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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第八章 ターニングポイント
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イタクァ戦① 風避けの加護

何とか6月までに出せた...まさか、「風に乗る」がここまで強力だとは思わなかった...

 1度、状況を整理しよう。



 今いる空間は広く、障害物となるものもほとんどない。強すぎる風は、骨や木材を尽く壊していた。



 幸いにも細かくなっていることで、風に巻き上げられこちらに飛んでくることは無い。不意の飛翔物の心配はいらないだろう。



 魔獣は見えない。全員自死し、<儀式>の糧となった。おそらく、この層にもう魔獣はいないのだろう。



 当然助けも来ない。まだ俺は戦闘不能になっていないから。



「うぐっ!?」



 ...そして、この空間には今、大きすぎる風が吹いている。



 通常、大きな風は竜巻などに分類されることが多いが、それは極めて小規模で、極めて威力の高い風だ。



 空気の触れている、いや触れてすらない密度の高いもの(肉体)でさえ通り抜ける、細やかだが荒々しい風。



 優しさなど微塵もないそれは、常に空間を自由に動き回っている。



「っあ!?」



 ...大体の感覚は、掴めてきた。気配こそないが、空気は動く。



 倒れた体は地面から冷気を吸い上げ、相当に冷たくなっている。心臓の動きも、かなり緩やかになってきた。



 吐き気、平衡感覚の消失...今の俺の体は、まともに動かせない。手を広げるのが関の山、指先ならまだ少し動くか。



「く、うぅ」



 …アルカマは、地面に突き刺さったままか。風で吹き飛んではいないみたいだ。さっきから何かを言っている気もするが、どうやら俺の耳は壊れているらしい。



 耳を治す力もない、ということだ。



「っ...」



 …今の俺に足りないものは、純粋な体力だ。気力こそあるが、体を動かすエネルギーが無い以上動くことは無い。



「う...」



 …<インベントリ>の中に、<エナジーポーション>があるはず。



「あ...」



 ...どうやって?手は届かない。



「…」



 …右腕を、左腕の元に。



「…」



 …アルカマ。



「」



 …頼む。






 。



 鈍痛。



 意識が、戻ってくる。



 右腕は...離された。



 風は、それを持ってくる。



 もはやただの物は、上空に吹き飛ばされて。



 目の前に、落ちてきた。



 右腕を伸ばす。伸ばせないのに。



 それは届く事がないはずだった。だが、届いた。



 <メヌー・リング>を操作、<インベントリ>を開く。



 <エナジーポーション>を取り出し、風。



 吹き飛ばされる瓶は舞い上がり。



 雫となって、降ってきた。



 ...それでいい。これでいい。



 身体中に染み渡る、飲みなれた味。



 体力の前借り。そして、一瞬の回復。






 ドクン!



 握った左手を地面に叩きつけ、起き上がる。



 すぐに右腕を手に取る...骨も見えてもうボロボロだな。



 ぐちゃぐちゃの右腕その断面を肩側の断面に押し当て、上から<ヒールポーション>を撒く。



 …少しの痛みを我慢して、無理やり押し付ければ...



 元通り。



「ありがとう、アルカマ」



 倒れたアルカマを手に取る。右手の調子は問題なさそうだ。



 "..."

「アルカマ?」

 "いえ...それよりも今は目の前の"

「ああ、そうだな」



 風...恐らくそれを操っているのは、あの神話生物だ。



 それが今どこにいるのか分からないが、鍵は風の中にありそうだ。



 やつが見えなくなってから風は吹き始めた、がそれ以上のことは分からない。しかしその他情報から考察することは出来る。



 1番わかりやすいことと言えば、風が俺の方へ来なくなったこと。まだ起き上がって間もなく、少しふらついているにも関わらず。恐らく急に起き上がった俺を警戒しているのだろう。



 知能はやはり高いな。神話生物は揃いも揃って、頭が良いらしい。



 でもそれはむしろ好都合だ。考える時間ができる。そしてそれは奴もわかっているはず。



 …<風属性>と相性がいいのは<土属性>だ。神話生物はこの世の仕組みとは全く異なる存在のように見えるが、この世界にいる以上こちらのルールには則っている。



 だが、<土属性>か。他の属性よりMPの消費効率が良く、また扱うのも簡単であるのは知っているが、如何せん<魔技>と相性が悪い。<氷属性>でも有利を取れるが、俺が上手く扱えない。この環境をものともしない存在ともなれば、そもそも効かない可能性もある。



 となると<魔法属性>ではなく、自然現象としての風として見るべきか。風は空気の動き、<空属性>ならいけるか?



 "ソルス、風が"

「...来たか」



 <空属性>。<理属性>に分類される<魔法属性>。あの風は防ぐことができない特殊な風だが、断ち切ることが出来れば...



 剣を構え、風と相対する。それは見えないが...



 風は空気が流れ動く現象、室内では上手く身動きが取れなくなる。この場所は広いからマシであろうが、それでも小回りが利くように風そのものの規模が小さい。それは先程までもわかっていたこと。肉体を通り抜けることも理解している。



 そして、そんな異質な風は、この世界にどこにもない。どこにもないからこそ、本体がどこにいるかを教えている。



()()()()()...それが正体だ!」



 剣に<魔力>を纏わせる。<空属性>は燃費が悪いが、ここで本気を出さないで成果なしは何の意味もない。しかし依然として後のことを考えればMPは使いたくない…



 ============================================



「互いに剣を引け。お前も少し前と比べ成長したな、ソルス」




「父さんや師匠に教えを乞うているからです」




「確かに私たちは教えている。だけどそれを成長に変えているのはソルス、君自身だ。そこを謙遜しちゃ行けないぞ」




「こいつの言う通りだ。前にも言ったろう、自分を認めるとことも研鑽の道に必要だ」




「!、はい、わかりました!」




「いい返事だ、では俺はそろそろ戻って料理を作ってくるから。お前たちも訓練をそこそこに戻ってきてくれ」




「父さん、それなら俺も料理を」




「おっと?成長したとは言ったが完璧とは言ってないぞ?」




「え」




「そういうことだ。わかったのなら、あとは頑張れ」




「...行ったな」




「では次は何の訓練を」




「まあ待て。いくら肉体を鍛えても休息させなければ意味は無い」




「なら屋敷に」




「肉体が休息中なら、その間に頭を良くするべきだ。だろう?」




「...」




「メモを取り出すのが早いな、物分りが良くて大変よろしい。でも、今回はいつもと違って楽しいぞ?なんたって、<魔技>について教えるからな」




「ほ、本当に!!」




「私はあまり嘘はつかないよ。ただ時間は無いからな、今日は<魔技>の性質とその派生について教えようか。そもそも<魔技>とは...

 ============================================



 <魔技>、その派生系の1つ。それは自身の命、HPを使ったもの。



「<切空(パルア)>。ぜああぁぁ!」



 空間そのものを切る<命技>。その攻撃は風を切断することなく宙を切った。普通、自然現象そのものを切ることなんて不可能だ。



 しかし、この<命技>の本質は、空間が切られたあと直ることにある。



 切られた空間は、そのズレを直そうと元に戻る。だがそれで直るのは空間のみ、そこにあったものは巻き込まれる。



 例え、それが空気であったとしても。






 風の音が不気味なほど急に止まった。風のあった場所は歪み、風が質量を得ていく。



 空気が凍え、固まり、血肉を構成していく。いつしかそれは、やせ細った肉体へと姿を変えた。



 目の前のそれは酷い傷を受けていた。股から頭にかけて、真っ二つに裂けていた。



 それは手で傷を拭っているようだった。赤...いや青、緑?黒なのかもしれないその色が手を濡らしている。



「...私に、傷をつけるか」



 その声はやはりあの声だった。どうやらこの<命技>なら攻撃が可能らしい。



「<装甲>がなかったとはいえ...いや、だがあの攻撃は...」



 わかっていたことではあるが、やはり致命傷では無いらしい。

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