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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第七章 狂季愁豪理不
375/402

対ヴルトゥーム① 除草剤

言えない...銀騎士を4時間くらい狩ってたなんて...

 ゾクリ、と背中を悪寒が舐めまわす。



 当たり前だ。僕はそれに該当する人を知っている。



 幾度も助けられた、命の恩人。



 彼女は確か、クトーニアンの話では入り口のそれを読んで、それで...



 それで...どこに行ったんだ?



「言っておくぞ。このヴルトゥームが扱う催眠や幻覚は人間が扱うゴミクズとはわけが違う。絶対零度で冷凍されようが、核汚染に浸ろうが解けることはない」

「じゃあ、クトーニアンに協力してくれたのは...」

「我が命によるものだ。結局、お前は踊らされていたにすぎないのだよ」



 となると、やっぱり疑問になる。



 なんでこの村に入った瞬間に殺さなかった?



「入った時点では気づいていなかったからな。どちらかといえば、クトゥグアやクタニドに気を取られていた。だが少し考えれば、奴らがいるならお前がいるということに気づけるだろう」



 それはない。断言できる。



 僕が入った時点で気づいたはずだ。



「なぜ断言する?」

「僕が、そう思ったから」

「ほう?」

「僕の知識が言っている。ヴルトゥーム、あんたはチャンスをみすみす逃すような神話生物ではない。むしろ絶対に掴むタイプだ。だから、あえて僕が入ってきても放置して、外堀を埋めていったんだ」



 僕が意識を失っている間に、お姉ちゃんたちに幻覚と催眠を施すことで僕が勝手に逃げ出さない土壌をつくった。



 そうでなかったら僕はここにいない。お姉ちゃんたちと一緒に他の街に向かったはず。



「知らなくていいことは知らないほうがいいし、知らなくていいことというのは事前にわかる。今回がその典型例だ」



 正直帰りたい。でもお姉ちゃんをほっとけるような人間性を持ち合わせていない。



 僕は、助けるためにここにいるんだ。



「...そうか。なら、こいつは用済みだな」

「う、うわあっ!?」

「ハルトくん!」



 触手に捕まったハルトくんはどんどん持ち上げられていく。しかし天井は先ほどの拡張でさらに広がっていて...






「...うぷっ」



 吐く。吐瀉物が地面を染める。



 さっきの、倒れていた状態であれを見ていたらセルフ呼吸困難になっていたかもしれない。



 ...だけど見てしまった。もう手遅れだ。現実に直視するしかない。



 吐き気は狂気の前兆。今はまだ、耐えられる。



「......くっ」



 気持ち悪い。気分が悪い。それを見ているだけで吐き気がする。



「あ...あ...」



 狂気のあまり声が出せなくなった男の子は、その蠢く肉塊に埋められていく。



 肉そのものが蠢き、服などの装飾品を残し、彼の生きていた証拠は無くなった。



 声もなく、ハルトくんは死んだ。



「どうだ、少しは恐怖を覚えたか?」

「...クソッタレ」



 何もできなかった。見ているだけしかできなかった。



 肉塊。それは人間とはあまりにも呼べないものではあるけれど、しかし彼が吸収されたことでわかることがある。



 あれは、いやあれらは元人間なのだ。たった1個の塊に、何十人もの人間が練り込まれている。それが球体に近い形を保っているだけにすぎない。



 ...最悪だよ。気づきたくなかった。



 肉塊を構成する人間を詳しく理解することは叶わないけど、2つわかることがある。人間であると分かったからこそ、分かってしまうことだ。



 1つは小さい槍が刺さっていること。厳密には大きいのかも知れないけど、肉塊が大きすぎて小さいとしか表現できない。間違いなく、それは<愛と名声と金のために(アイラブアイ)>だ。



 そしてもう一つは...やばい、吐き気が。



「うううっ」

「想像しただけでか。思っていたよりも弱いのだな」

「っ...」



 あの肉塊は...<結界>で守られている。



 だけどただの<結界>じゃない。内部にいるだけで怪我が再生する特別性の<結界>。



 <聖域>だ。



「はぁ...はぁ...」

「だがその精神力は褒めてやろう。自分から紐解いた事実によって堕ちた愚かさは、フッ嘲笑されるべきものだがな」



 吐瀉物が手に触れる。もうすでに血混じりであるそれは、HPを見なくとも限界であることを教えていた。



 ...当たり前のことだけど、1人じゃ勝てない。僕は弱いとかそういうの関係なく、1v1で神話生物に勝てる人間なんて限られている。



 だから諦めるか、逃げるかを人間はするんだ。



「諦めろ、すでに退路はない。大人しく、我の養分となるがいい」



 幾本もの触手がこちらに向かって伸びる。捕まったら、抵抗する力がない僕には死あるのみだろう。



「じゃあ諦めるか...否、それはない」

「威勢はまだあるか」

「威勢じゃない。これは僕が導き出す予測に基づいた、生きるための足掻きだ」



 正直言って、今までは本当に弱かった。



 ステータス的な意味でもそうだけど、何より前世の知識を活かせない。



 たくさんの異世界転生が前世では蔓延っていたけど、大概はチート系だ。スキルか、ステータスか、あるいは知識無双か。



 でも僕にはそれがなかった。僕自身ではなく、僕以外がそれを有していた。



「だけど、今は違う。ヴルトゥーム、あなたと戦うのなら、あなたに対する知識が使える」

「何?」

「僕は前世、その一生の7割をクトゥルフ神話に使った。本を買って、自分で翻訳して、理解して...毎日、基本的にそれしかやってなかった」



 僕が最初からクトゥルフ神話の知識を持っていてそれ以外を持っていなかったのは、自分の人生よりそちらの方が大事だったから。



「今は違う。僕は、確かに生きたい。自分の全てを投げ打ってでも、生きながらえたい」

「無理な話だな。今ここでお前は死ぬ」

「いや?死にはしないにせよ、大変な目に遭うのはお前の方だ」



 本当に、本当に幸運だ。たまたま試した方法がドンピシャで成功して、しかも今ここの空間でも動けるってんだから。



 やっぱり神話に対抗したいんだったら、実力だけじゃなくひとつまみの幸運も必要だね。



「ヴルトゥーム、予言しよう。あなたの敗因は...」



 バシィ



 触手に捕まれる。ここから自力で脱出できる方法はない。






 自力、ならね。

「メェーちゃんを無視していたことだ」

「なn」



 フッ



 瞬間、人型の実体が現れて、触手を両断する。



 手刀の一撃で。



「!?なぜ」

「は?何故?そんなの決まってるでしょ」



 聞き覚えのある声。だけどこのトーンは...



「私が、結構怒っているから」

「<魔力解放>後の、メェーちゃん」

「...シュブ=ニグラス!」



 大人モードのメェーちゃんはすぐにこちらを向いた。



 その手には...紙。



「ねえ、これは何?」

「何故だ...お前もマリアに従属しているはず。<<インベントリ>使用不可>のバッドステータスで、お前も出てこれないはず...」

「えっとですね。とりあえず、2時間くらい前の話をしますね?」



 ============================================



 うーん、思いついたには思いついたけど、これ本当に意味あるのかな。



「母に教えてください。協力くらいならできるでしょう」



 そうですか?なら...



 <<インベントリ>使用不可区域>。これは<制限>っていう<ダンジョン>の性質の1つで、これがある<ダンジョン>は神話生物が出てこれなくなります。



「ここにいる私たちはあくまで借体。<インベントリ>からだすアイテムのようなものですからね」

「そうだったのですね。母もそうなのですか?」



 そのはずです。



 ーインベントリーーーーー


 金 00.25.00.01


 本

 人形

 ミミズ

 小さいミミズ*15

 機械人形

 本

 印

 蜘蛛

 ランタン

 腐肉

 紋章


 ーーーーーーーーーーーー



 あ、この紋章がそうですね。



「なるほど。母やその他諸々が<インベントリ>から出てこれない状況になった場合の対策を考えていると」



 理解が早くて助かります。



「それで?思いついたのはなんなのですか?」



 一応...これです。



「...見たところ、契約書のように見えますが」



 さっき適当に書いたやつです。契約者の名前を書けば、それっぽい感じになるはず。



「これと対策にどう関係が...」

「単純ですよ。マリアは、自分から召喚した彼らとの契約を破棄しようとしているのです」



 はい。契約さえ破棄すれば、<インベントリ>から借体がいなくなる。神話生物は自由に行動できるようになりますから。



「でもそうなればほとんどは自由に行動するのでは?そもそも、そのちゃちな契約破棄書類で絵切るものなんですか?」



 そうなんですけど...まあ、やってどうにかなってしまうより、やらないで死ぬほうが怖いですから。



「...それで?誰にするのです?」



 今の状況のこととか、神話生物の人間に対する敵対状況とかを鑑みるに...



 やっぱり、メェーちゃんになるんだけど。



「シュブ=ニグラスは、今どこに?」



 多分宿屋の屋上。今は壊れていると思うけど。



「では母が渡してきましょう」



 いいんですか?



「ええ。この数では過剰戦力でしょうし、何よりシュブ=ニグラスとは一度話しておきたかったので」



 じゃあお願いします。



 ============================================



「そういうことだったんだ。あ、じゃあイブちゃんが空から来たのって...」

「まさか、そんなことが...いや、そんなことで回避できるとは...」



 僕もできるかできないかは半信半疑だったけど、できてよかった。



「そっか。でも...」

「でも?」

「悪い子には、お仕置きが必要だよねえ?」



 あ、やっぱりそうなりますか。逃げることができないので、できればお手やわかに



「しないよ〜?」



 そういったメェーちゃんは、手のひらを天に掲げた。



 ...すると。






「...バカな。ここは室内だぞ。それに、今日は満月で」

「私にとってそれは関係ないこと。君がよく知ってるよね?ヴルちゃん」



 洞窟内に、新月が出てきた。



 穴が空いたとか、そういうことではない。空間を転移したとか、そういうわけでもない。



 物理的に、広々とした洞窟に、新月が現れた。



 意味がわからない。そんなもの現れたら、重力の関係でここはメチャクチャになる。



 でもなってない。なんで...



「...外神は<魔術>を使わない。科学を使わない。あるのはただ...<現象操作>のみ」

次回はしっかり26日に

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