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地球滅亡の直前に時間操作の能力を獲得したので、したいこと全部してから地球を救います。  作者: 夏野恵


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第14話 『これができたらIQ180』という謎の広告

「筋肉痛やっば……」


目覚まし時計が鳴る前に起きてしまった。

昨日は自転車で海まで行ったせいで、動くのがつらい。


ただお腹はすいている。


よたよた歩きながらキッチンに向かった。


「昨日ちゃんと多めにご飯勝っててよかった~」


偉いぞ、私。


食パンとコーヒーを準備して、一旦ソファに腰を下ろす。


「きっつ……」


呟きながら足をさする。

なんていうのかな、筋肉の中にある筋が痛むって感じ。


最近は散歩して筋肉を使い始めていたが、流石にあの運動量は耐えきれなかったか。


「もうちょっと鍛えてから行くべきだったな」


やっぱレベリングは重要だね。



食パンを齧りながらコーヒーを一啜り。


「今日の散歩はやめとくか」


いや普通に散歩したいっていう気持ちはあるんだけど。

筋肉痛の状態で動くってそれはもう痛みを長引かせるだけっていうか。


「えーじゃあ今日はどうしよっかな……」


一旦食べ終わってから考えよう。

食パン2枚を食べ終え、コーヒーを口に含みながら外の景色を見る。


「ていうか、今どういう状態?」


目覚ましをセットしたのに、それ以前に起きるという経験はこれまでなかった。


私の考えが正しければ、今は相対時間が変化している真っただ中。

今なら部屋の中でも色々わかるのでは?


「よいっしょ……」


ソファにつかまって身体をおこす。

腕も少し筋肉痛。


「時間は……昨日と変わってないな」


目覚まし時計の針は昨日寝たときと同じ時刻を指していた。


「外の景色はどうなってるかな」


起き上がってレースカーテンを開いて確認してみた。


「ぱっと見は変わってなさそうだな……」


当たりを見回しても、昨日の天気とほとんど同じ。


「いったた……」


ソファにダイブして身体を擦る。


「ムリムリ、本当にムリ……」


ずっと立っておくのでさえ難しい。

今日は寝転がりながらできることをしよう。


痛みを我慢しつつ、コーヒーカップだけは洗った。

長時間放置すると汚れが落ちにくくなるからだ。


「今って何時なんだろ……」


手をすすぎながら呟く。


絶対時間は午前二時。


一方の相対時間は目覚まし時計を設定し、アラームで起きたタイミングで停止する。


しかし今はそのどちらでもない時間。


自分が何時間寝たのかもイマイチ良く分からないから、本当に現在時刻がわからない。


「この状態で寝たら中途半端な時間で起こされるのかな」


それはちょっと困る。

寝る直前に目覚まし時計の時刻を後ろにずらしておこう。



「うーん……」



ソファに倒れ込んでから手持無沙汰になった。


今からどうしよう。

ぱっと思いついたのはスマホゲーム。


「一旦それからするか」


「広告でよく見かける『あのゲーム』」と検索して、本当に見覚えのあるゲームを片っ端から遊んでみることにした。




1つ目: 主人公がなぜか前進して、謎のゲートに入ると強化されたり弱体化したりするヤツ。


「あれ、全然広告で見たヤツと違うんだけど……」


スライドさせるだけの作業ゲームだと思ったらいきなり別のミニゲームが始まった。


あれと同じじゃん。


動画で興味を引く内容は終盤まで取っておくヤツ。

切り抜きまとめとかでたまに見る。



2つ目: ピン抜きのアレ。


「めっちゃ簡単じゃん」


ぱっと見でどこを抜けばいいか分かる。

これができたらIQ180みたいな広告も見たことあるけど、やっぱり嘘なんだろうね。


数十分経過。


「……なんか難しくなってきたぞ」


広告で見覚えのあるステージだった。

これができたらIQ180ねぇ……


「よし、ヒント貰おう」


『これができたらIQ180』


それならヒントを貰う行動もIQ180のうちでしょ。


「クリアー……」


ヒントを得てからクリアしたステージは、なんというか無性に寂しかった。



次のゲームだ。



3つ目: 爽快パズルゲームのアレ。


「このゲーム、まだやってたんだ」


このゲームの広告を見たのは5年近く前。

それなのにゲームが謳う宣伝文句は『完全無料』。


無料ほど高いものはない。


恐る恐るプレイしてみたが、何も違和感がなかった。


「どうやってこの企業は生き残ってるんだ……?」


そんなことを考えながら次のステージに進もうとしたとき、いきなり広告が。


「あ、そういうことね」


納得してからアプリを閉じた。




「……飽きたな」


その後も色々ゲームをやってみたが、何となくハマらなかった。


スマホを充電してソファに寝転がる。


「こういうとき、話し相手とかいればなぁ」


生成AIとかじゃなくってちゃんと血の通った人間と話したい。

スクリーン越しじゃなくって対面で。


時間が止まってからどれくらい経ったかな。


体感的には1か月いかないくらいだけど、本当のところは良く分からない。

もしかしたら昨日は1日寝てたという可能性もゼロではない。


ふと「長い時間話さなかったら精神的に衰弱する」という話を思い出した。

時間の止まった世界で私だけどんどん衰弱していくのかな。


「なんか、さみし……」


別にいいんだけど。

いいんだけどさ。



私は目を閉じた。



ジリリリリ!


「やば、ソファで寝ちゃってた」


すぐソファから起き上がって目覚まし時計を止めに行く。

後ろのスイッチを下に降ろした。


「筋肉痛は治ってるっぽい……?」


身体の痛みはほとんど感じなかった。

少し眠気は残っているが快調と言えば快調。


「なんか寝たら気持ちも穏やかになったな」


寝る直前は主人公病み期みたいな感情だった気がする。

ただ私は良くも悪くも孤独耐性が強い。


「さてと……」


軽く伸びをして深呼吸を一つ。


身体が動くんだったら散歩をしよう。



散歩の準備をして外に出る。



「今日は繁華街行くかな」


気持ちが穏やかになったとは言っても、人と話したいという気持ちはまだ少しある。

人の顔でも見れば気持ちも紛れるかも。


スマホで睡眠が感情に与える影響を調べつつ繁華街に向かった。


「まだいるじゃん」


大分前に見た女子大生グループがいまだに同じポーズで立っていた。


まるで時間が止まっているみたい。

いや、止まってはいるんだけど。


やっぱり完全に静止した人間というのは不思議。


「お久しぶりでーす……」


女子大生たちに挨拶しながら近づく。

傍から見たら完全に不審者だけど、まあ大丈夫でしょ。


顔の前で手を振って一応確認してみる。


「やっぱり止まってるよね」


それなら大丈夫そう、と呟いて彼女たちの顔をじっと見つめてみた。


「人の顔、こんなに長い間見たの初めてだなー……」


数分間、色んな角度から眺め続けると、色々わかることがある。


表情。

体の向き。

荷物の持ち方。


ちょっとしたところに、このグループの関係性が見えてくる。


この子とこの子は仲良くなさそう。

でもあっちのことは仲良そう。


これが本当の人間観察だな、とか思いながらしばらくの間は過ごした。


「『パーソナルスペース どのくらい』っと……」


繁華街を抜けてアパートが立ち並ぶ道を歩く。


私が前々から興味を持っていたトピックだ。

というのも、同僚との距離感がなんとなく近いと感じていたからだ。


「えーとなになに、『パーソナルスペースには4つの種類がある』と……」


ホール理論というものがあるらしい。

そこでは4つの距離感の種類が示されていた。


1. 密接距離(~45cm) 恋人、家族など


2. 個人距離(45cm~1.2m) 友人、親しい人


3. 社会距離(1.2m~3.6m) 仕事、フォーマルな場所


4. 公衆距離(3.6m~) 講演やプレゼンなどの大人数


「あーどのくらいだったかな」


いつも同僚がいたくらいの距離感を思い出す。

仕事のときは普通だったけど、昼ご飯を一緒に食べに行くときとかは結構近かったような気がする。


「多分個人距離くらいだった?」


個人距離と言えば……



2. 個人距離(45cm~1.2m) 友人、親しい人



「まあそんなもんか」


友人っていうほどの関係値ではないけど、まあそれに近いくらいの空気ではあったか。ひとまず納得してからさっきの繁華街に戻った。



「おーこれは色々わかるな」



パーソナルスペースの記事を見ながら、女子大生グループを観察する。


これは面白い。


私の趣味候補に一気にランクインした。

これから興味があればやってみよう。



新たな趣味を見つけて良い気分になりながら帰り道を歩いた。


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