気合でなんとかできることというのは意外と少ない。
1年以上ぶりの
残り、18秒。
まずは軽量化のために頭部を切り離す。人間の頭の重さって結構ばかにならないからね。
同時にメェーちゃんもしまう。MPの回復が途切れたけど、こればかりはしょうがない。
さらに残りの<魔力>の全てを足に向ける。
「神話生物召喚に必要なMPがなくなりますが」
確かに。でもまあしょうがない。
未来のことを考えたところで、今死んだら意味がないからね。
集めて、集めて、さらに集めて、圧縮。
素の状態でジャンプ、空中で体制を整え、足と腕を揃えて...
角度、多分よし。重心、多分よし。
「<魔力撃>」
発射。
バァン!!
ロケットのごとく空中を進む。渾身の<魔力撃>であるが故に勢いは凄まじい。
ぐんぐんと高度を上げていく。普通なら前っていう手もあっただろうけど、これにはちょっと理由がある。
まず、僕の足がただの棒切れになること。実際今の僕の足は萎んだ筋肉が細々とついている骨になっているしなんなら断面はショゴスのそれになっている。
威力に耐えきれず、擬態が解けかけているというところか。
もちろんそれで歩くとか冗談じゃない。ショゴスの言う通り、疲労が積み重なっている今の僕ではこの傷を再生するには時間がかかる。
「大体1時間ほどでしょう」
らしい。
だけど何よりの理由は、空中にいる間に時間稼ぎをするためだ。
残り10秒。流石に8秒もあれば推進力は完全になくなって、自由落下の体勢に入る。
一応手足を広げて空気抵抗は高めておくけど、まあ落下の間だけでは10秒は無理だ。
計算はあまり苦手だけど、斜め上に8秒進んだのだから、落下はもっと短くなる。今も下を見れば地面が見えるような距離だし。
だから、
「<魔力撃>!<魔力撃>!」
胴を使って下から上への推進力を発生させる。さっきよりもかなり弱いけど、高度と時間を稼ぐ事は可能。
「<魔りょ...ごふっ」
口から血が湧き出る。胴に穴があるのを見るに、どうも相当僕は消耗しているらしい。
残り7秒。でもこの調子なら着地した頃には時間稼ぎとその結果も終わってそう...
...ちょっと待って。
「どうしました?」
いや...まあ僕は昇ってきたわけだから当然降りもあるわけだけど。
着地する時の衝撃、<魔力撃>の推進力で緩和するつもりだったのよね。
「無理です」
ですよねー。やばいどうしよう。
このままだと着地した瞬間に赤いシミになってしまう。
え、え、 やばい。ちょっと無計画すぎた自分に腹が立ってきた。
もういっそのこと誰かが助けてくれる可能性に賭けるか。だいぶ負け筋で構成されているけど、少なくとも自分でなんとかする方法はない。
だって肉体の僕から応答がないんだもん。さっきから真っ暗で何も見えない。
気絶...て事だよねえ。
いや、いい。もうしょうがない。
ショゴス、の声は聞こえないね。五感全部わかんないからね。
だからショゴスが僕の体を確実に治してくれることにさらにコインをベットしよう。
あと落下方向。最後の視点から変わっていないのなら今は首の方が下だから...
首先端に残り少ない<魔力>をかき集め、圧縮&爆発。
これでちょっとした時間稼ぎにはなったと思うから、あとは誰かがキャッチしてくれることをお祈り。
そしてMPとさらにHPまで削りに削った心の僕も、ついに意識が途切れる時だ。
まあここまでよく耐えた方だとは思うよ。うん。でもやっぱりまずいことになる可能性を承知の上で神話生物の助けを求めた方が良かったかもしれない。
もう後の祭りだけどね。さあ、お楽しみの気絶タイムだ。
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「おい...おい聞いてるか?」
「...ん、もちろん...zzz...」
「聞いてねえだろ...」
「キラ・グリズ!起きなさい!」
「...飛んできたぞ」
「...問題ない」
「!?、ね、寝ているのにキャッチした...!?」
「おーおー、さすがは天才様だな」
「ふわぁ......おはようございます、先生!」
「あのですね...ゴホン。ではキラ・グリズ、私が今こうして教えている授業は一体なんなのか」
「<撃属性>に分類される<打属性><斬属性><突属性>は物理的な攻撃に自動的に付与される属性であり、魔法で生み出すのは難しいものである。故に自分たちのような前衛を務める剣士は魔法を使うものを守ると同時に積極的に攻撃していかなければならず...」
「...結構です。どうやら基礎はしっかりとできているようですね」
「これでも学年1位なので」
「本当になんでこんな奴が...とにかく、次からは居眠りせず授業に集中するように」
「善処しまーす」
「はあ。懲りねえなあお前も」
「実際退屈だしな。結局教科書に書いている内容しか教えていない」
「俺たちはあの教科書を読み解くことすら難しいってのに」
「俺が教えているだけ皆より上手だろう、お前は」
「そうなんだよなあ。これでも何故か学年2位なんだよなあ」
「次の授業は...なんだったか」
「また<剣術>だよ。ただ、次の授業では遂に実践演習ができるらしいぜ。さっき言ってた」
「それは...楽しみだな」
「お、天才様も実践には興味がおありか」
「実践は演習だったとしても学べることが山ほどある。魔獣との戦闘で生きのこるためには、やっぱり経験も重要になるしな」
「確かにな。俺も楽しみだ、今まで学んでたものがどれだけ魔獣に通用するかってのはな」
「この授業が終わったらなんだろ?あとどれくらいで終わる?待ちきれないぞ」
「そうだな...天才様の基準で言うのなら、1眠りくらいか」
「......ならそのタイミングで起こしてくれ」
「んな急に、って...」
「zzz...」
「寝ちゃったよ...」
気絶落ち。
あと誰ですこの知らない人。




