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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第七章 狂季愁豪理不
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対ヴルトゥーム⑥ 塩害(諸説あり)

セウト

 氷の壁は、どうやら今この村跡地をドーム状に覆っているらしく。



 壁が奥まで続いて、それが1周してこちらに戻ってきている。



 しかもその壁は被害をかなりシャットアウトしていて、少なくとも壁の外の地面は焼け爛れていない。



 これは二次被害を抑えることができそう。



「「■■■!!」」



 おそらく悲鳴、しかし全く違うそれを発しながら、またぶつかり合う2体。



 その勢いは、空気が僕らに牙を剥くほど強力で。



 構えていたはずなのに、また壁に押し付けられた。



「うぐっ...これ、いつまで続くんだ?」

「恐らくは、両者が倒れるまでかと」



 目を逸らしたい現実のひとつを突きつけられる。



 このままだと衝撃波だけで死にそう。この勝負、早めに決着をつけなければ。



「介入するか?」

「...アフーム=ザー様」

「お前に様付けで呼ばれる筋合いは無い。呼び捨てで結構」



 確かに。僕は配下でもなんでもないし、なんなら他の神話生物の眷属だ。



「だが俺は行かん。ここの維持で手一杯だからな」

「維持って...このドームの?結構シンプルな大きいドームだと思うのですが...」

「内部の時間を止めているからな。広範囲である上に妙に体が重いのが合わさって面倒なことになっている」



 時間停止って...



 待って、僕またティンにドナドナされなきゃいけないの?



「いや、奴らは反応しない。冷気由来の停止だからな。故に、そこのティンダロスの猟犬を見てみろ」



 そこ、を見るとそこには直立不動で動かないティンの姿が。



「どうだ、全く動かないだろう」

「なかなか狡いね」

「ルールの穴を突いているだけだ」



 それを狡いと言うのでは。僕は訝しんだ。



「あれ、時間停止しているってことは、光が止まっているから色は無いはず?」

「お前自身が色だろう」



 そういえばそうでした。



「閑話休題、さっさと終わらせるなら追加の火力も欲しいところ」

「火力ですか?」

「うん。どう見ても火力では勝ってるし」



 突進を詳しく見る。



 クトゥグアはただ突進する脳筋であるのに対し、ヴルトゥームは少し工夫をしている。



 突進時、木の外皮のような硬い殻をクッションとしてぶつかっている。そのため本体へ被るダメージが比較的少なくなっていた。



 まあ本来のダメージが大きい分、カットしてもお互い同じくらいのダメージなってる気がするけど。



 でも、そのカットは徐々に大きくなっている。ぶつかるたびに、改良が重ねられる。



 2回、3回と動くうちに、外皮はより硬く、尖り、強くなっていった。



「...このままだと負けますか?」

「うん。炎であるクトゥグアにはそもそもほとんど物理攻撃を受けないけど、思考の通り、ダメージ自体が大きすぎてカットの結果がヴルトゥームのダメージと同じくらいになってしまってる」

「拮抗状態ということですね」

「だけどその拮抗状態は崩される。どんどんヴルトゥーム側の攻撃と防御が強くなっているからね」



 植物の成長は早い。数分もあれば目の前の太陽の光によって異常成長する植物が、その太陽を貫くことになる。



「だから、それまでに瞬間火力を投げ込む必要がある。ので、お願いしますクタニド様」



 隣にいるクタニド様に頭を下げる。当たり前だ、僕は支配者ではなく従者だからね。



「...本当に急ですね。私がやらないという選択肢をとる可能性は考えないのですか?」

「クタニド様なら本気でやってくれるかなって思いました」



 なぜ旧神と旧支配者が敵対化するのか?この理由は長年に渡って考察されてきた。



 まあ本当のところどうなのかは分からないけど、とにかく敵対化しているのは確か。



 なら、この上ない旧支配者のうち1体を殴ることができるチャンスだ。



「その言い方では、クトゥグアも範囲に入っているように聞こえますが」

「実際そうですけど...クトゥグアよりもヴルトゥームに恨みが溜まってそうだなあと思ってます」



 なんたってあいつは、ほとんどが縛りプレイしている時に急に縛り無しでイキリ始めたようなものだから。



 本気さえ出せば<伝説の20人>なんてコテンパンだ。でも神話生物の皆様はこちらのレベルに合わせてくださっている。



 神話生物に善意とか楽しさとかそんなものあるのか分からないけど、少なくとも弱体化は故意的なものであり、ヴルトゥームはそれを踏みにじった。



 結果、こうして<炎>は燃え盛っている。



「...まあ、いいでしょう。たまには運動をしなければ、ですが本気ではありませんよ?」

「大丈夫です、手はありますから」



 僕がそう言うと、クタニド様は前に出て。






 構えた。



「え?」

「本気ではないとは...?」



 思い切り、拳を握りしめて右腕を後ろ側に引っ張っている。



 左腕は前へと突き出し、まるで照準を合わせているようで。



 足もかなり力を入れていて、一瞬空気が踏み固められたようにも見えた。



 ...これはかなり痛いやつだ。確実に、通さなくては。



 ヴルトゥームは頭がすこぶる良い。恐らく、僕のこの思惑とクタニド様の行動には気づいているはず。



「何らかの防御手段を使っているはずだけど...」






 使っていた。どうやら予想は正しかったらしい。



「...二重の意味で」

「ほう、あなたも堕ちたものですねヴルトゥーム。人質ですか?」

「賢い、と言ってもらおう。お前たちの人間の数ある弱点のひとつは情だからな」



 触手が、拘束している人間。



 すなわち、お姉ちゃん達。



 1、2、3、4...全部で4人、それ全ての顔を知っている。



 なぜ連絡がないのか分からなかったけど、どうもキーゴイもああなっていたらしい。納得だ。



「さあ、どうする?このままクタニドに殴らせればこいつらの命は無い」



 ...決断は早めに。時間はもうない。



 だけど...このままだと…



 ...



 ...



 ...ん、あれは...



 拘束されている4人は、拘束されているにも関わらず暴れていない。



 それは、幻覚を見させられているから。肉体が鎮静状態になる幻覚を見ているからと考えるのが自然。



 証拠に、目線があらぬ方向を向いている。リーシャとキーゴイは特に、目がグルグルしてる。



 キーゴイはその上まぶたが開閉し続けている。



 長く2回、短く1回、長く3回、その繰り返し。




「…ふふふ」

「何が可笑しい?」

「いや、何、ふふ。あんたが負けた理由が追加されたからさ」



 手を横に。クタニド様を止めるように。



「初めから思ってたけどさ...」



 見せかけて、手を上げる。



 そのまま、手を下げる。

「イゴーロナク、舐めすぎだよ」

16に書き終わるだろうか...

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