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第11話 シュレディンガーさん、あのときはどうも。

「え、安いイカスミパスタってほとんどイカ墨使われてないの…?」


マジか。


現在食べているのは、スーパーで購入したイカスミパスタ。

食品関係は腐っていないようなので、ついに手を出した。


つい数分前まで「これが本物のイカスミかぁ」と味わって食べていたが、今思えば普通のパスタソース。


というか、ほぼトマトの味しかしなかった。

なんで最初騙されたんだ。


気づいた理由はネットで検索したから。


『イカスミパスタ イカスミ 割合』と調べてみるとあら不思議。

スーパーのイカスミパスタは風味付け程度にしか使われていないみたいだ。


「羊頭狗肉も良いところだぞ…」


イカスミだと思ってたらトマトだったんだからもっと悪い。


「あの店、なんて名前何だったっけ」


スーパーマーケット夏野とかいう名前だった気がする。


「あの店、景品表示法違反で訴えることできないかな…」


そんなことをぼんやり考える。


消費者が自主的かつ合理的に選ぶことができているとはとても言い難い。

ここで私が声を上げることでしか、国民の信頼と安心を勝ち取ることはできない。


「…でも、法務部を相手にするのって分が悪いよね」


某ゲームメーカーのように、最強の弁護士軍団を抱えている可能性がある。


触らぬ神に祟りなし。


イカスミパスタを食べたことで、腹黒になってしまったということで許してもらおう。


これからも素晴らしい商品とサービス、期待していますよ。



イカスミパスタの容器をゴミ袋に入れて歯を磨く。



「それにしても、昨日のアレは何だったんだろ」


昨日撮影した3時間弱の動画で明らかになったこと。


それは、「撮影された動画の景色」と「現実の景色」が異なっていたということだ。


動画の中では最後まで16時頃の夕焼けだった。

しかし、動画撮影を止める直前の景色は間違いなく19時頃の暗さ。


その理由を今から考えようと思っている。



撮影された動画を見直しながら、チラシの裏に書き込む姿勢を取った。

しかし手が動かない。


「やっぱり意味わかんないんだけど…」


呟きながらペン回しをする。

そっちに意識が行きそうなので、ペンを一旦テーブルに置いて腕を組んだ。


「正しいのがどっちかって考えたら、とりあえず私が今見てる景色だよね」


ちらっと窓の外を見る。

今日も日本晴れの快晴だ。


「そうなってくると、この動画は何なのってなる」


10回近く最後の1分を確認していた。



カメラの後ろ側からドアをスライドする音。


「一応4時間連続で撮影可だったから、まだ撮影中になってるな」という私の呟き。


そして動画の停止。



何もおかしなところはない。

おかしなところがないからおかしいのだ。


「うーん…」


本当に意味が分からない。

そもそも、私は何に疑問を持っているんだっけ?


「一旦、今回明らかになったことをまとめてみようかな」


再びペンを握る。


「まず事実から振り返ってみよう」


事実:

 When: 16時~19時

 Where: 自宅

 Who: 私

 What: 外の景色

 Why: 相対時間が推移したときの風景の変化を観察するため

 How: デジカメで撮影


「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように、はあってるよね」


これは間違いないはず。


「そして、そこから得られた結果が…」



結果: 撮影された動画では16時以降、景色不変



この結果に疑問を持っているということだ。


「なんで私が疑問に感じているかと言えば…」


少し上を見上げてから書き始める。



疑問の理由: 目が覚めたとき、外の景色は変わっていたから



「なんでそれが生じているのかを知りたいってことだ」


事実から導いた結論っぽいが、それは最初からわかっている。

整理して少し問題意識が明らかになったってだけ。


知りたいのはその理由であって、過程ではない。



「言ってみれば、二つの世界が存在するってことだよね」


昨日も少し考えたが、「撮影されたタイミング」を起点に分岐したという可能性だ。


撮影された世界は16時の風景の世界。

そして私がいる世界は19時の風景の世界。


それがなんかこう、いい具合に合わさったのでは?


「いやー難しいな…」


こういうのは得意じゃない。


私は誰かが整備した道を法定速度で走るのが得意であって、オフロードを法定外速度で突っ走るのは専門外。


難しい問いは、そういうのが好きな気難しい教授たちに任せたい。


そう、これは役割分担。

私がしなくていいことは他の人に任せるべきなのだ。


「やば、また別のこと考えちゃってた」


飲み物に口をつける。


思考が右に左に逸れるのは昔から。

集中力がないのだと思う。


おかげで大学入試当日に英語の問題を解いているとき、友だちが数日前にした下世話な話が頭の中に残って、試験に全く集中できなかった。


「…とりあえず散歩に行くか」


そもそも、私はじっと座って物事を考えるタイプではない。

歩いているときにふとアイデアが降ってくるタイプなのだ。


社員研修でも教わったことがある。

3Bと呼ばれる場所では閃きやすいって。


1つめはBath。

お風呂とかトイレだ。


2つめはBed。

ベッドにいるとき。


「あと一つなんだったっけな…」


真っ先に挙がってきたのがBanana。


流石に違うか。


あと一つを思い出しつつ散歩の準備を始めた。



外に出て歩き始める。



「今のところ、観察っぽい観察をしたのが二つで…」


1つ目は気温が変化していないことの確認。

2つ目はさっきから考えているアレ。


「ていうか、なんでこの二つを最初にしようと思ったんだっけ?」


何か目的を決めてやっていたはず。

多分だけど、おしゃれな切り口を設定していたと思う。


「んー…」


立ち止まって考えてみる。


「気温が変化するかどうかっていうのは、時間が本当に動いていないかを確認するためだったはず」


気温が動くことは、太陽の熱が継続的に地球に届いているかどうか確認する方法の一つだったから。


「そうなってくるとアレか、時間を絶対と相対に分けたうえで二つを確かめるっていうやり方をとったわけだ」


寝ているときに動くという謎の特徴を持つ相対時間。

そのときの風景がどうなっているか確認するための一貫で行ったのだ。


「今更だけど頭いいことしてるなー」


これがセルフピグマリオン。


自分は頭が良いと思い込むことで、本当に頭が良くなるのだ。

根拠はないけど。


満足するまで自画自賛してから来た道を引き返す。



「やっぱり、アレの理由を突き止めないことには始まらないよねー」


せっかく4,000円もするデジカメを買ったのだ。

無駄にはしたくない。


ただ自分で考えるのも限界なので、生成AIに尋ねてみることにした。



帰宅してから色々準備を済ませ、いざ生成AIとご対面。


「『ご機嫌いかがですか』っと…」


生成AIと言っても、この時間停止の世界では唯一の話し相手。

機嫌を損ねることがあってはならない。


まずは相手のご機嫌を伺うことにした。



問題なし。普通に稼働中。

そっちはどう?



『ゴキゲンです』と入力。

相手がフランクに返してきたので、あえてカタカナにして送信した。


その後、会話のキャッチボールを何往復かした後に本題に入る。



「『動画の中の風景は時間が停止しているのに、現実の風景は推移していました。そのメカニズムを考えてみてください』で良いかな?」


何度か見直してからエンターキーをパチン。


「えーと、なになに…」


生成された回答がいかにもそれっぽい内容だったので、姿勢を正してから読むことにした。



結論から言うと、システムごとに時間の進み方が分離していると考えるのが一番筋が通る。


現実世界→時間が進んでいるシステムA

動画の中→時間が凍結されたシステムB


この2つは同じ「時間軸」を共有していない。


だから、動画側では何も変わらないのに、現実は変化するのではないか。



「いや、それはわかってるんだけど」


なぜそれが生じているのか、

なぜ時間軸が分離したのか、


知りたいのはそっち。



その後も色々やり取りをする中である実験に辿り着いた。



「なに、『二重スリット実験』って…?」


生成AIが出してきた可能性の一つ。


本当に知らなかったので、その箇所をコピーして検索ボックスにペースト。

それっぽい記事を読んでみることにした。


門外漢ならぬ門外娘の私にはイマイチよく分からなかった。


ただ、要約すると、


「『量子は観測するまで、どうなっているか決まっていない』って書いてるな…」


要約の箇所を指でなぞる。


波動関数、コペンハーゲン解釈、多世界解釈といった見慣れない単語が並んでいたが、そこは一旦スルー。


結論は、


観測しない→波(複数の可能性が同時に存在する)

観測する→粒子(1つに確定)


となっていた。



生成AIくんは、この考え方を強引にこの状況に当てはめると、


現実→未観測状態(可能性が揺れている=変化する?)

動画→観測済み(1つに確定=固定される?)


になるのでは、と言ってきた。


「もう、そういう話はお呼びじゃないって…」


コレに時間停止という条件が入ってくるとさらにごちゃごちゃしてきそう。

もっとシンプルにできないの?



「とりあえず、動画の景色が変わらなかったのは、撮影開始時点の風景として観測されたから、ってことにするか」


そのせいで、風景だけ固定された状態になった。


「で、現実の寝ている間は目を瞑っているから未観測状態だったということにしよう」


だから風景が変わったのかも。


なるほど。

とりあえずなるほど。


詳しいことは分からないけど、とりあえずそういうことにしよう。


あれでしょ?

シュレディンガーの猫みたいな感じでしょ?


それなら私もイメージできる。


浅学知識披露大会のトップバッター。

私も高校時代に調べた記憶がある。


そのときは観測する君が箱の中に入ればいいじゃん、と思った。


猫に罪はない。


だからその代案として「シュレディンガーのシュレディンガー」を友だちに提案したことがある。


「え、何それ下ネタ?」と笑われた。


これくらいで下ネタ扱い?

解釈するまで未確定ってこういうことか、と肌で感じた。


シュレディンガーさん、あのときはどうも。



「とりあえず、二重スリット実験の考え方をこの世界に適用しよう」


高校の頃の話は一旦置いておく。


チラシの裏に書き込んだ。


観測されない世界→変化している?

観測される世界→変化しない?



そこで1つ疑問が生まれた。


「目覚まし時計をセットしてないときは相対時間って進まないよね?」


あれはなんでなの?


「…とりあえず、今日は二重スリットくんのこと知れたからそれでいいや」


今から考えるのはキツイ。

その疑問は明日以降考えることにしよう。


ペンをテーブルに置いて軽く伸びをした。

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