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アクマで恋してる  作者: 時雨瑠奈
9/10

第九話 悪魔少女の姉の正体は……

 リリンは、完全に人間になってしまっている

事が翌日判明した。

 記憶はそのままだし、姿も尻尾や羽がない事

以外は全く変わっていないけれど、魔法は使え

なくなっているという。

 心配して様子を見に悠の家までやって来た

オルトロスが言う所によると、リリンは全く

魔力の欠片さえも感じられないそうだ。

「私、人間になっちゃったんです

かぁ……?」

「「そういう事だろう。以前は多少なりとも

あった魔力が、今の状態だと全く感じ取れ

ないからな」」

「リリンが、人間に……」

 ぽかんと口を開いたままの悠にリリンは

不安そうな顔になった。

 オルトロスは黙って二人の発言を

聞いている。

「ゆ、悠。リリンが人間だと駄目

ですか……? 悠のために魔法も使って

あげられませんし……」

 オルトロスが最低だなと言わんばかりの

瞳で悠を見ていた。さっきまでリリンの足元で

丸くなっていたキマイラも、ガルルと牙を剥き

出して悠を睨んでいる。

「そ、そんな訳ないだろ! お前僕をどんな酷い

奴だと思ってるんだよ……。人間でも、悪魔でも、

リリンがリリンなら僕は構わない……」

 顔を赤くしながら悠がぼそぼそと呟くと、

リリンもまた顔を真っ赤にしてうつむいた。

 オルトロスは人間のようなにやにや笑いを

している。

 キマイラは興味を失ったようで元の態勢に

戻っていた。

「悠、本当にリリンでいいんですかぁ? リリンは

もうただの人間になってしまいました。日向先輩

みたいに美人じゃないですし、ドジばっかり

しちゃいますし……」

「お前がドジばっかなのは今更だろ? 確かに、

僕は前は日向先輩が好きだったけど、彼女には

今の彼氏と幸せになってほしいし、そ、それに

僕は今はお前が……リリンが好きなんだ」

「……悠っ!」

 リリンが悠に飛びつくようにして抱きついた。

悠はうろたえながらも、腕を伸ばして彼女を抱き

留める。

 オルトロスが呆れたように肩をすくめ、

キマイラはただ眠りに落ちていた

そうな――。



 とりあえず、その後は悠とリリンは学校に

行く事にした。

 さすがに二人ともかなり休んでしまっているし、

お説教は覚悟の上である。

 悠は仮病を使っていたので大丈夫だが、問題は

リリンである。ほぼ無断欠席が続いていた。

「学校、行くか。やだけど」

「リリンは久々の学校なので楽しみです!」

「お前無断欠席続いてたから怒られると思う

けどな」

「えええっ!? ゆ、悠もじゃないですか! 

 キマイラに聞きましたよ。悠が学校行って

なかったって……」

「俺は仮病つかって病気で休んでるってちゃんと

連絡しておいたから大丈夫だ」

「ずるいですぅ~悠!」

 ぎゃんぎゃん言うリリンのセリフを聞き流し

ながら、悠は学校の支度を始めた。

 ぷぅっと頬を膨らませながら、リリンもまた

学校へ行くために行動する。

 幸い、悠の両親は悠達が帰ってくる前に仕事へ

行ったようだったので、それにはホッとしながら

二人は学校へ出かけるのだった――。



「リリンちゅわあああん!」

「きゃああああっ!?」

 案の定、リリンは心配していたらしいオネエ

教師こと郷田聡に捕まってしまった。

 教室に入った途端の出来事に、さすがに悠も

同情の目を隠せない。

 オネエ教師はどんなに皆や自分が心配していたのか、

無断欠席など二度といけないという事をくどくど話し

始め、結局ホームルームと一時間目の授業はお説教

だけで終わってしまった。

 授業の合間にクラスメイトからの質問責めにもあい、

リリンはお昼になる頃にはへろへろになっていた。

 お弁当を食べようと言いつつ連れ出した悠だが、

依然借りた本を二、三日延滞していた事を思い出し

図書館に急いだために彼女は待たされる事になった。

 と、リリンと呼ぶ声が聞こえ首をかしげながら

リリンは振り向く。そこにいたのは氷雨梨々だった。

 この前は悠を怒鳴りつけていたが、今日はご機嫌の

ようでリリンを手招きしている。

「あ、氷雨先輩。お久しぶりですぅ!」

「久しぶりだね、リリン」

「あの、悠なら今図書館の中に――」

「いや、今日は君に用があったんだよリリン」

 リリンは訳が分からなかった。

悠とは知り合いらしい彼女が、何故何の面識も

ない自分に声をかけてくるのだろうか。

 ひょっとして、彼女も悠の事が好きなのかも

しれない。

「あ、あのう。氷雨先輩は、ひょっとして悠の

事……」

「大森が、どうかしたのか?」

「す、好きなんですか!」

「はぁ!? 私が大森を!? ……ありえないね。

まあいい奴だとは思うが」

 リリンはホッとしたように表情を緩める。

それを黙って見ていた氷雨先輩は、ため息をつき

ながら彼女を見やった。

「ひょっとして、リリン、まだ私の正体が分から

ないのか?」

「正体……?」

「私は、お前の姉リリムだ……」

 リリンの驚愕の声がその場に響き渡った――。



 お姉様!? 嘘!? どうして!?と食って

掛かるリリンをとりあえず氷雨梨々こと女悪魔

リリムはなだめ、屋上まで引っ張ってきた。

 ここなら誰も来る事はないだろう。

本来ならば、鍵がかかっている場所だし。

 リリムはまだあわあわしているリリンの前で、

悪魔形態へと戻って見せた。

 リリンの悪魔形態と若干似てはいるが、彼女の

方が姿は大人びている。

 黒のイブニングドレスがよく似合っていた。

蝙蝠のような翼と、尻尾がお尻から生えているのが

特徴的だ。手には魔法杖を持っていた。

「本当に……リリムお姉様なんですね」

「だからそう言っているだろう? 全く、リリンは

いつまでたっても私がリリムだと疑いもしないん

だからな。まあ母様に見張りを頼まれてたから

ちょうどよかったけど」

「ひょっとして、リリンが学校に転入出来たのも

お姉様のおかげなんですか?」

「そうだよ。私が、教師を操って嘘の情報を

刷り込ませた。氷雨梨々という名前も、お前の

姉である私がお前を見守りやすいように考えた

名だよ。まあ大森達は、私が以前からいた先輩

だと思っているが、ね」

「お母様、から……?」

 全くと言っても過言ではないほど、姉の正体に

気付かなかったリリンは恥ずかしさで真っ赤に

なっていた。苦笑しながらリリムは続ける。

「リリン、よく聞けよ。分かっているだろうが、

お前は人間になった。母様が、お前と大森悠の

契約が完了したら人間になるという仕掛けをして

置いたらしい。お前が、人間としてこの世界で

好きな相手と幸せになれるようにな」

「お母様……」

 うるるとルビー色の瞳を潤ませるリリン。

リリムにはそんな彼女が少し前に別れた時

よりなんだか大人びて見えて、寂しげな

顔になった。

「リリン、大森悠が好きか?」

「はい、好きです。悠も、リリンの事を好き

だと言ってくれました。彼と共に、ここで

暮らしていきたいと思っています」

「そうか……なんだか愛しい妹をくれて

やるには惜しい奴だったが」

「悠は素敵な人です! 厳しい時もあるけど

優しくて、素敵な人なんです!!」

「分かった分かった。……大森悠が優しい

奴なのは私も知ってるよ。私だってずっと

人間界にいたんだからね」

 リリムの表情はかなり悔しそうで、悠が

もっと嫌な奴なら反対出来るのにと言わん

ばかりだった。

 まあ本当に悠が心から嫌な奴だったら

大事な妹を近づけさせもしないかも

しれないが。

「認めてくれないんですか、お姉様」

「そうは言わないよ。お前には幸せになって

ほしいし、大森悠がいい奴だってのも私は

よく分かってるからね。ただ、寂しいんだ。

妹の――お前の手を離してしまうのが。

お前が……私から巣立ってしまうのが」

「お姉様……」

「でも、いつかは私も手を離さなければ

いけない時が来るのは分かっていた。

今回は、それが思ったより早かっただけの

事だ。大森悠と幸せになれよ、リリン。

お前の幸せをずっと祈っているよ」

「はいっ……!」

「たまには会いに行くよ。人間になって

しまったお前は、もう魔界に

帰る事は出来ないからな。父様も、母様も

姉様達もお前に会いたいって言っていたよ。

 ――ほら、早く行ってやれ。大森の奴

やきもきしてるかもしれないからな。

お前がいきなりいなくなって」

「分かりました、リリムお姉様!」

 心からの笑顔を姉に向けると、リリンは

ぱたぱたとそのまま屋上を出て行った――。



 リリンが悠の元へと急いでいる、その頃。

魔界では。

「うおおおおっ! リリンンンンンっ!」

「あなた、もうおよしになったら? みっとも

ないわよ」

「これが飲まずにいられるかああ! 

 リリン――ッ!」

 浴びるように真っ黒い液体――魔界の酒を

飲みながら男泣きにくれるリリンの父親

ルシファーがいた。

 今の彼はとても魔界の王には見えないほど

情けなく、娘達も半眼で彼を見つめている。

 普段は漆黒の闇のような長い黒髪と、同色の

瞳が麗しい魔界の王なのだが……。

 愛しい娘の一人を失う羽目に(死んでいる訳

ではないが)なった彼は先ほどから酒を飲み

まくってただ泣いているのだった。

 彼の妻であり、リリンやリリムの母である

リリスも呆れているようだ。

 少しだけウェーブのかかった、青みが

かった黒い髪と瞳の女性、魔界の王妃

リリスは夫に向き直った。

「あなたったら、リリンは悠君とこれから

人間として幸せに生きていくのよ?

 死んだ訳でもあるまいし情けないわよ」

「人間ごときにリリンを幸せになど出来る

ものか!」

「リリンも、あなたの言うその人間『ごとき』に

なってしまったのよ? いい加減リリンと悠君の

お付き合いを認めてあげなさいよ」

「ううっリリン……」

 にっこりとリリスは微笑むが、その目は決して

笑っていない。妻に逆らう事が出来ないルシファーは

気を落としながらも、人間界で楽しそうに笑っている

愛しい娘を仕方ないと言いたげに見つめるの

だった――。

 後書きを最初に見る人はご用心です。

ネタバレ情報があるので、必ず本編を

見てから見てください。

 実は、氷雨先輩はリリンの姉リリム

でした。今回はリリンの母親と父親も

出てきます。アクマで恋してるは次回の

エピローグで完結します。

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