表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球滅亡の直前に時間操作の能力を獲得したので、したいこと全部してから地球を救います。  作者: 夏野恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/31

第30話 隕石なんて最初からなかったみたいだ。

「環さんおはようございます!」

「おはよー」


時間的にはこんにちはだと思うけど、同僚の子が「おはようございます」と言ったのでそちらに合わせることにした。


何とか集合時間の2分前に到着することができた。


時間厳守は社会人のマナーだ。


「あれ環さん、なんかめっちゃ健康的になってません?」

「やっぱわかる?」


私も理由が分からないが、朝起きたら隈が無くなっていたのだ。

睡眠不足も解消されてとても喜んでいる。


「前の限界社会人っぽい感じもよかったですけどねー」


睡眠不足でふらふらの私の方が親しみやすかったらしい。


なんて非情な。


「どうせすぐ元に戻るって」

「この状態から元に戻るのも怖いですけどね」


まあ行きましょうか、と同僚の言葉を合図に私たちは飲食店に歩き始めた。



公園を通り過ぎる。



「……?」


一瞬立ち止まったが、すぐ同僚の近づいた。


すぐ飲食店についた。


ちょっと高めのフレンチレストランらしい。


今日という営業日を想定していなかったはずなのに、開店をしているってすごいなと思いながら中に入る。


お客さんはほとんどおらず、注文を済ませると離れた厨房から調理する音が聞こえ始めた。


「ていうか、なんで地球滅亡しなかったの?」

「え、滅亡して欲しかったんですか?」


「やっぱアナーキスト環じゃないですかー」 と揶揄われた。


昨日もそんなことを言われた気がする。


否定しようと思ったタイミングでアミューズが運ばれてきた。


「おいしそうですね」

「だね」


フランス料理だけど、柚子が利いていて和のテイストも感じさせる料理だった。


食べ終えてから先ほどの話に戻る。


「でもさ、隕石が地球に向かってたんでしょ?」

「らしいですね」

「ならさ、その隕石降ってこないとおかしくない?」

「環さん、朝起きてからSNSとか何も見てないんですか?」


その話で持ち切りだったと思うんですけど、と同僚。


午前中はハリネズミの動画を見てたから、隕石にそこまで興味を持たなかった。

お皿を従業員が持って言ったタイミングで、同僚の子はスマホを取り出した。


「隕石が地球に衝突する1時間前にいきなり消えたらしいですよ」


そう言いながら、私にライブ配信のアーカイブを見せてきた。


直前まで隕石は普通に進んでいる。

しかし次の瞬間、隕石が突如消えた。


何かに衝突したわけではなく、いきなり存在が消えた感じ。

どこかに飲み込まれた、という印象の方が強い。


「なんで無くなってるの?」

「私に聞かれても困りますって」


科学者たちも原因の究明を進めている段階らしい。


誰にも頼まれていないインテリ気取りたちも考察を進めているが眉唾物だとか。


しばらくすると従業員が冷菜を運んできた。


「さっぱりしてておいしいですね」

「おいしいね」


食べながらふと疑問に思った。


「今さ、『さっぱり』って言ったじゃん」

「言いましたよ」

「他にもさ、『すっぱり』って擬音もあるじゃん」

「まあありますね」


すっぱり忘れる、みたいな感じで使いますよね、と同僚。


「でもさ『さっぱり忘れる』も使わない?」


あれってなんの違いがあるんだろ、と付け加えた。


「環さんってたまに変なことに疑問を持ちますよね」

「変かな」


まあ20代の大人が他の人に聞くことではないですよね、と同僚。


「じゃあ私は10代ってことで」

「年齢詐称じゃないですか」


私の後輩なら「タマちゃん」って呼ばせてもらいますよ、と笑いながら彼女は言った。


それはちょっと嫌かも。

某国民的アニメの登場人物っぽいし。


魚料理が運ばれて、冷菜のお皿は持っていかれた。


「そういえばこういうときに写真とか撮らないの?」

「まあ普段なら撮るかもですけど」


会社が休みになってフランス料理食べに来てるってSNSに投稿するのってうざくないですか、と同僚は呟いた。


「めっちゃうざいね」

「だから今日は控えときます」


そう言って彼女は魚料理を食べ始めた。


「環さんはいつも写真とか撮らないですよね」

「そもそも私はSNSで投稿しないから」

「見る専ですか?」

「そうだね」


わざわざ自分で投稿する気が起きない。

色々考えないといけなさそうだし。


私たちは黙って魚料理を食べた。


「そういえば今日は何で誘ってくれたの?」


同僚の子と一緒にご飯を食べることはあっても、そのほとんどが仕事が終わった後。

休日にご飯を食べることなんて数えるほどしかない。


「今日の予定なんて絶対入ってるわけないじゃないですか」

「ないね」


まさか地球が滅亡する翌日に、真顔で予定を入れてたヤツはいないだろう。


「だから今日は流石に断られないだろうなって」


いつも「予定があるから無理」って断るじゃないですか、と補足した。


休日はとにかく長い時間寝たいので、適当な理由をつけて断っているのだ。


「少なくとも今日は予定がなかったね」


いきなり会社が休みになったわけだし、と付け加える。


「ていうかなんで今日、会社が休みになったんだっけ?」

「上層部の人たちが判断したって聞いてますね」


コピー機の不調みたいなのもあるらしいですけど、と同僚。


あのコピー機、すでに故障寸前だったからな。

やっと取り換えてもらえるならラッキーだ。


話をしているうちに、とうとうメインディッシュが登場。


和牛ロースのポワレが運ばれてきた。

岩塩が振られていて、肉本来の旨味を感じられそう


「めっちゃ良い表情で食べますね」


私の食べる様子を見ながら同僚が呟いた。


「そりゃあ良い表情して食べないと牛に失礼でしょ」

「どちらかと言えば料理人の方に失礼って思いますけど」


でもコレ、ほんとおいしいですね、と同僚も笑みを零した。


あっという間に食べ終わり、デザートが来るまで雑談をすることになった。


「そういえばさっきの隕石の話あったじゃないですか」

「隕石がいきなり消滅した、ってヤツ?」


そうです、と同僚は頷いてから続けた。


「なんか、神様が隕石を消したって説が一番濃厚らしいんですよ」

「え、神様?」


いきなり非現実的な話になったな。


「今、めっちゃバズってる動画知らないんですか?」


これなんですけど、と言って彼女はある動画を見せてきた。


二つの動画を同時に流した動画だった。


一つは隕石のライブ中継、そしてもう一つはブラジルのコルコバードの像だった。

日本時間の午前2時ちょうどになった瞬間、どちらとも跡形もなく消えた。


「これ、ヤバくないですか?」


昨日見た地球滅亡の4タイプの動画が流れてきたのを止めて、同僚は呟いた。


「ヤバいとは思うけど、これと神様が地球を救った説と何が関係してるわけ?」

「コメントとかだったら……」


彼女はスマホ片手にいくつか考察を読み上げた。


なんでも隕石と像が同時に消えたため、キリストが世界を救ったのでは、という考察がなされているようだ。


「それでキリスト教に興味を持ち始める人がかなり増えてるみたいですよ」

「へぇー」


気の抜けた返事をした。


「環さんは全然興味なさそうですね」

「全然ないね」


まあ私もですけど、と彼女は笑った。


この出来事をきっかけに宗教の勢力図が書き替えられることになるのかもしれないけど、そんなことは私に関係はない。


次に出てくるデザートのほうが、私にとって重要だ。


そしてデザートが運ばれてきた。


「めっちゃおいしそうですね」


私たちの視線の先にあるのはクリームブリュレ。

表面が香ばしく焦げていて、おなかいっぱいでも食欲を刺激してくる。


これは写真撮っとこうかな、と呟いて彼女はスマホをこちらに向けた。


「先輩、はいチーズ」


言われるままに私はピースサインをした。


「なんか表情固くないですか?」

「そんなもんだって」


いきなり写真撮るように言われて笑顔を出せるほど、私は写真慣れをしていない。

しかしリテイクを要求されなかったので安心してクリームブリュレを食べ始めた。


パリパリとカラメルを割りながら、スプーンでクリームを掬って口の中に入れる。

卵の濃厚なコクを感じられた。


「このあとどうします?」


私は全然暇ですけど、と同僚。


「どうしようかなー」


そう呟きながら、ここで解散するための口実を考えた。

今日は昼ご飯だけのつもりで来たから、あまり長く外に滞在するつもりがない。


しかし先ほど「今日の予定はない」とはっきり言った手前、良い理由が浮かばなかった。


「行きたいところとかないんですか?」

「行きたいところね」


自分の家、と応えると彼女も家に来そうなので他の場所を考える。


「あーペットショップにちょっと寄りたいかも」


ふと頭に浮かんだのは、午前中に見たハリネズミの動画だった。

もしできるならハリネズミのニードルくん(さっき考えた名前)をお迎えしたい。


今日はできないかもしれないけど、1か月以内にならできるかもしれない。


「環さん、ペット飼いたいんですか?」

「まあね」


意外ですね、と彼女。


まあ私は自分のことで手一杯になるタイプだからね。


「飼いたいペットとかいるんですか?」

「ハリネズミにちょっと興味があるんだよね」

「へぇ、ハリネズミ」


ちょっとマイナーですね、と呟いた。


「ハリネズミってさ、めっちゃ可愛いんだよ」

「どこがですか?」

「例えば……」


午前中に仕入れた知識を織り交ぜつつ、フォルムや歩く姿などを説明した。

同僚は相槌を入れつつ、それなりに真面目に聞いてくれた。


「……って感じだから、一人暮らしの孤独感を紛らわせる良いパートナーになると思うんだよね」

「環さんでも孤独感って感じるんですか?」

「たまにだけどね」


自他共に認める高い孤独耐性を持つ私でも、時折寂しさを感じることがある。

ただ自分で何か行動する気はないので、その寂しさにただ耐えてきたのだ。


しかしハリネズミと一緒に暮らすことができれば、そんな生活とはおさらばできるかもしれない。


「アレですよ、全然寂しかったら私に電話してもらっても良いですよ」


別に、と彼女は付け加えた。


「でも仕事の連絡だと思って身構えない?」

「先輩が電話で仕事の話をするわけないじゃないですか」

「まあそうだけど」


私、人に電話するの苦手なんだよね。

ボタンを押すときに緊張するっていうか。


「とりあえず、一番近くのペットショップ寄ります?」


そこにハリネズミいるらしいんで、とスマホを見ながら彼女は付け加えた。


「そうしようか」


一人で行くつもりだったけど、初めて行くんだったらふたりの方が心強い。

「赤信号もみんなで渡れば怖くない」ってヤツと同じだ。



食後の紅茶を嗜んでから精算を済ませる。



「ごちそうさまでした」

「いいよいいよ」


今回の食事代は全額私が出した。


こういうところで先輩であることを刷り込んでおくのが重要なのだ。


レストランの扉を開けたとき、女子大生グループがレストランの前を通り過ぎた。

なんとなく彼女たちの背中を視線で追う。


「どうしたんです?」

「いや、何でもないよ」


なんか見覚えがあるような気がした。

でもあんな年の離れた女の子たちと顔見知りになるわけはない。


その子たちは笑いながら歩いて行った。


「ペットショップはあっちなんで、行きましょうか」

「オッケー」


彼女は地図アプリを開きながら歩き始めたのでその後を追う。



そのとき、私たちの間を爽やかな風が通り抜けた。

7月の中旬に似合わない、暑さを攫うようなそよ風。


アスファルトの上に揺れる陽炎は少し先の景色を曖昧にさせる。

でもどこからか聞こえる蝉時雨は町全体に夏の輪郭を与えているような気がした。


空を見上げると、気持ちの良い蒼天が広がっている。


どこまでも澄み切った青空には、隕石なんて最初からなかったみたいだ。



「そういえば知ってました? ハリネズミってモグラの仲間らしいですよ」

「マジ?」


ネズミだと思ってた。


彼女がハリネズミ雑学を披露し始めたので、私は彼女の隣を歩き始めた。




『地球滅亡の直前に時間操作の能力を獲得したので、したいこと全部してから地球を救います。』


完。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ