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その9

「あー今日は本当に疲れた」


 もう何もしたくない。ぐったりと窓辺のテーブルに突っ伏していると、窓の外にあるベランダからコツコツと音がした。私は驚いて飛び跳ねる。すると、窓越しに見知った声がした。


「夜分遅くにすみません。私です。シチュワートです」

「シチュワート王子?!」


 私は急いで鍵を開け、ベランダへと出る。そこには嬉しげに顔を綻ばせたシチュワート王子の姿があった。


「どうしたんですか? こんな時間に。ワイアード王に何かあったんですか?」


 シチュワート王子へ詰め寄る私に、シチュワート王子が手を左右に振った。


「ちょっと昔を思い出しまして。思い出を共有できたらいいなぁ、と」


 照れたように頬を掻くシチュワート王子を前に、私は目を瞬く。


「昔? ああ、そういえば、昔もこんなことがあったような……」


 昔、城から家に帰った後のことだ。眠ろうとしていたら窓の外からノック音があった。驚いて窓を開けると、屋根の上に庭で出会った男の子、つまりはシチュワート王子がいて。どうやって城を出たのかと叱る私に、魔法を使えばあっという間だと笑っていたっけ。


「少しでも、覚えておいでですか?」


 ためらいがちに尋ねてくるシチュワート王子に、私は首肯する。


「うん。そうですね。確か庭で会った男の子が夜中に私の部屋を尋ねてきて」

「そうです」

「ベランダで魔法を見せてあげる、と」

「はい」


 記憶を辿る私にシチュワート王子が合いの手を入れる。私は確認するように言葉を紡いだ。


「確か、男の子は水で作った鳥を見せてくれて」

「そうですね」

「私は自分も作ってみたくなって。神様にお願いしたんだわ」

「ええ」


 私がぽんと手を打つと、シチュワート王子が正解だと言わんばかりに破顔する。


「そうだわ。そうしたら、掌に水が溜まって……」

「そうです。それから?」


 私が身振り手振りを加えながら話し続けるのを、シチュワート王子がさらに先へと促してきた。


「私はその水をどうしたらいいのか分からず悩んでいて、そうしたら男の子が……」

「その子が?」

「飲んでみようよ、と……」

「そうです」


 バラバラだった記憶の断片が一つに繋がり、私は大きく目を見開いた。


「そうだ。私、飲んだんだ。男の子、いいえ、シチュワート王子。あなたと一緒に、初めて作り出した水を飲んだんだわ」

「その通りです」

「え……え、ええ? じゃ、じゃあ私たちもしかして……」

「そうです。私たちはあなたの聖水をすでに飲んでいる。だから、私たちの縁はもうとっくに結ばれているのです。あなたがどんなに切ろうとしてもね」


 ああ、だからシチュワート王子は、アリシア王女が用意した惚れ薬を飲んでもまったく効果がなかったのか。あの頃、私たちは幼いながらもすでにお互いを想い合っていたんだ。だから、つまり、私たちは……。

 この運命の導きを前に言うべき言葉を失っていると、シチュワート王子が小さく肩を揺らす。



「だからね、エミリー様。この先私たちにどんな試練が待っていようとも、絶対に大丈夫なんですよ」


 と、聖水の入った小瓶を振ってみせてくる。


「え? あ! い、いつの間に?!」


 私は叫んだ後、声を出して笑ってしまった。


(まいっちゃうなあ、まったく)


 きっとシチュワート王子は気づいているんだ。私が魔女と会うことや、会った後の交渉をどう進めようかと不安に思っていることを。


(ああ、私、この人が好きだなぁ)


 私はしみじみと思い、いたずらっぽく目を細めているシチュワート王子へ微笑みかけた。

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。

いいね、などもとても励みになっております! 

心から御礼申し上げます。


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