18 剣術大会開幕
剣術大会。それは国内に8つある剣術学校から代表された学生たちによって、競われる同世代最強を決めるための戦いだ。
この大会に行うにあたって、学生たちには様々なメリットがある。
一番大きなメリットは本戦でベスト8以上の結果を残すことができれば、無条件で軍に入隊することが可能となる。剣術学校に通う生徒の終着点。つまり、就職先として一番人気なのが軍に所属することだ。軍では、学校で学んだことを活かせる絶好の場だ。それに、給与という面でも軍は高水準である。
命の危険が伴う仕事。それは生半可な実力では務まらない。実力の誇示、自己顕示欲を満たすという点で軍に入隊する者もいたりもする。それだけ、軍への入隊というのは選ばれた者にしかなれない。
仮にベスト8に残れなかったとしても、この大会で好成績を残すことができれば、それだけ軍の入隊には近づく。軍に推薦で入れなかった者は、一般の試験に合格する必要があるのだが、その時に有利に働く。エントリーシートに実績をかけるし、面接の時にアピールだってできる。それに実力があれば、実技試験でも好成績を残せる。
軍以外にも例えば、ギルドに参加するにも有利に働く。アリサが所属していたような闇ギルドではなく、正規の国に認可されたギルドでだ。ギルドの主な仕事は魔物の討伐、身辺警護等、いずれも実力が伴う仕事となる。当然難易度が高ければ高いほど、報酬というのは高くなる。難易度の高い依頼には、それ相応の実力が必要だ。
つまり、ギルドに参加するためにも実力、結果が求められる。
学生にとって、この大会。この大会こそが実力を示すことができる。唯一の機会といってもいい。
もちろん、この大会以外にも国では様々な大会があるにはある。ただ、その大会には、学生のみならず、様々な年代の者が参加できる。例えば、軍に所属している者、ギルドに所属している者。
その者たちは当然、学生以上に経験に長けており、それを覆すほどの実力がなければ参加するだけ無意味となる。
じゃあ、学生にその差を覆せる実力があるかと言われれば、そんな学生は片手で数えられる程しかいないだろう。
だから、この大会が自分の実力をアピールする絶好の場。そして各校、選ばれた実力のある者が競い合い、推薦入隊という限りある席を取り合う。
「まあ、これがざっとした剣術大会の概要だ。」
リオンは大会会場に向かう馬車の中でアリサに説明する。学校自体に興味がなかったアリサは、当然この大会の意義だったり目的だったりを知らない。
会場にたどり着くまでの暇つぶしにアリサが質問してきたのだ。
「それで、リオンは3年かけて、全大会で優勝することを目的としているのよね。」
「ああ。もちろん。」
リオンが自分の実力を試す時、自分が最強であることを証明する時。その時が来たのだ。
これまでの剣術大会の長きにわたる歴史の中で、その偉業を成し遂げたのは過去に2つのペアだけ。
一つはリオンの父のペア。現在は軍のトップ。この国では言わずも知れた最強の人物。その実力は学生から健在で、他の追随を許さなかった。さらに、パートナーにも恵まれており、現在では軍のナンバー2となっている。現在の軍の1,2が学生時代にペアを組んでいたのなら、負けなしなのは誰もが納得するだろう。
もう一つは、ブルー・アクマリンのペア。彼は水属性の魔法の名家アクマリン家の長男で、天賦の剣術の才に加えて、魔術師の家系に生まれたことによる、同年代の男性と比べて潤沢な魔力を保有している。その二つが相まって、超速超パワーの剣術となっている。それを防ぎきることができる学生はいなかった。
リオンはこの二つのペアに続いて、3ペア目となる偉業を達成しようと志す。アリサというハンデを背負っている?関係のない話だ。
学生同士の大会では一人が強ければ勝てる。それが現実だ。実際、ブルー・アクマリン。彼は一人の力で勝ち抜いた。
リオンもその光景は目に残っている。ブルーが3年生の時の大会を直接見たことがあるからだ。ブルーはリオンよりも5歳年上で、同年代というには年齢が離れており、模擬戦とかは一度もしたことがないから、どちらが上かは分からない。
ただ、その大会を見て分かったのは、圧倒的な個が蹂躙できるということ。
「まあ、リオンなら大丈夫なんでしょうけど。」
「ああ。必ず優勝するさ。」
負ける未来なんて想像できない。それがリオンの現状思っていることだった。
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リオンたちは会場に行く前に、会場付近に用意されている宿泊所に行く。
会場付近には各学校ごとに宿泊所及び練習場が用意されている。これから、大会は1週間の日程で組まれている。その期間、ベストパフォーマンスを出すために、休憩及び体ならしのための施設が必要となる。選手及び教師は自由に使え、他校の生徒の出入りは禁止となっているので、作戦会議をする場としても有効だ。
部屋割りは寮同様、各ペアごとに部屋が割り振られている。これも大会でベストを尽くせるように配慮された結果だ。私生活、特に休息の時に、余計な気遣いやプレッシャーがない方がいい。大会の時だけ、知らない生徒と同部屋と言うのは精神的に気疲れしてしまう。特にトーナメント形式なので、勝ち残ったペアと敗退したペアが同部屋だと決まづいのは想像も容易いだろう。
生徒たちはそれぞれ用意された部屋に荷物を置き再度集合する。
「全員揃いましたね。では開会式の会場に移動します。」
3年生の担当の教師だろうか。リオンが見慣れない教師が場を仕切り会場まで向かう。
会場には既に他校の生徒が集まっており、早く大会が始まらないかうずうずしているのが、傍目から見ても伝わる。それも当然の話だ。皆、この大会に向けて今まで精を出して特訓してきたのだから。
全校全生徒の出席が取れたことでいよいよ開会式が始まる。会場のメイン広場に各校が順番に入場していく。約240人の生徒が、いずれも各校で腕に覚えがある生徒が集結する。
初めに、大会主催者からの挨拶。生徒に全身全霊で試合に挑むこと。自分の強さを誇示すること。要約するとそんな内容を、長々と語る。
その後、選手宣誓。昨年の本戦で優勝した学校の生徒が行う。去年優勝したのは、南高等学校なので、そこの生徒が宣誓を行う。
選手宣誓も、要は全力で頑張りますといった内容を長々と誓うだけ。そんなことここにいる生徒たちなら当たり前のようにすることであり、わざわざ宣誓するような内容でもない。
これらはあくまで形式的なものだ。開会式なんて、大会の始まりの音頭をとるために行われる。いきなり試合開始とかでは、しまりが悪いからだ。
開会式が終わり、即座に新人戦のトーナメント表が張り出される。1回戦は今から1時間後。会場は開会式が行われたメイン広場の一か所のみで行われるのでスケジュールはタイトだ。
大会のルールは特にない。相手を戦闘不能にした方が勝ち。強いて挙げるなら、殺してはいけない。もし、不慮の事故で殺してしまった場合、失格となる。それくらいだ。
ちなみに、大会がメイン広場のみで行われる理由は、同じ会場で行うことで、会場の違いから発生する不公平を無くすため。
またこの大会は軍、ギルド等の採用担当が観戦することから、同じ会場で行うことで全選手を見ることが出来る。
試合の進行ペースに関わらず、1日目に新人戦の1回戦は全て行われる。なので、1年生は指定の練習場にて、試合に向けて調整を始める。
「アリサ。この大会はアリサにもできる限り戦って欲しい。」
「別にいいけど、下手したら開戦1分とかで、数的不利になるかもよ。」
アリサが剣術で攻撃をする。今まで回避と生存に特化した戦い方と違って。攻撃をするということは、その瞬間は無防備になる。技術が無ければ無いほど、無防備な時間というのは増え、敵に見せる隙というのは大きくなる。
つまり、アリサが負ける可能性が出てくる。それも、アリサと相手の剣術の差に開きがあればあるほど、負ける可能性が高くなり、アリサが敵を引き付けておける時間も減少する。
「別にいいぞ。新人戦に出てくる相手なんて、束になったところで俺には勝てないよ。それよりも、アリサが剣術の戦闘経験を積んだ方がいい。少しでもこの新人戦を有意義にするためには。」
リオンにとってこの新人戦は遊びにすらならない。自分よりも強い同級生がいないのだから。優勝するのが分かっている大会ほどつまらないものはない。
それならせめて、何か大会で得れるものがあった方がいい。それがアリサの剣術の向上というわけだ。アリサは夏休みにも欠かさず特訓を重ねて、技術自体は大分向上している。あとは実戦経験を積むだけ。リオン相手だと、どうしても稽古試合になってしまう。剣術の差に開きがあり過ぎるから。ただ、新人戦の1年生くらいなら何とか渡り合える。だから、アリサのも戦ってもらい、少しでも実戦を経験させる魂胆だ。
「そう。リオンがそう言うならいいわよ。」
アリサにとって新人戦の結果なんてどうでもいい。ただ、新人戦はペアで参加しなければ失格になる。だから、興味がなくても試合開始の瞬間には会場にいなければならない。
それに、アリサが即失格になったとしても、試合が終了するまでは会場にて待機しておかなければならない。なら、即失格でもアリサが戦って負けても、回避前提で生き延びても、アリサが拘束される時間は変わらない。
「じゃあ、頼んだ。」
リオンたちは念入りに試合前の調整を行う。
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1時間後。新人戦が予定通り進行していく。どの生徒も入学してから今までの数ヶ月の成果というものを見せる。
各校から選ばれた代表、自分のため、学校のために戦う。
リオンも当然、大会完全制覇という自身の野望のために戦う。
1回戦は南学校のペア。実力は大したこともない。リオンと比較してではなく、他の生徒と比較してだ。
ただ、これはしょうがない話だ。いくら選ばれた選手とはいえ、1回戦。組み合わせはくじ引きで決まる。だから、トーナメント全体で見た時に、1位のペアと64位のペアが1回戦で当たることもある。
今回のリオンの相手はそこまで極端に差はないものの、誰から見ても明らかな差というのはある。
リオンは敵をすんなりと倒し、アリサの様子を見る。
アリサはいつも通り、持ち前の魔力で身体強化を行い、果敢に攻める。その動きと言うのは、アリサが入学した時とは比べ物にならないほどだ。他の生徒だけでなく、アリサもしっかりと成長している。
アリサはリオンから剣術を教わっているのだから、剣筋というのはリオンに似ている。超速度で先制攻撃を仕掛け、そこから流れるように連撃を繰り出す。相手は防戦一方になり、少しでも攻撃を防げなかったり、防御が甘かったら、一気に畳み掛けられる。
リオンの猛攻をいつも見ていたアリサは、見よう見まねではあるが、リオンと同じ剣裁きをする。模倣でリオンの劣化ではあるが、一学生相手にはそれで充分だ。
アリサはリオンが手を加えるまでもなく、戦闘に勝利していた。
(アリサが化けるまでもう少しだな。)
今のアリサはリオンの模倣。それだけでも素晴らしいのだが、それではまだ足りない。模倣がオリジナルに劣らないことはあっても、超えることはない。アリサがリオンを超えるには、模倣に何かひと手間加えるか、アリサ独自の剣術を磨く必要がある。
アリサもリオンと同様で、戦闘の主導権を握るタイプだ。だから、リオンのような剣術がアリサの肌に合っている。それ故に、アリサはリオンの模倣をしているわけであり、それが現状の最適解である。
アリサが数ヶ月でここまで成長できた理由には、アリサに能力があることはもちろんだが、指導者がリオンということも大きい。目の前に最高峰の見本がいるのだから。
「大分良くなってきたな。これなら、アリサに一人任せても大丈夫だな。」
「私も成長したということね。けど、所詮はコピーだから。それに、攻撃パターンも少ないし、防がれたら、なす術ないわね。」
アリサは今はリオンの真似事をしているだけ。その攻撃で通用できる相手なら押し切れる。ただ、アルトのように初手の連撃を耐える相手だった場合、そこからはアリサのオリジナルで戦わなければいけない。
今は良く見えても、トーナメントを勝ち上がればボロが出るのは間違いない。あとは、どのタイミングでボロが出るかだ。新人戦の途中で出るのか、はたまた、本戦のどこかでボロが出るのか。
少なくとも、本戦ではボロが出るだろう。アルトでさえ、リオンの猛攻自体は防ぐことはできる。そして、アルトが大会最強の生徒とは思えない。確実に数ペアは防げるだろう。
「とりあえず、新人戦はこのままいこう。」
「・・・ぼちぼち頑張るわ。」
リオンたちは予想通りとはいえ、順調なスタートを切ることができた。
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リオンたちが華々しいスタートを切る中で、それをよく思わない勢力がいた。
一つはリオンが将来軍のトップにつくことを反対する勢力。以前には学校に殺し屋を派遣する等、過激な行動にも出ている。
今大会でも、当然リオンが良い成績を残すのは面白くはない。どうにかしてリオンを落として入れたいわけだ。
ただ、前回のように殺し屋を派遣するような大々的な真似はできない。大会会場には学生や教師等の大会関係者が多く宿泊しているほか、軍関係者やギルド関係者等も出入りするため難しい。
だから、何か直接的ではなく、間接的にリオンを敗退に持っていきたいわけだ。
もう一つは、この学生剣術大会に際して、裏で行われている賭博を管理する運営。
学生大会を除く、国内で行われる剣術大会、魔術大会での賭博は公に認められている。それに対し、学生大会の賭博は認められていない。
その理由として、学生大会は学生の未来を見定める場であることから、賭け事の対象に相応しくないとして禁止されている。
その他の大会に関しては、国を挙げて行われるイベントであり、興行目的という側面もあることから、賭け事が認められている。
なので、学生大会の賭博というのはいわば裏カジノ。裏の住人が大金を賭けて、盛り上がる場。学生大会だと、学生の前情報が少ないこと、学生の成長が目まぐるしいこと、ダークホースとなる存在が常に潜んでいること等から、公の賭博に比べて、下馬評は荒れ、賭博者にとっては最高なのだ。
ただ、今回の場合は違う。リオン・キングスフォードという存在がその荒れを無にする。リオンの圧倒的な強さ。それのせいで、新人戦の単勝のオッズはリオンが1倍という賭けに関わる者にとって誰も面白くない状況になっている。
賭け方には連単や連複といったものもあるが、リオンと当たらない組み合わせのペアが勝ちあがるほかないため、普段よりも予想がしやすく、オッズが大きくならない。
本戦も似たような状況だ。さすがに新人戦のように単勝のオッズが1倍というわけではないが、それに近い数字にはなっている。
リオンが何かの拍子に敗退したら、賭博運営も嬉しい状態になるわけだ。
思惑は違えど、リオンに負けて欲しいという利害が一致する二つの勢力が手を組んだ。




