幕引き1 <勇者>は死なず
こっからあと3話くらいですかね
「うっ......」
強烈な光とツンとした消毒液の匂い。
「...病室か」
目が覚めてすぐに周りを見渡せば、そこにはマイゲスとシートがいる。
「お、ようやく目が覚めたな」
「マイゲス...俺は何日寝ていた?」
「予想を聞こうか」
「7日だ」
俺が飲んだ前借薬の本数+1。
多分それくらいだと思うが...直近の記憶はヌトス、神話生物に負けた時のものだ。
やはり神話生物は強かった。バーストと戦った時生き残れたのは、正直なところシュブ=ニグラスの影響が大きいと言わざるを得ないだろう。
「残念だったな、10日と8時間だ」
「再生に時間がかかったようです。あのバーストが攻撃した時の傷とは比べられませんが、深い傷に加えて軽微の再生阻害があったと<聖なる十字架>が言っていました」
「その<聖なる十字架>は?」
「女性部屋にいます。あなた以外にも寝ている人はいますからね」
カミラとメーノもとりあえずは無事か。
どうやって逃げたのかは記憶にないが、しかし全員が生き残ることができた。
それは、確実に喜ぶべきことだ。
「しっかしよかったなソルス」
「ん?何がだ」
ニヤニヤとするマイゲスを見てシートに視線を移せば、そこにはため息をついているシート。
「間に合ったんですよ。あなたが起きた時間が、あれが始まる時間に」
「あれ?」
起きた直後だからか、あまり頭が回らない。
あれ...あれ...あれ...
「ま、結構な重傷が治ったばっかだかんな。思いつかなくても仕方ねえ」
「むう」
「これに関しては仕方ありませんよ...と、そろそろですね」
シートが<メヌー・リング>を操作する。
と、大きい板が出てくる。ステータスのそれと同じものだ。
ただ少し違う点がある。何かが映っていることだ。
「これは?」
「あなたが寝ている間にまた<更新>がありました。その時に追加された<通話>の応用機能、<配信>です」
「ある程度の<魔道具>は必要だが、誰でも<写鏡>ができるようになったってわけだ」
<写鏡>。遠くの情景や今起こっていることをそのまま見ることができる魔法だが...
「繋がったようですよ」
板に視線を移せば、映っているそれはどんどん明瞭になっていく。
そしてついに、どこか広い場所を映し出した。
まるで何かを発表する...
「...あ」
わかった。
人が舞台に上がる。
よく見たことがる人だ。
「...まずは発表が遅れてしまったことをお詫び申し上げます」
司祭様は淡々と話す。
「本来発表を共に行う予定でした<魔道具>職人のヌト、その裏切りが発覚しその対処を行っておりました」
ヌトス...その話が今出るということは。
「別館爆破事件、及びバミア邸爆破事件。この2つにヌトは関与しておりますが、あと一歩のところで逃がしています。現在の居場所は不明、見かけた方がいましたらすぐに<聖神信仰教会>にご連絡をお願い致します」
それは、止められなかったということだ。
「さて、辛気臭い話は終わりです。まずは新たな<魔道具>、いえ武器の紹介と致しましょう」
布を被ったカートが運び込まれ、それが顕になる。
「...なんか会場の反応は地味だな」
「無理もないだろう。見た感じは変な形をした金属塊だからな」
「初めて見ますが、確かに何かすごい感じはしませんね」
そう、あれはあれだけでは金属塊だ。
あれが<銃>、いや武器となるなら銃となるが、それたらしめるのにはもう一つ。
「皆様、落胆はもう少し待っていてください。これは投擲するためのものではありません」
四角い、小さい箱を取り出した司祭様は、そこにさらに小さい金属の弾を入れていく。
「どちらかといえばスリングショットに近い武器です。まずはこのマガジンに弾丸を入れ...」
きっかり6個の弾丸を入れたら、それを持ち手の下から挿入する。
「こうして装填。あとは的を狙って...」
丸太が3本、列で置かれている。
あれを的にするのか。
「撃つ」
バン!
「うわっ!?」
「きゃあっ!!」
「な、なんだ!?」
会場にいるであろう人の声が聞こえてくる。
さっきの銃が出てきた場面で声がほとんど聞こえなかったことを考えると、どうやら皆相当大きな声を出しているみたいだ。
「...びっくりしました」
「これを映すための<魔道具>を持っているやつも腰を抜かしてるみたいだな」
「ああ」
空が映る。綺麗な青空だ。
「だがシート、驚くのはこれからだ」
「え?」
カメラが元に戻ると、そこには無惨にも破裂し粉々になった丸太の姿があった。
それも3本全部。
「...少し思い出しましたよ。あれはヌトスが使っていたものです」
「お、よく覚えてんな」
「あの飛び道具...あれが銃...弓、もういらないのでは?」
確かにそうかもしれない。
いや、だが弓にも静音性という利点があるはずだ。弾となる矢のコストもそこまで高くない。
「まだまだお役御免にはならないだろう。だが、もし武器変更になるとして、それは可能か?」
「多分大丈夫だとは思いますけど...まだ使ったこともない武器ですから、使用しない限りはなんとも」
「シートは天才だからな、銃だって簡単に扱えるようになるさ」
会場も落ち着いたようだが...やはり反応はさまざまか。
「スッゲー!!あの武器なら魔獣だって怖くないぜ!!」
「あれ強すぎない?使うのも簡単そうだし...」
「怖かった...急にすごい大きい音が出るんだもん...」
「な、なんでこの世界に銃があるんだよ!?」
単に喜ぶもの、強いことに危機感を覚えるもの、恐怖するもの、困惑するもの...
「転生者はやっぱ知ってんのか」
「元より神話生物自体が<魔王>マリアが持ち込んだ他世界の存在だ」
「地球、と言いましたっけ。この世界にはそこからの転生者も多いですから、その世界の武器であればその反応は十二分にあり得ます」
...結局、戦争は始まるのか。
俺たちには止めることができない。相手が悪すぎる。
<魔王>と戦うことは間違っていないはず、そのはずだ。だがその戦いに他の誰かを巻き込むのは違うはずだ。
なのに...司祭様は。
「ソルス?」
「ああ...なんでもない。考え事をしていただけだ」
今は、それを考えるときではないか。
近づく<魔王>との戦いに、また備えなくては。
「ひとまずはシートが銃を使えるかどうかの確認からか?」
「ああ。傷が完治次第、銃について司祭様に聞きにいくとしよう」
神話生物を侮ってはいけない。それを俺たちは先の戦いで知った。
次は負けん。次会った時にあの体を粉々にするためにも、また修行のやり直しだ。
と言っても<ダンジョン>を巡るだけですけどね。




