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落内円は落ちている  作者: 七風


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とある貴族家のテスターバカ話

ヒロバト発売を一か月後に控え、エキドナでは一部の貴族に製品テストを依頼していた。


その中の一つに、とある侯爵家があった。


侯爵本人がマスター登録者。


そして息子を含む家族や数名の使用人がサブ登録者となっている。


使用人たちについては、それぞれ本人の許可を取った上で、期間限定の契約を結んでいる。


もちろん契約内容も記録されている。


――そんな、いたって真面目なテスト環境だった。


「父上! 本体を少し借ります!」


「構わんが、ちゃんとテストとして使うのだぞ」


「もちろんです!」


その日。


侯爵の息子はヒロバト本体を持って、友人たちのいる場所へ向かった。


「持ってきたぞ!」


「おお!」


「本物か!」


「侯爵家のテスト品だろ? すげえ!」


友人たちが集まる。


息子は得意げに本体を取り出した。


「せっかくだから、契約している使用人たちの幻影を出してみようぜ!」


「いいな!」


「五人全員いけるのか?」


「契約期間中だから問題ない!」


本体を操作する。


すると――


部屋の中に、五人のメイドの幻影が現れた。


「うおおお……」


「すげえ……」


「本当に本人がいるみたいだ」


五人の幻影は、それぞれ本人そっくりの姿で立っている。


友人の一人が恐る恐る手を伸ばした。


「……これ、触れるのか?」


スッ。


手が幻影をすり抜けた。


「…………」


「…………」


もう一度。


スッ。


「くそっ! なんだよ、触れねぇのかよ!」


「幻影なんだから当たり前だろ!」


「見た目が完全に本人なんだから、触れると思うだろ!」


「そんなわけあるか!」


息子は笑いながら別の操作をする。


「まあ、触れないなら別の楽しみ方をすればいいだろ」


「お前……天才かよ!」


「何する気だよ」


五人の幻影を並べて、あれこれ眺め始める。


「この角度だと本人そっくりだな」


「服の細かいところまで再現されてるぞ」


「動きも本人と同じなのか?」


「たぶん契約時のデータがそのまま反映されてるんだろ」


「へえ……」


完全に鑑賞会になっていた。


そこへ。


ピッ。


侯爵家の探索端末が反応した。


侯爵は表示された方向と距離を確認する。


「……」


息子が持ち出したヒロバト本体の位置。


どうやら、かなり近い。


「まったく……」


侯爵はその場所へ向かった。


そして扉を開ける。


「……お前たち」


「父上!?」


息子と友人たちが一斉に振り返る。


その後ろには、五人のメイドの幻影。


「どうしてここに!?」


「どうしてって……」


侯爵は探索端末を掲げる。


「本体の位置を確認したからに決まっているだろう!」


「あっ」


「……」


「……」


友人たちが一斉に目を逸らした。


侯爵は部屋の中を見回す。


五人の幻影。


それを囲む息子と友人たち。


「…………」


しばらく沈黙したあと。


「お前たちは……」


侯爵が深いため息をついた。


「こんなくだらない使い方をして……」


「いや、これはテストで――」


「我が家はエキドナから製品テストを依頼された侯爵家だぞ!」


「はい!」


「その立場を理解しているのか!?」


「もちろんです!」


「だったらなぜ鑑賞会などしている!」


「ヒロバトの再現性能を確認していました!」


「どんな性能の確認だ!!」


友人たちは笑いを堪えている。


侯爵は頭を抱えた。


「……多分だが」


「はい?」


「返却時に、変な扱いをした記録は残るはずだ」


息子の顔が固まった。


「え?」


「本製品を売ってもらえなかったらどうする!」


「えええ!?」


友人たちまで青ざめる。


「これ、記録されてるんですか!?」


「当たり前だろう!?」


侯爵が息子の持っている契約カードを指差す。


「お前たちが使っているのは正式なテスト品だぞ!」


「……」


「しかも、その五人については本人たちと期間限定の契約を結んでいる!」


息子がカードを見る。


そこには契約内容が記録されている。


「えーっと……」


息子が読み上げる。


「使用期間……一か月」


「そうだ」


「使用目的……戦闘データおよび動作再現の検証……」


「そうだ」


「……」


「そして?」


侯爵の声が低くなる。


息子が続きを読む。


「……『使用人本人の尊厳を損なう目的で使用しないこと』」


「その通りだ!」


「…………」


「お前たち、今まで何をしていた?」


沈黙。


五人のメイドの幻影だけが、何事もなかったように立っている。


友人たちも何も言えない。


侯爵は深々とため息をついた。


「私は……」


額を押さえる。


「息子にヒロバトのテストをさせていたはずなのだが……」


「でも父上!」


「なんだ」


「幻影の再現度は凄かったです!」


「今それを言うな!!」


「はい!!」


こうして、その日のテストは終了した。


後日。


返却されたテスト端末のデータはエキドナ本部で確認された。


性能面では、いくつもの有用な検証データが残っていた。


そして――


『一部使用者による、契約目的から著しく外れた使用を確認』


という記録も、しっかりと残っていた。


数日後。


侯爵家にエキドナから連絡が届く。


『テストありがとうございました~。本製品の販売については、通常通り予約を受け付けますよぉ~』


侯爵は胸を撫で下ろした。


「……よかった」


その隣で、息子が嬉しそうに言う。


「じゃあ買えるんだ!」


「お前は反省しろ!!」


侯爵家のテスター期間は、こうして無事に終了した。


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