日常への帰還
帰ってしばらくは大変だった。
家では待ちかねた父が、皆が怪我をして戻って来たのでまるで腫れ物に触るかのような接し方だったし、学校ではガス爆発に巻き込まれた上、大岩崩落事故にまで巻き込まれた、不運なヤツとしてそれは気を使われて過ごした。
しかし、そんな毎日も、帰って一ヶ月もすればすっかり無くなった。
家では相変わらずの母と、兄弟姉妹達と時には口論しながら、前より心なしか近くなった距離に居心地よく感じながら、時たま発生する闇の霧をサクサク浄化したりして過ごしている。
最近では裕馬も頻繁に家に訪れるようになっていた。送り迎えの時、仕事を辞めた裕馬の母と維月がかなり長話するのがもっぱらの悩みだった。
困ったことと言えばもうひとつ、涼が時々思い出したように、自分だけ闇の対決を手助け出来なかったと拗ねることだ。死ななかっただけでもよかったのだと維月になだめられるまで、いつも延々愚痴られて蒼は参っていた。
まあ、それだけ平和なのだと、蒼はあきらめていた。
ある日、下足室で靴を履き替えていると、沙依が声を掛けて来た。
「高瀬くん、今日このまま帰るの?」
蒼は顔を上げた。
「ああ、裕馬は部活だし、残る用事もないからな。」
「じゃあ、駅前のカラオケ行かない?」
とんでもないと顔を上げると、沙依の友達らしき女子が数人、靴箱の影でこちらを見ている。蒼は一度口をつぐんで、思い直した。
「あー」そして体育館の方を見て、「裕馬達も行くんならいいけど。」
「ほんとに?!」
沙依は大喜びで女子達を振り返った。
「山下くん、呼んで来なくちゃ!」
「オレは歌わねぇぞ!」
走り出した沙依達に蒼は後ろから叫んだ。
「いいよー」
沙依は叫び返して来る。遠く体育館入り口では、体操服姿の裕馬が、沙依達の話を聞きながらこちらを向いた。蒼は軽く手を上げた。
裕馬は満面の笑みでこちらに向けて親指を立てて見せると、回りの何人かに声を掛け、そのまま数人連れてこちらへやって来た。
「行くぞ、蒼!」
「はいはい」
蒼は妙に元気な裕馬達について学校を出た。うれしそうに女子達と話している。
ふと、すれ違った人に黒い霧がまとわりついているのが見えた。
蒼はそっと光をあて、浄化した。
こんな毎日もいいかな、と夕焼けの中にもう現れている月を見ながら、皆の後についてカラオケボックスへと入って行った。
読んでくださいました皆様、ありがとうございました。
これを書いておりますのは10月13日、毎日更新しなければとコツコツ書き貯めていたら、こんなに早く終わってしまいました。
皆様のアクセス数に力をいただきながら、ここまで一気に来れました。なんの宣伝もしていないのに[やり方が全くわからないので]、探し出して読んでくださいましたこと、本当に感謝いたします。
「迷ったら月に聞け」次回作も構想決まりつつあるので、11月1日より順次アップさせていただく予定です。http://ncode.syosetu.com/n8600bj/
蒼や十六夜に、また会いにいらしてくださいませ。ありがとうございました。




