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英雄になれない僕/弱い英雄  作者: 若君
第二章 懐中時計の主人
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第三十話 英雄と犯罪者


第三十話 英雄と犯罪者


警察署の中は、古びたコーヒーの香りと消毒液の匂いが入り混じり、蛍光灯は単調なブーンという音を響かせていた。

一人の警官が机の向こう側に座り、指でデスクをコツコツと叩きながら、目の前のフードを被った少年を鋭い目で見つめていた。


「朝早くから、そんな格好で不法侵入か。」警官が口を開く。公務的な冷たさを含んだ声だ。「お前、まだ高校生だろう? なぜそんなことをした?」

フードの下で、青い瞳は不安と慌てに満ちている。彼は白石高校一年生、薄田辰也、私たちの主人公だ。

「ぼ、僕はただ……何かを探しに……入っただけ……」声は張り詰め、指は無意識に絡み合う。


「そんな一発で見抜かれる嘘はやめろ。」警官は容赦なく遮る。不信感に満ちた口調だ。

経緯はこうだ。女性が犬の散歩に出かけている隙に、この少年が柵を乗り越えて家に侵入したが、たまたま在宅休暇中の男性家主――現職の警官――に現行犯で捕まったのだ。


「特に、お前の家も通っている学校も、この高級住宅地から結構離れている。」警官は記録をめくりながら、不合理な点を指摘する。

「しかも今日は登校日だ。朝早くから盗みに入るつもりだったのか?」体を乗り出し、圧力をかける。

「素直に白状した方が身のためだ。これって……初めてじゃないんじゃないか? だからわざわざ『落とした』ものを探しに戻ったんだな?」


「僕は本当に自分のものを探しただけです!」辰也の感情が少し高ぶり、声が微かに震える。

「金色の懐中時計です! それを無くしてしまって……必ず見つけないと……」声は次第に小さくなり、最後はほとんど呟きになる。警官は眉をひそめて彼の説明を聞く。


「すでに家主には確認済みだ。」警官の声が、彼の希望を打ち砕いた。

「その家には、お前が言う金色の懐中時計はない。」その言葉はまるで槌のように、辰也の心を強く打ち据えた。

「早く正直に言え。他人の家に侵入した、本当の目的は何だ?」辰也は警官の冷たい詰問を聞き、その場に呆然と立ち尽くす。

全ての言葉が力を失い、自分自身の無謀な行動を弁明できないように感じた。


「辰也。」彼が今最も恐れて聞きたくない声が傍らで響く。

彼の母はいつしか駆けつけ、傍らに立っていた。彼女の目はまず周囲の警官たちに深い謝罪の意を示し、次に彼に向けられた時、その眼差しには濃厚な絶望と疲労しかなかった。

辰也は深くうなだれる。折られた翼の鳥のようだ。何も言い出せず、語ることもできない。


「申し訳ございません。ご迷惑をおかけしました。息子を連れて帰らせていただきます。」母親は警官たちに向かって何度も頭を下げて謝罪した。

その低姿勢が、署内の空気を少し気まずくさせていた。


「家主の方は今回は追求しないことにした。」警官の口調が少し和らぐ。

「聞くところによると、彼の妻は昨日、柵を越えて入ってきた見知らぬ人に助けられたらしい。だから今回は警告で済ませるそうだ。」彼は辰也を見て、口調を厳しくする。

「今回はこれで終わりにする。絶対に二度と繰り返さないでくれ。」警官は去ろうとする母子に言う。


辰也は母の後ろに黙って立つ。魂の抜けた影のようだ。

(昨日彼女を助けたのは僕なのに……)この言葉が喉に詰まり、苦くて飲み込めない。

それを言って誰が信じてくれる? どうやって証明すれば? 何より、どうあがいても、あの肝心な懐中時計は、確かに消えたのだ。


---

母はタクシーを呼んだ。帰路、車内には息が詰まるような沈黙が漂う。

彼女は辰也の制服と鞄を渡すが、彼を一目も見ない。

タクシーは音もなく滑るように、辰也の通う高校へ向かう。


校門に着くと、辰也は一言も発さず、制服と鞄を受け取り、黙ってドアを開けて降りる。

ドアが「バタン」と閉まり、車内の重苦しい空間を遮断する。

彼は既に一時間目が始まっている校庭を見つめる。がらんとした門の前には、風が木の葉を渡る音だけが残る。


警備員は別の遅刻した生徒を通したばかりで、彼を見る目には慣れっこな諦めが宿る。

辰也は周囲にそぐわない私服姿で、鞄を手に提げ、幽霊のように黙って校門をくぐる。

彼が校門を入るのを見届けると、背後タクシーはゆっくりと発進し、車の流れに消えた。


教室では、教師の講義する声が安定して響き渡る。

金髪の高校生・巳藤は窓際の席に座り、視線は元々窗外の揺れる木漏れ日にあった。

何気なく、彼は一人の影が授業時間に校門から独りで入ってくるのを見つける。

思わずもう一瞥する。フードの下にかすかに見える横顔と青い瞳に、少し覚えがあるような気がする。


(あいつ?)だが彼には相手の特徴的な金色の鎖が見えない。

(……任務か?)この考えが無意識に頭をよぎる。

深く追求せず、振り返って黒板を見るが、指は無意識に自身のポケットの中の硬く冷たい銀色の懐中時計を撫でる。


---

覚悟を決めたはずなのに、今は全てが空っぽに感じられる。過去の努力と信念が最初から存在しなかったかのように。

放課後、主人公の薄田辰也は重い足取りで家に帰る。

意外にも、父は既に早めに帰宅し、リビングのソファに座っている。

母は台所で忙しく働き、鍋としゃもじがぶつかる音がひときわ耳に刺さる。

家には低気圧が漂い、彼はほとんど息ができない。ただできるだけ早く二階の部屋に逃げ込みたい。


「辰也。」ソファに座る父が声を発する。平板な口調で、感情の起伏は一切ない。既に書かれた台詞を読んでいるようだ。

「今夜は家族揃っての食事の日だ。時間になったら降りてこい、遅れるな。」父の目は相変わらずテレビ画面を見つめ、彼を一瞥することさえしない。


辰也の視線が食卓を走る――そこには、すでに精巧な皿と輝くナイフ・フォークが並べられていた。

(ああ、今日だった……)彼ははっと思い出す。

この豪華な晩餐は、自分のためではなく、海外留学から帰国する「姉」を迎えるためのものだった。


父はリモコンを手にテレビを消し、立ち上がる。ソファの背にかかった上着を取る。

「そろそろ空港に彼女を迎えに行く時間だ。」そう言い、まっすぐに玄関へ向かう。

辰也の傍を通り過ぎる時、足を止めることさえせず、ただ声を潜めて、冷たい警告を一つ投げる:

「彼女が帰ってきたら、余計なことを言うな。」そう言い残すと、振り返らずにドアを開けて去る。辰也一人を玄関に残し、余計な置物のように。


---

部屋のドアが背後で静かに閉まる。外の息苦しい世界を遮断したように。

辰也は鞄を適当に地面に放り投げ、全身の力を抜いてベッドに倒れ込む。

顔を洗剤の香りのするシーツに埋め、体を丸める。背中は抑圧された感情で微かに震え、このままベッドの奥へ潜り込み、自分自身を完全に消し去りたいかのようだ。


(僕は一体……何をやってしまったんだ……?)この問いが制御不能な螺旋のように、彼の頭の中で絶えず旋回し、拡大し、全ての思考を貪り尽くす。

今日起きた全て――愚かな行為、耐え難い結果、そしてこの連鎖反応の原因――が映画のフィルムのように一コマずつ閃く。


(僕はただ……無名のヒーローとして、黙って社会に少しでも貢献したかっただけなのに……)

彼はかつて甘く考えていた。懐中時計の力さえあれば、未来に起こる不幸を予知できれば、自分にできることを見つけられると。

(たとえ一度に一人しか助けられなくても……僕はただこの自分の手で、何かを……本当に意味のあることをしたいだけなのに……)

結果は? 懐中時計は消えた。この力の源を取り戻すために、彼は犯罪者になり、現行犯で捕まった。

(なぜ事態はこうなってしまったんだ……?)


(もし真実を話したら……彼らは信じてくれる?)

まさか彼にこう言えと?:懐中時計が僕をあの家に導いたんだ、彼女が昏倒することを前もって教えてくれた、僕が彼女を助けた!

彼女が意識を取り戻す前に僕は去った、だから彼女は僕の顔を見ていない!

そして僕が泥棒のように再び侵入したのは……

「僕の」懐中時計を取り戻すためだ! 未来を語り、使命を与えてくれるあの懐中時計を!


(僕はただヒーローであり続けたいだけ……)この取るに足らない力で、誰にも知られないヒーローで。

(僕はもう覚悟を決めたはずなのに!)たとえ強くなくても、傷ついても、僕はヒーローになる!

彼は猛然と拳を上げ、狂ったように、力強く柔らかいマットレスを叩きつける。鈍い音を立てて。


(どんなに弱小な人間でも……ヒーローになる資格はあるはずだ!)内心で声なき咆哮、怒号を上げるが、出口は全く見つからない。

誰の目にも、彼らは彼が犯罪を犯した瞬間、あの弁解のしようのない光景だけを見ている。

今の彼は、他人の目には、犯罪歴のある高校生にすぎない。敗残者だ。


---

雲の上、国際線旅客機は安定した飛行を続けていた。

「辰也……」機内で、一つにまとめたポニーテールと神秘的な紫の瞳を持つ若い女性が、窓の外に次第に鮮明になる大地の輪郭を見つめながら、低い声でその名前を呟いた。

彼女の指が無意識にポケットに触れる。

宝石のような緑色の鎖がポケット口から静かに滑り出し、機内の読書灯の下で幽かに光をきらめかせていた。

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