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「というわけで、彼女はオウロイア・アスールファ。私の友人だからよろしく」
翌日になって私は自分の職場にオーロを連れて行った。この国の魔法師団の一つの部署――魔法研究所の一角が私のよく過ごしている場所だ。
思えば私って、自室と研究所の行き来ばかりをしている。
私の紹介したオーロの名前を、知っている人も同僚たちの中にはいたようだった。一瞬顔をしかめたのを私は見逃さない。ただし私がこうして連れてきて、友人として紹介した意味をきちんと分かっているだろう。
だからこそ、私が不快になるような言葉は言ってこない。
「ヴィオミーリナ殿下、御友人を連れてこられたのは何か理由がありますか?」
「ええ。しばらく一緒に研究をしてもらおうと思って」
私がそう口にすると、不思議そうな顔をされる。オーロのような存在がこの場で役に立つとは全く思っていないのかもしれない。
オーロは凄い。
私はそう思っている。友人の贔屓目もあるかもしれないけれどね。でもオーロも自身のことを過小評価しているとも思っている。
結婚生活中に余計に……自信や誇りを踏みにじられたからなのかもしれない。
私はそうも思った。オーロがもっと前向きになれたら嬉しい。
「そんな顔をしないでいいわよ。オウロイア……オーロは魔法に対する造詣が深いの」
「あ、あのヴィオじゃなかったヴィオミーリナ殿下、そ、そこまで持ち上げられても困ります。私が魔法について学んでいたのは昔のことで……」
「この場ではヴィオ呼びで構わないわ。公の場ではそういった態度を求められるけれど、それ以外では普通に喋ってもらった方が嬉しいもの。それに一定期間、あなたが魔法を学べなかったことは確かだろうけれど、私はあなたなら問題ないと思っているわ」
私が此処まで言えば、オーロは真剣に魔法に関して学ぼうとするだろう。その一生懸命なオーロを見たら噂のような悪妻だとは思わないだろう。
それが私の大きな狙いである。
私はオーロが誤解されたままなんて嫌。でもだからといって、オーロに何もしてもらわずに私が全て動くのは何か違う気がする。友人というのはあくまで対等な関係であって、私が居なければオーロがどうにもならないとかそういう状況に彼女をしたいわけじゃない。
私は大事な友人を助けるために手を伸ばすし、背中は押す。だけれども片方が倒れたら共倒れするなんて状況はごめんだ。そんなの友人ともいえない。
だからオーロが自分の足で立てるように、もっと自信をもってくれるようにしたいだけなのだ。
「わかりました……いえ、分かったわ。でもヴィオ、私はあなたが言うほど、魔法に精通しているわけではないわ。確かに昔の私は手紙に魔法のことを沢山書いていて、そのことからヴィオが過大評価してくれているのかもしれないけれど、私の魔法の知識は数年前で止まっているもの」
そう言うオーロは真面目だなと思ってならない。もっと気を楽して、私がいう言葉に乗っかった方が生きやすいだろう。でもそれがオーロなんだ。
自分に厳しい方で、だからこそ素直に私の言葉に頷いたりしない。
「知っているわ。でも私はオーロなら、ここで十分に活躍していけるのだと信じているの」
真っすぐにオーロのことを見てそう言ったら、困ったような顔をされた。
オーロは、自分のことをそこまで信じられていない。でも他でもない私がオーロのことを信じていると言ったら、オーロは頑張ってくれるはずと私は思っている。こういうところも、私の甘えた性格が出ているのかもしれない。オーロならば私の言葉を受け入れてくれるんだって。
「わ、分かったわ。なら、あなたのためにも私は頑張るわ。少なくとも最低限の仕事は出来るようにする」
「ふふっ、ありがとう。オーロ。もちろん、仕事に見合った報酬も渡すからね?」
「え、そこまでしてもらうのは……」
オーロからしてみれば、私がこうして王宮に連れてきたり、働かせてもらうだけで満足だと思っているのかも。
でもそれは違うとは思う。
「駄目よ。オーロにはその分、きちんと働いてもらうんだから。それにこういうのは正当な報酬をもらうべきなのよ。ううん、寧ろ私はオーロには相応の評価をしてもらいたいと思っているの」
オーロの評価は、私以外からしたら凄く低い。それはきっと伯爵夫人として上手く回すことが出来ず、夫の幼なじみに負けてしまったという一面においても……甘いだとかいう人は居ると思う。
それにそれだけやられっぱなしで、少しだけおどおどしているオーロが何も出来るわけがないと思い込んでいる。
――私はそれを分かっている。実際にオーロは私が会いに行かなかったら、そのまま修道院に入って、そして表舞台に出ることなくその一生を終えただろう。
でも私は……オーロには輝いてほしいなって、そう思ってしまう。
だからといってオーロが私の期待した通りの結果を見せなくてもそれはそれだとは思っているけれどね。でも私は出来ればオーロは私の期待以上の働きをしてくれたらなとは感じる。
あまり表に出し過ぎないようにはしたいけれど。だってオーロがプレッシャーを感じて成果を出せないのも嫌だもの。
でも一先ず、オーロに納得してもらえたらこれからしばらく一緒に彼女と魔法の研究が出来るのよね。とても楽しみだわ!




