謎の人形使い戦① ~デジャブ~
だいぶ遅くなりました。
次は多分9日になると思います。
瞬間、周りの様子が激変する。
壁は音もなく崩れ落ち、解け、床と同化する。
天井は伸びて広がり、新しい壁と結合し動きを止めた。
およそ部屋は5倍の広さになった。そして装飾も変わる。
大きなシャンデリアはさらに大きくなり、部屋全てが光に包まれる。壁には大きな窓と、その外に満月が照らすバルコニー。
典型的な、ダンスホール。壁が木製でなく西洋風であれば貴族などと呼ばれるような存在が持つ家にありそうなものだ。
「...なるほど。[クリエイトダンジョン]か」
「よく知っているね」
「持っていたやつと戦ったことがあるからね」
あいつが持っていたのは[試練]だったけど、もしそれと同じなら造った<ダンジョン>の内装は自由自在だろう。
「あっそ。じゃあ死ね!!」
地面に現れる大量の<魔法陣>。
それは淡い光を放ち、人形を召喚した。やっぱりあの人形たちはこいつのか。
「数にして100。これだけ多ければお前も」
「しゃがんでいた方がいいですよ」
「あ?」
「マリア。<結界>は使えますね?」
え、あはい。何とかシンプルなやつは使えるようになりましたけど...
「では指を伸ばすように」
指?...あ。(察し)
<結界>は、お姉ちゃんに教えてもらった。なんだかんだ<ダンジョン>にいる時間は長かったからね。
使うことがほとんどないのは、結局<魔力撃>を使ったほうが早いから。戦闘は早ければ早いほど死のリスクが低くなるからね。
============================================
「<装甲>...なるほど、かなり強い魔法だな」
「そのせいで結界の作り方がちょっと不思議だけどねえ」
そうなのかな。僕は普通に造っているつもりなんだけど。
「お姉ちゃんはどういうイメージで造っているの?」
「そうだねえ...<魔力>をある程度の量を外に出してえ、それを固めるイメージかなあ」
「僕は<魔力>を押し出すようにしてるから...」
体のあちこちからひり出すというのはかなりクセになってる。
<装甲>をそうやって作るようになっちゃたからだと思うけど、やっぱり直した方がいいかなあ。
「いえ、自分が慣れている方法の方がいいと思います。マリアの方法だと生成に少し時間がかかるかもしれませんけど」
「まあ<結界>使うのに時間がかかって困ることはほとんどないから。戦闘中に使うことがあまりないからね」
「そもそも戦闘中に使うなら速度的に<無詠唱>か<魔眼>が必須だ」
ですよねー。
============================================
。空よ、我に力を
。形成し、護りたまえ
<空結界>
「...まずまずですね。最低でもこれくらいは<無詠唱>でないと」
指にまっすぐと板、いや透明の刃が現れる。
いやイゴーロナク。これでも結構短いのよ?
普通に壁を作るくらいなら1小節くらいでできるけど、今回は違うでしょ。
めっちゃ長いじゃん。
「一体何をごちゃごちゃ」
「後々できるようでなければ簡単に死にます」
構える。手を水平に。
<魔力>を流してさらに切れ味を鋭く。
「よ」
そして一瞬で回転。もちろん刃も同時に。
壁まで達するほど長いこれは、圧倒的な速度で一回転した。周りにある障害物を巻き込みながら。
綺麗に首に全てヒットする。それが100体分。
バースト様はこれを射程を伸ばすとか一切せずに成していたけど、こうしてみると結構簡単かもしれない。
「ふむ、これが<円撃>ですね。<勇者>ソルスが何度か使用しているらしいですよ」
はえー、これ<魔技>なんだ。じゃあ僕たちはそれの射程を伸ばして使ったわけだ。
「バースト様のものとは違うような気がします。確かバースト様は攻撃後少しタイミングを置いて攻撃が発生していたような覚えが」
「それは正しいですよショゴス。奴が使ったのは<魔術>の一種、<結界>の応用です。広範囲を一度マークし、された場所に対して<結界>を発動、物理的に切断するもので、確か<断頭>というものです」
<魔術>の応用というかゴリ押しというか。
「...危ねえことするな」
「おっと生きてたか。てっきり雑魚は雑魚らしく死ぬと思ってた」
「何だと!!」
魔獣はすぐに立ち上がると、さらに魔法陣を組み上げていく。
今度は2つ。それもかなり大きい。
「...」
っと、そいつらは...
出てくる魔獣。それには心当たりがあるぞ僕。
<ゴブリン王国>、そこの第6層だったか。そこにいた魔獣だ。
確か...<操り人形>だったか。
それが2体。しかも武器を持っている。
サーベルと、あれはボウガンか?
そんなのが2体って、また結構きついね。
「...あの程度が?」
今のあなたならそう思うでしょうけど、前に戦った時は素っ裸同然、ステータスは今の1/10ってところだよ。
もちろん1撃で死ぬだろうさ。僕の中にはそういうイメージがあるの。
「へっ。<ダンジョン>の途中に出てくる大型魔獣、こいつらを2体相手にできるかな?」
「<ダンジョン>って言っても...こいつら、多分ワルの端っこの方にある<ダンジョン>でしょ?」
「ほざけ!!」
同時に、右と左から振り下ろされる刃。
<結界>はすでに間に合わない。このままではガードしても押し潰されるだろう。
ところで、神話生物というのはそもそも生物として格が違う。
これは人間と比べてではなく、ほとんどすべての生物に対してそう言える。
そして...少し考えればわかるけど、この世界は人間を元にステータスなどが決まっている。
イスの偉大なる種族が運営している、おそらくは人間観察の庭。それがここ。この世界だとそう考えることができるからだ。じゃなきゃイスの偉大なる種族はこんな面倒な仕事死んでもやらない。
イスの偉大なる種族の行動原理は今のイゴーロナクと似ている。つまりは知識欲。
ただ彼らは生きるために知を得るわけでなく、単純な知識欲で物事を動かすのだ。
まあそれはいいとして、詰まるところステータスのベースが人間というのなら神話生物にとってステータスは無意味に近い。
ある程度スキルで押さえつけてはいるものの、それは<魔力解放>などで突破できる範囲。人間と比べることはできない。
そうなると懸念されるのがバグだ。治せればいいけどそんな頻繁にバグが出てくるのは流石に嫌だろう。
ではどうするかというと、装備が重要になってくる。
============================================
「この世界の装備は非常に重要なんすよ」
「どういうことだ?」
あんまり装備を持ったことがないから全然わかんない。
そう思ったらキーゴイもそうだった。
「アイテムと装備。この2つは似て非なるものなんすよ。特に違うのは、威力などの計算式っすね」
「具体的には?」
「ほとんどのアイテムは加算っす。上位のそれになれば10万とか増えるっすけど...装備は乗算なんすよね」
わーお。
「何が変わるんだ?俺たちは武器ごとのステータスなんて全くわからないのだが」
「大違いっすよ。例えばキーゴイさんが持つその黄の棍棒...」
「<グレイトかに>か?」
「...それなんすけど。その棍棒の筋力倍率は*120くらいっす。対して街の店などで売っている紫の<金棒>が大体*40くらい...」
そんなに差があるの?それ、上下格差酷くならない?
「...流石にそれだけ大きければわかるな。実に3倍の差か」
「それもステータスによって差は大きく変動するっす。筋力が50のAくんがいたとして、それぞれを持った場合、<グレイトかに>なら実数値6000。<金棒>は2000になるっすね」
低いと話にならないけど、大きいとそれだけステータス格差が広がるだろう。それこそ100万単位の計算なら、単純な3倍ではなくなってしまう。
だからあの時エリカさんが普通にキーゴイと戦えていたんだね。質の良い装備であれば、道具などによるステータスの底上げも相まって、ある程度格上だろうと戦えるわけだ。
「あれ、そしたら神話生物って、なんであんなステータス低いのに戦えているの?バースト様はフル装備の<勇者>とも素肌でたたかってたし...」
「それはっすね、実はちょっとしたカラクリがあるんすよ」
============================================
曰く、神話生物の生物としての格の違いはすべて装備として扱っている。
そのためステータスの数値以上に身体能力は高くなる。HPが0になっても死なないのは普通にバグだけど、
「これ直そうと思えば直せるんすけど、やっちゃうと他の生物に重大なバグが生まれるんすよね」
とはサオさん談。
だからつまり、
「...は、はあ!?」
片手の口で刃を喰むことなど、造作もなくなる。
そりゃ道中の人形が何もせずとも1撃になりますよ。
神話生物がめちゃんこ強い理由でした。




