表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第七章 狂季愁豪理不
378/402

対ヴルトゥーム③ 草食動物(雑食でも可)

次は明日です

「どうしたの?ソワソワして...」



 やることは決まった。あの槍を触る。



 接触を図って、<愛と名声と金のために>に協力を得る。



 放射能汚染を耐えきれるほどの再生能力を持っているんだ、食事であろうと成功するはず。確定事項でなかったとしても、間違いなく成功確率は上昇するはずだ。



 問題は、どうやって向かうか。



 赤ちゃんが生態系の一番下にいる理由は、生命体として弱者だから。



 免疫、身体能力、思考能力...全てにおいて成熟した大人とは比べ物にならない。



 ...空を飛ぶ方法がないわけではない。だけど、赤ちゃんの体で耐えられるかわからない。いや、間違いなく耐えられない。



 勢いよく吹っ飛ばすとしても、小刻みに吹っ飛ばすとしても、どちらにせよ赤ちゃんである僕の体が悲鳴を上げることになる。



 しかも今の僕がどれくらいの威力で<魔力撃>を使えるのかわからないから、加減をすることができない。



 しかも練習だってできない。やる、ということは、今僕を抱えているイブ=ツトゥルに対し<魔力撃>を当てることに他ならないからだ。



 1度ですらどうなるかわからないのに2度できるとか思わない方がいい。



 さて...一体どうしたものやら。実際には思考を引き延ばしているだけで時間はあまりない。



 選択は、決断は。すぐにしなくては。



「...!」

「わ!」



 <魔力>を足に集中させ、一気に解き放つ。<魔力撃>は簡単だから、複雑なものが描けなくて、発話のできない今の状態でも余裕で扱うことができる。



 イブ=ツトゥルが僕を抱えていた時の腕を発射台としたため、比較的安定した体勢を維持しつつ空中を滑っていく。



 なかなかできない体験だ。村の外でぶっ飛んだ時はこんなに安定したか謎だけど、少なくとも今はかなり安定している。



 錐揉みくらいは覚悟してたんだけど、さて、いったいなんでなんだろう。



 答えはとてもわかりやすい。僕の<夜鬼>の血だ。



 背中を見ることができないけど、感覚として確かにそれがある。



 羽。似ているもので言えば、コウモリのそれ。



 膜のあるやつだ。



 もちろん僕のやつはまだまだ小さいけど、おそらくはあるだけで飛行に対して補正があるんでしょう。



 じゃなかったら、空を飛ぶことが初めてである僕がここまで丁寧に姿勢制御できている理由に説明がつかない。



 ありがとう、イブ=ツトゥル。



「ふふ、どういたしまして」



 ...まあ、とにかくだ。



 現在僕の体に対する負荷はまあまあ酷い。でも空を飛ぶことに支障が出るほどではない。



 ちょっと足の感覚がなくなってきたくらいだ。ああ、あとさっきから手先の感覚も麻痺している。



 血が溜まっているのか、あるいは放射能に被爆したことによる障害か。



 今の僕にそれを判断する能力はない。被爆も、今の僕ではあり得るのか怪しいラインだ。まあ流石に赤ちゃんだしあると思うけど。



 そもそもアンジェリアさんですらドロドロになっていたんだ。僕の被爆したことによる死は、このままでは避けられない運命になる。



 だけどその前に死ぬ理由がしっかりとあ






 バスっ



 る...やばい、羽に穴が空いた。



 まあまあの速度で上へと上昇していたから、高さが結構ある。地面に落ちたら赤いシミ確定演出。



 開けたのは、まあやっぱりヴルトゥームだよね。今もなおこっちに種を飛ばしてきている。



 弾けたように飛んでくるそれは、音こそこちらに聞こえてこないけど、速度は銃弾並と言って過言ではない。音が聞こえないせいで殺意も半端ない。



 確実に、仕留める気だ。今はメェーちゃんとイブ=ツトゥルの守りがない状態だから、僕には攻撃し放題だしね。



 ...だけど、流石に僕だって想定済みだ。



 僕は神話についてとことん調べた、ある意味での狂信者。当然ヴルトゥームがしてくる攻撃とかも考えた。



 植物。この一見なんでもない存在たちは、しかし太古の昔から進化し続けているだけあって多種多様な生態が存在する。



 その中でもホウセンカなどは種が弾け飛びながら移動したりする。ならば、ヴルトゥームだって種を飛ばしてきてもおかしくはない。



 当たったのはそもそも避けれないのと、思ったより種の速度が早かった。やっぱり百聞は一見にしかずだ。



 でまあ、今の僕は羽に穴が空いたことで飛行に対する補正がかからなくなり、絶賛錐揉み落下中。頭はぐわんぐわんするし、周りはわからないしでもう最悪。



 だけどやれないことはない。全く信用ならない方法だけどね。



 僕が今から食さないといけないショゴスが、僕の左腕でないといけない。



 メェーちゃん、シュブ=ニグラスの生み出す子山羊はショゴスであるという説もあったりするわけで、もしそうでなければ命令は聞いてくれない。



 つまり、作戦が破綻する。



「!!」



 さーて、ショゴス。もしも僕が見えているのなら。覚えているのなら。



 どうか僕を守ってほしい。今の君になら、ヴルトゥームの攻撃を受けることくらい、いや間に入るだけで攻撃を逸らすことができるはずさ。



 ほら、たとえば今僕の足の先にきているであろう植物の触手とか...



「...ちっ」



 ね?賭けは成功したようだ。



 衝撃が来ない。でも影は濃く、僕を包み込んでいる。あと足がヒリヒリする。



 首が回らないから見えないけど、この大きさのことを考えるとショゴスが間に入ったに違いない。ありがとう、ショゴス。



 ちなみに今ので分かったことがある。植物も放射能には耐えられないという事実だ。



 そりゃ当たり前のことではあるんだけど、もしかすると僕が知らないだけで放射能に耐えうる植物があるかもしれない。というか絶対ある。



 あくまでも、僕はクトゥルフ神話について深く知っているだけで、それ以外のことは全く知らない。その知らないことの中に必ずあるはずだ。



 だから一度引いたのは、その対策ができていなかったから。次はショゴスごとくるだろう。



 てことは次の攻撃までにこの羽を治す必要がある。いったいどうやって治そうか?



 単純、ショゴス。でも今度は一筋縄では行かない。



 羽だけ触れる、という離れ技を錐揉み回転中に行わないと、僕は放射能の塊の中で溶けて死ぬ。近づいただけでダメなのに触れた場合のことなんて、考えるまでもない。まあそんなものを食べようとしてるんだけど。



 ともかく、今からそんな離れ技をしてみる。練習なしの1発本番だ。



 まずは錐揉み回転の方向を変える。今は横回転でミサイルのようになっているけど、これを手裏剣のようにしたい。



 手を広げればいい感じの手裏剣ぽくなる、そんな感じの回転方向だ。



 ではどうやって回転方向を変えようか。<魔力撃>しかないか。



 すでに死にかけている足にさらに追い打ちをかけるように<魔力撃>。これで再生するまで完全に使い物にならなくなったけど、仕方ない。



 回転は...まあ、及第点か。10度くらいズレているけど、練習なしでこれだけできたんだと誇っておこう。



 そしたら今度は、この回転軸によって風を切っている羽でショゴスの先端部分を切る。



 もちろん僕は移動制御なんてできないしやったら体がぶっ壊れるんだけど、あ、ショゴスが来てくれたね。



 何度も言うけど、万が一体にショゴスが触れたらアウト。そもそも羽ですら触れたらどうなるかわからない。



 本来、ショゴスの中身は不定形の肉塊、あるいは高濃度の消化酵素。下手にそれらに触っても終わりだ。



 先端も先端。ほんの先の方だけでいい。



 羽の、穴が空いている部分がショゴスに埋まってくれれば、あとはなんとかなるはず。



 ならなかったら死ぬだけ。もはや思い残すこともない。



 そんなことを思いつつ錐揉み落下。今度は頭が大きく動くから、すごく気持ち悪い。



 でも我慢。死ぬよりマシだしこれより酷い苦痛を知っているから、この程度問題ない。



 ...視界が動き続けているから見にくいけど、ショゴスはしっかり下に来てくれている。どうやらしっかり僕の声が聞こえているみたいだ。



 よしよし、そのままそのまま...これならすぐにでも羽をショゴスで浸すことが






 スパッ



 いっ!?やばっ、これっ、やばい!



 被爆なんて流石の僕でも初めてだけど、これは大真面目にやばい!



 そもそも見れないけど、見なくてもわかる!



 羽が、ドロドロと溶け始めてる!

予想とははるかに異なった挙動なんて、よくあることですよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ