精神年齢相応輪廻転生
強くなった。
けどまだ弱い。
どういうこと?
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「はあ、もう僕も16なんだよなあ」
「ん、なんか嫌なことでもあるのか?」
「15を過ぎたら色々耐えれるようになるでしょ?まだ15を過ぎていないって屁理屈でなんとか今年は大丈夫だったけど...」
...
「そうか...こうして会える回数も少なくなりそうだな」
「...あのさ、いつもありがとうね」
「おいおいなんだよ急に。タイミングがタイミングだから素直に喜べないぞ」
「でも、いつ言えなくなるかわからないから。今だって、たまたま口が残ってるから言えるんだし」
...これは...
「んん...一応、それはこっちのセリフでもあるんだぜ?」
「わかってるよ。ただ、本当に言いたくなっただけなんだ。なんでかわからないけど、心の底から」
...この、記憶は...
「...へへっ」
「な、なんだよ急に」
「お前にやられたことを返しただけだぜ。急に笑いたくなったんだよ」
「そっか...ふふっ」
...マ...ター...マスター...
「なんだ、お前までつられて笑うのかよw」
「別にいいでしょw」
「「あはははっ」」
「...なあ、そういやなんで人がいないんだ?」
...マスター...マスター!...
「また急だね、だけど確かに。朝だからもっと人がいてもいいような気がするけど」
「だよなあ」
...起きてください、マスター!
「!?危ない■■■■■」
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「っは!?」
一瞬、気を失ったか。
「よかった...目を覚まさないかと思いましたよ」
「お、ショゴスの声を聞くのも久しぶりだ」
「数時間しか経過していませんよ?」
たった数時間でも、僕にとっては嬉しいんだよ。
「特にショゴス、君がいなくなる時の絶望感は半端ない」
「...嬉しいのやら悲しいのやら、わかりませんね」
周りは...よし、変わっていない。目の前には肉塊がある。
本当に一瞬、気を失っていたみたい。
「すっごぉい。本当に全部食べちゃうなんて」
「メェーちゃん...無茶振りにも程があるよ」
「てへっ」
かわいいね。だけどそれとこれとは話が別でした。
できたからいいですけどね。
「...考えうる最悪のパターンだな。自滅しないとは」
「しかもダメージを回復した上に...」
自分の体を隅々までチェックする。
まず驚くべきことは、その大きさ。高校生、いや大学生。大人と言えるほどにまで成長している
10秒前まで赤ちゃんだったと思うんですけど。
「成長までしている」
「愛の成せる技だね」
「いや、それは違うだろ」
...果たして、本当にそうだろうか。
もはや首を動かさなくても見える後ろには、槍がない。
<白金武器>は所有者以外が力を使うと消滅してしまう話は、どうやら本当らしい。
「それは何も理解していないからそう思うだけだ、ヴルトゥーム」
「言葉の語尾に敬称略すらつけなくなったか」
「そりゃまあ、なっちゃったし」
神話生物に。格は劣るだろうけど、なったのなら敵に対し敬意を抱く必要はない。
「ちょっと前から人間辞めてたけど、めでたくマジの卒業だ」
「めでたいね」
「そう感じるのはメェーちゃんくらいだよ」
もう、怖気付く必要はない。
生命であるからして死は超えていない。だけどそれ以外は大体超えた。
「素が弱いんだ、肉体面での大幅な強化は見込めなくても...」
メェーちゃんの腕の中から脱する。
羽を生やし、そのまま上空へ。流石にこの姿でお姫様抱っこはね?
...ああ、月が綺麗だ。
本来、月はこんなところにあっていいわけない。洞窟内だし、何より重力でメチャクチャになる。
だけど、そのおかしさがまた美しさを引き立てる。
「前にもまして口調が詩的になりましたか?」
「ん?ああ、わざとだからそういうわけでもないよ」
そう、わざと。でもそれには理由がある。
「理由ですか?」
「うむ。でもそれは実に単純だ」
パチン、と指を鳴らす。
すでに掌握済みのショゴスの体を使って、自分の細胞を入れ替える。
全て、新しいものに。古いものを捨てて。
少しの間の暗闇を抜ければ、そこに広がるのは別世界。
洞窟の中ではない、星空の元。まあ月はそこにあるけど。
「これは、まさか」
「幻覚は...どうやら体の隅々にわたって染みていたらしい」
洞窟、いや<ダンジョン>すら幻覚。
僕らはずっと、街中で戦っていた。
「...解除されるのは時間の問題だった。だが<<インベントリ>使用不可>であれば」
「解除できないはず、まあ確かにそうだね」
手を見れば、その指に指輪の類がないことがわかる。
おそらく僕が生まれ変わった時に外されたんだと思う。母様もいたし。
「自分の体のことはショゴスさえ出てこれれば十分だけど、さて...」
目の前のやること。合計で2つ。
1つはヴルトゥームをなんとかする。1つはアンジェリアさんの救出。
同時にどっちも。できるかな?
「いや、できる」
今までならできなかったけど...というか、そもそもアンジェリアさんを助けないとヴルトゥームを倒すことができない。
今、ヴルトゥームは<魔力解放>がされている。これは本来召喚師が召喚した魔獣に対し行う強化魔法だけど、それが神話生物に対しできることは僕が証明している。
おそらく、ヴルトゥームはアンジェリアさんから送られてきていた<魔力>で<魔力解放>をしていた。であればすでに<魔力解放>が切れるのは時間の問題。
だけど、<魔力解放>が切れるということは、アンジェリアさんのMPと、そしてHPも切れるということ。神話生物は人間から容赦無くHPMPを奪っていくから。
ならば、彼女との約束を守るには、まずアンジェリアさんの救出が先。しかもこれが早ければ早いほどヴルトゥームをなんとかしやすくなる。
「まるでなんとかできる前提の考え方だな」
「そりゃね。戦力差があるから」
<インベントリ>からランタンを取り出す。
安直な考えだけど、やっぱり時間を稼ぐくらいだったらこれくらいシンプルな考えでいい。
「...ふうううぅぅ...」
あれ、ランタンを取り出したと思ったら人型で出てきた。
しかもただならぬ雰囲気。周囲がチリチリと熱を持ち始めてる。
「...よお、ハルトはどこだ...?」
「っ...い、いません...」
「どこ行った...?」
「もう、どこにも...」
気迫がもうものすごい。すでにこちらに向いていないにも関わらず、まだ手が震えてる。
...感じられる、怒り。どうやら相当肩入れしていたみたいだった。
「...なあ、ヴルトゥーム...てめえだろ?ハルト殺したのは...」
「そうだと言ったら?」
瞬間、その大きな大きな花弁を巻き込んで。
花が潰れた。上からクトゥグアに殴られて。
「...殺す」
「たかだか人間1匹だろう」
「おう...だが少し遊び足りなかったんでな」
燃え盛る体は、その焔をさらに盛らせる。
周囲がその熱に耐えられなくなり、村の建造物が溶け始める。
もはや、誰にも止められないその怒りは、すでに行き場を失っていた。
「おい、<魔力>よこせや」
あっはい只今。
今の僕のMPは全回復している。それに容量もそれなりに大きくなった。
さすがに敵対している神話生物のまでステータス開けるほど余裕はないから簡易的だけど...
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HP 10000/10000 MP 13000/13000
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「ちょうど2倍。持っていけるだけ持ってってください」
「元からそのつもりだぜ!」
ふっ、と体の4割ほどが抜け落ちる感触。
4割、4割か。こりゃスキルも相当変わったかな?
今の半分のMPだった前だって、本気で持っていかれたらHPまで無くなっていたのに。
さて、そんなMPを回収したクトゥグアは...
「へっ、久しぶりに呼び出すからな。あいつ起きてっかな」
呼び出す?クトゥグアが?
そんな盟友じみた存在なんて...
...
「うーん、思いついてしまう」
「思いつくんですか」
「伊達に世界中の本を読んだわけじゃないよ」
しっかし喚べるだろうか。触媒になりそうなものはないけど。
「チッ、させるか!」
「それこそさせるか。母様!」
集中するクトゥグアに襲いくる触手。
それらを夜鬼が対応する。
「母の扱いが酷くないですか?」
「今すぐに頼めるのが母様しかいなかったので」
「っは!お膳立ては済んでるみてーだな!そんじゃあ...来いや、兄弟!」
炎で空気が、空間が歪み見えないその手が、地面に突き刺さる。
そうすれば、炎は地面を走り入口と化す。
だけど力を込めすぎたのか、炎はそこらじゅうに広がった。
溶けていなかった建物も、その火災が酷くなっている。
「ショゴス、寒冷に備えて」
「はい」
次回、新しい神話生物の登場です。
わかる人にはわかるでしょう。




