11 フリエナ
明くる日の朝、サングリフは少女に「おはよう」と声をかけてみた。この働き者の能力は高い。通じないとしても、交流する価値は高いように思われた。
彼女は笑顔で首を傾げた。今のが朝の挨拶ということも分からないのだろう。
この日、少女は全滅した一行の持ち込んだ物資を倉庫に移した。彼らはやはりこの砦を我がものとしていた連中の仲間だったらしい。
サングリフは、彼らが持ち込んだものに付いた共通の意匠が、この砦に巣食っていた者たちの持ち物と一致することに気が付いたのだ。
持ち込まれたものは日用品のようなものから、怪しい薬、高級そうなものなど様々だった。
似たようなもの、恐らくは商品が砦の倉庫にもあったことを、彼は把握していた。
連中は軍とかじゃなく、非正規の闇商人か何かで間違いなさそうだな。
読めはしないが、指示書のような書類もいくつか見つかっている。中には図のようなものが記されたものもあり、もっと数が揃えば、内容を知ることも可能かもしれない。
しかし、書類の中で一番の発見といえば、彼らに関するところではない。それに興味はないからだ。
ではそれが何かといえば、地図だ。
簡素だが、地図だ!
出歩いて地理を調べるだとか。
そんな面倒なことをしなくて済むな。
それは本当に簡単かつ粗雑なものにみえるが、あるだけで上等だった。この砦と森、街のようなものや、城のようなものが描き込まれている。
一度、街に行ってみるか。
遠目から見るだけでもいい。
目的という目的もないしな。
サングリフにはすべきことなどない。ただ、そうしてみたいという意思だけが原動力だ。
彼は早速、倉庫へと足を運んだ。
そこにはさまざまなものがうず高く積まれている。一応、種別ごとにまとまっているらしい。
食い物は動物なんぞを狩れば事足りるが…
持って行って損はないか。
彼がそう考えながらものに触れると、すっ、と手のひらに吸い込まれて消えた。
サングリフはこの数日の間に、こうして物を格納できる能力を見つけた。
出すときは手を通じる必要がなく、宙から落とすこともできる。その性質から、体内に格納している訳では無いようだが、それが別の次元のような亜空間なのか、容量はどれだけあるのか、といったことは分からなかった。
中で物同士が触れ合うこともないようで、食糧だろうが貴金属だろうが気にせず格納することができる。
彼は収納魔法と呼ぶことにし、倉庫に置いてあったものを片端から格納していった。
容量が埋まったような感覚もなく、財宝も食糧も全てが納まる。
「俺が死んだりしたら、全部消えてなくなるんだろうか」
ふとそのようなことを考えたが、死ねば金も食糧も使えない。消えて困ることはないだろう、と、やはり全て持っていくことにした。
倉庫の出入口で、少女が待っていた。
血は洗い落としてあるが、相変わらずみすぼらしい服とも呼べない布を身につけている。
「…。お前、これを着ろ」
サングリフはそれなりに生地のしっかりした服を取り出し、彼女に差し出した。今更ながら、彼女の格好がまともでないことが気になったのだ。
おろおろと受け取った少女は、困ったような顔をしていた。
ふと思い立った彼は、自身を指さして言った。
「サングリフ」
そして今度は彼女を指さして、顎をしゃくった。
「******」
少女が胸に手を当てて呟いた。
サングリフはその文字列から、それらしい単語を抜き取って聞き返した。
「フリエナ、か?フリエナというのか?」
尋ねると少女は、フリエナは嬉しそうに頷いた。




