ちは、自分で解っていても、どうにもできないものなのね。先生に惹かれた時にもう、誰かを傷つけるって、大切な先生を不幸にするって解っていたのに、私は私の欲を満たすために、それを犠牲にしたの。彼女があんなに怒るのも、解っていたはずなのに。


 先生と出会ったことを、私は忘れたくないし悲しい思い出にもしたくないし、出会わなければ良かったとも思いたくない。好きになったこの結果が罰でも、私は幸せだった。


 でもこれ以上、大切な人を苦しめないために私は永遠に眠ることにしたんだ。だから、君とは永遠のさよならだね。


 君を残していくこと、とてもつらく思うよ。純粋な君は、きっと、こんな私のためにもとても苦しんでくれる。寝ても覚めても大切な人を苦しめるのは、とてもとても悲しいことだね。


 だから君は、どうか私のことを忘れて。目を覚まして。君にはもっと、幸せな道があるはずだから。


 巻き込んでごめんね。もう、いくね。ばいばい――藤木有紗」



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