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その5

 雨の午後から十日が過ぎた。

 今日はワイアード王とアリシア王女の結婚式だ。六日前に承認の儀式を終え、今日は晴れて国民に向けてお披露目の日というわけである。

 私はシチュワート王子の婚約者として、正式に隣で式に参列していた。

 祭壇に上がっているワイアード王もアリシア王女も一様に緊張した面持ちをしているが、幸せそうでもある。


「アリシア王女きれい……」


 大きく開いたVネックのバックにノースリーブのウェディングドレスが、アリシア王女の身体にぴったりフィットしていた。私が感嘆の溜め息を吐くと、シチュワート王子が声を潜めつつ尋ねてくる。


「ああいう感じのドレスがお好みですか?」


 シチュワート王子の問いに、私は小首を傾げた。


「んーそういうわけじゃないですけど、スラッとしててシルエットがきれいじゃないですか」


 私の答えに、シチュワート王子が小さく吐息する。


「私はあなたの方が似合うんじゃないかと思って言ったんですよ」

「え、いえ、私はアリシア王女にぴったりって話をしてるんですよ?」


 私が目を瞬くと、シチュワート王子が緩くかぶりを振った。


「いやあ、あなたの方が似合ってますよ、エミリー。今日のドレスもなかなかのものですし」


 私が今日着ているのは、水色のハイネックドレスだ。首の部分はレースになっている。


「ええっと、ありがとうございます。シチュワート様が水色がお好きなようでしたので、合わせてみました」


 私が告げるとシチュワート王子が口許を綻ばせた。


「覚えていてくださったんですね。嬉しいな」


 嬉しげに目を細めるシチュワート王子を前に、私は頬を熱くする。どう返答したものか迷っていると、シチュワート王子が話を転じてきた。


「それにしても、ご両親に無事ご挨拶ができて本当によかったです」


 シチュワート王子の言葉に、私は微笑む。


「ええ、本当にありがとうございました」

「礼には及びません。あなたとの婚姻は私の願いなのですから。しかし、やはり一緒に来ていただくことはできませんでしたが」


 微苦笑を浮かべるシチュワート王子に、私は口角を上げてみせる。


「私は大丈夫ですよ」

「ええ、もちろん大丈夫です。私が必ずお守りしますから」


 胸を張るシチュワート王子に、私は礼を言う。


「ありがとうございます」


 それから、まだ続きそうなシチュワート王子の話を区切るべく口を開いた。


「えと、あの、シチュワート様。そろそろ誓いの言葉ですよ」


 だが、私の発言に、シチュワート王子は艶っぽい笑みを浮かべる。


「誓いの言葉よりあなたの声を聞いていたいな」


 私はシチュワート王子の視線を受け流し、前方に目を向ける。


「私はお二人の誓いの言葉を聞きたいです。やっと結ばれるんですから」

「私はまだ腹立たしいですがね。あの二人があなたを火あぶりにしようとしてたんですから」


 シチュワート王子が棘のある声音で言葉を紡ぐ。私は視線をワイアード王たちから外すことなく話を続けた。


「そうですけど。でも、それもお二人がお互いの想いがすれ違っていることに気づかずにいたからなので」


 私の言葉に、シチュワート王子が吐息した。


「本当にあなたは優しいですね、エミリー」


 私はシチュワート王子に向き直り、彼の言葉を否定する。


「いいえ、優しいわけじゃないです。私だって、火あぶりにならないためにシチュワート様にわざと嫌われようとしてましたから」


 すると、シチュワート王子が大げさに目を見開いた。


「そうだったんですか」


 シチュワート王子の言葉に、私は悟る。


「知ってたんですね!」


 私が小さく叫ぶと、シチュワート王子がくすくすと肩を揺らした。


「いや、かわいらしいなぁ、と思っていました」

「もう! あ! 本当にもう始まっちゃう!」


 シチュワート王子の顔を無理やり祭壇へ向けた時、ちょうど誓いの儀式が始まった。


「ワイアード・ノア・ローガンティア、汝はこの者を生涯愛しともにあることを誓いますか?」


 司祭が問うと、ワイアード王が重々しく告げる。


「はい、誓います」

「アリシア・ソフィア・ローガンティア、汝はこの者を生涯愛しともにあることを誓いますか?」


 司祭の言葉に、アリシア王女ははっきりした口調で答えた。


「はい、誓います」

「では、誓いの口づけを」


 ワイアード王がアリシア王女のベールを上げ、アリシア王女に口づけする。絵になるくらいの厳かな光景に私がうっとりしていると、横合いからシチュワート王子が耳打ちしてきた。


「エミリー、私も誓いますよ」

「え?」


 私がシチュワート王子に視線を向けると、シチュワート王子が手を握ってくる。


「ずっと、一緒です」

「はい」


 私は握られた手を強く握り返し、シチュワート王子の温もりにしばし浸った。


ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。


気に入ってくださいましたら、ブクマ、評価などしていただけますと、

大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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