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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第七章 狂季愁豪理不
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討ち漏らし

そろそろかも

「心配には及びません。あれはわざと残したのです」



 というと...いや、今の状況だと残す理由は1つだけだ。



 つまり。



「あいつが違ってるやつ、ってわけか」

「はい。全く同じDNAなのであれば、むしろそれを逆利用してやろうということで、既存の除草用の<魔術>を少し改造し、特定のDNAを持つ植物のみを根絶する<除草>として使ったわけですね」



 これで特定はできた。特定も何も、探し物以外もうなくなったのだけど。



 ...それにしても、周りは大惨事だ。さっきまでいたのはただの洞窟だったけど、津波のような植物らによって個々の洞窟の合流地点のような場所になってしまった。



 ただこうなればなぜあれだけ多くの植物が来たのかも納得できる。



 あえて最初から道を作らず、こうやってちょっとしたギミックの後に道を作る。そうするとギミックを無視することができず、ある程度正規の方法で攻略することが求められるようになる。



 考えたなあ、ヴルトゥーム。いやまあここにギミック壊しのプロいるし、そりゃ考えておくか。



 対神話生物を想定してるんだもんね。



「何はともあれ、全員無事に突破できそうですね。植物のいるあそこの道を通ればいいのでしょう?」

「おそらくは。ただトラップがないとは言い切れませんから、注意するよう」

「俺一番乗り!!」

「...」



 走っていったクトゥグアは一旦置いといて、とりあえずこの<ダンジョン>を攻略できそうなのは間違いない。



「ハルト、念の為マッピングは続けてください、奴がこれ以上のことをしていないとは限りません」

「う、うん」



 握りしめたマップを再度開き、書き込みをするハルトくん。



 まだ夜は明けていないはず。しかしハルトくんはもう慣れた手つきでマップを描いている。



 やはりハルトくんにとっての天職だったようだ。



「...そろそろ呼び戻しますか。クトゥグア!戻ってきなさい!」



 危険がある可能性はないとは言い切れない。



 ましてや、今回の相手はヴルトゥーム。神話生物であり、クタニド様のことなどを知っているあたり、僕の知らないことでも知っているだろう。



 であるなら当然、この程度なら突破すると考えておくはず。僕なら考えておく。



 なぜなら、それほど神話生物は規格外だから。見知った仲なら、それくらい当然のように理解しているはずだ。



「?、反応がn」






 一瞬。ほんの一瞬だけ、音が消えた。



 空気中の全ての音が消えて、何もない、聞こえない時間が一瞬だけ訪れた。



 その一瞬は長いようで短く、理解した時には遅かった。



 ....ガッ



 次の一瞬で、音が復活した。何かが爆発する音と、同時に強烈な光。



 そして静寂。目の前の情報量からすると、これは別に音がなくなったわけではない。



 僕の鼓膜が破れただけだ。



 仮にもイゴーロナクの体であるはずのこの肉体、それが持つ鼓膜が破れた。



 一体...どれだけの強さの炸裂だったのだろう。おそらく理解できる範囲に程遠い威力であることに間違いはないだろう。



 またその炸裂の光は、通常炎が出すオレンジそのもの。火でありすぎるそれを見るに、この爆発はクトゥグアが行ったものであろうと推測できた。



 この被害、おそらくハルトくんも...あ、ハルトくんだけ<結界>が頭を覆ってる。ずるい。だけど無事ならまあいいとして。



 間違いなく、ハルトくんに被害が及ぶはずだ。クトゥグアはそんなことするような生物ではない。もしやるならそれはハルトくん個人のことではなく、環境とか世界に対する被害を考えずに行うはずで、こんな洞窟内部限定みたいな爆発はいささか弱すぎる。



 じゃあこの爆発はなんなのか。少し考えれば自ずと答えが見えてくる。



 爆発が弱いのは、おそらく強くする余裕がないからだ。そうでない場合、クトゥグア(脳筋)は無理やり強くしようと足掻くからね。



 ではなぜ余裕がないのか。その答えは単純明快。



「...同時に来ていれば、全員仕留められたんだがな」



 治っていない鼓膜に響く声。心に直接話しかけてきている。



 その声は、聞き覚えがある。ただし面と向かっては聞いたことがない。



「幸い......クトゥグ......牲だけ......うです」

「墓......しょうか」

「いや、俺死んでねえから」



 あ、生きてた。



「おう。だがちょっとの間戦えねえかな」



 足元からするその声は、転がっているランタンから。



 ヒビが入って、使い物にならない状態だ。



「では<インベントリ>に入っててください。邪魔です」

「くっそ...卑怯だぜ、あいつ」

()()に卑怯も何もないぞ」



 鼓膜の修復が進み、だいぶ声が聞き取れるようになった。同時に、前を向けばそこにいた。



 植物。先ほどまで襲ってきていた植物となんら変わらない姿、しかし声とそのそぶりを見るに自我を確立している。



 間違いなく、ヴルトゥームだ。



「面と向かっていても、様すらつけないか」



 すみません、今のところ付けたら殺される土壌が耕されているもので。



「ふん...」

「ん?...ああ、あなたがヴルトゥームですか。ふふ、可愛らしい姿になりましたね」

「ここに来た当初からこの姿だったからな。少し苦労はした」



 でしょうね。そこらへんお魔獣より弱そうなんだもん。



 魔獣は見たら殺すのが常識。見かけたらほとんどの人間が襲いに来たはずだ。



 しかしそれでも生き残っているのは...強いからに、他ならない。



「...さて。私がここにいるのはただ単に、私が案内を務めるからだ」

「ほう」

「まずはこれを付けてくれ」



 投げられた小物を、キャッチ。



 手の中にあったのは...1つの、指輪。



「これは?」



 どうやらこの場にいる全員に渡されているみたいだ。



「次の道を進むために必要なギミックだ。指に付けて欲しい」



 ちょっと小さいように見えるけど...あ、付けたら伸縮していい感じのサイズになった。



 謎技術だけど、これも<魔術>なんだろう...か......






 不意な悪寒。思い付いてはならない考え。それが一瞬だけ思考を妨げた。



 おかげで、周りを見ることができた。



 強い炸裂。それは本来、耳だけでなく目も潰すだろう。というか、クトゥグアの光であればまず目が使い物にならなくなるはずだ。



 もちろん途中から目は治っただろう。だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ...僕の思考に気づいたイゴーロナクが<魔法陣>を展開した。すでに幻覚に気づいた時点で、目の前のそれは変わっている。



 最初からおかしいと感じるべき点は2つもあった。



 相手が神話生物であり、神話生物直々の催眠幻覚が神話生物に効かないわけがないということと、

 クトゥグアがあっさりとやられていること。



 特にクトゥグアは、確かに他の神話生物と比べたら頭は良くないけど、じゃあ弱いのかというとそうではなく、むしろ強い。



 なのに負けた。そのことを考えるべきだった。おそらくは、その思考の鈍りすら症状の一端なのだろう。



「残念だったな。指輪をつけた時点で手遅れだ」

「くっ...」



 すでに可愛げのあった植物は姿形を変え、恐ろしい異形の姿となっていた。



 人型ではなく、それも模しただけの触手の塊。しかし立つのではなく生えている。



 大量の葉とびっしりとうねる触手。夥しい数の雄蕊は常に花粉を撒き散らし、それこそが幻覚の原因となっている。



「途中で気づかれて<魔術>の対抗になる...無論、予想しているとも」



 だが何より目を引くのは。雌蕊、あるいは大きな5枚の花弁を持つ花。



 僕の体より分厚い花弁は、その匂いだけで狂ってしまいそうだ。



「そして私は<魔術>に長けていない。この点だけは、今のお前に負けている」



 鼻の中にある雌蕊は、顔と認識させてくるような形をしている。だがイゴーロナクと同じでそれに意味はないはず。ただのダミーでしかないだろう。



「だが...今この場の土壌を整えたのは私。負ける通りは...ない」

「っ!?」



 バキィッ!!!



 大きい音と共に<魔法陣>が崩れる。



 そしてその瞬間、隣にいたクタニド様、そして僕の左腕が、消えた。



 ...この状態を僕は知っている。



「<<インベントリ>使用不可>。その指輪を付けた者に与えられるバッドステータスだ。確かお前たちはこれに弱いのだったな?」



 いつ、どこでバレたのかわからない。10分で考えた対策を使うことになるとも思わなかった。



 さすがはヴルトゥーム...そういうしかないのだろう。僕、上から目線をできる立場じゃないけどね。

初手不利状況。



次回

神話生物のまともな戦闘、開始。

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