第九十話~利潤~
第九十話~利潤~
宙賊が活発に活動しているらしいということを逆手に取って、俄かバウンティハンターと化した俺たち。その目標は、合法的な報酬二重取りであった。
航行不能となった宙賊の船に対して、制圧を目的とした戦力を送り込む。その全員が、高度の戦闘能力を有したガイノイドやアンドロイドで構成されていた。そして、乗り込む全員がメイド服に執事服を身に着けている。襲撃を受けた方は、理解できないままに討たれるだろう。少なくとも、俺が襲撃を受ける側なら理解できない。そう考えると、少し哀れにも感じる。だが、相手は犯罪者である。そこに、慈悲はない。せめて、俺たちの懐を温める役に立ってくれ。
「……どうやら、順調に制圧中のようね」
「寧ろ、あいつらを足止めできるような宙賊なんかいたら、逆にスカウトしたいけどな」
「それは……それも、そうね」
戦闘用にカスタマイズされた彼らたちの技量は、相当なレベルにある。何せ元になっているのは、俺や先祖返り状態のオルやキャスであり、そして祐樹たちの有している勇者御一行としての能力である。その上、今はいないが斗真や悠莉などといった悪魔でも上位にいる者たちが有していた技能なのだ。
と、こう列挙すればすごく感じる。しかし、流石に完全に再現などはできない。それこそ、個々に経験したものまで反映させることなどまず無理だからだ。やはり習熟に関しては、どうしたって経験がものを言う。ある程度ならば動きをトレースするなどして再現できたとしてもさらにその先を望むのならば、それこそそれぞれが昇華するしかないのだ。
≪……シーグヴァルド様、シュネーリア様≫
「どうした、ネル」
≪艦内の制圧完了。敵は、完全に押さえました≫
「ご苦労さん。ところで、三隻全て終わったのか?」
≪はい≫
「早いな。一まず捕らえた乗組員は、駆逐船の一角に纏めて放り込んでおけ」
カズサの僚艦となる大型駆逐船だが、こちらは完全にオートメーション化されていた。その為、艦内にはガイノイドたちも存在していない。駆逐艦内に居るのは、艦のメインコンピューターに管理されたAIを搭載されていないロボットだけであった。とはいえ、宇宙を航行している間は何が起きても不思議はない。それこそ、カズサにだって致命的な問題が起きないとは限らないから。その為、完全に無人でありながら生命維持装置などは普通に艦内に設置されていたのである。
それはそれとして、どうやら無事に宙賊どもを制圧したようだ。これで今までとは違って、売却品がかなり増える。何せこれまでは、敵の撃破を重点にしていた。しかし、今回は敵艦の全部を鹵獲したので、高額で売却できるだろう。
もっとも、売却する前に鹵獲した宇宙船の整備もするし、内部も確認もする。これは、売却値段を上げる為でもあった。しかし、そう簡単に値段を釣り上げることができるとも考えていない。その理由は言うまでもなく、どこまでいっても標的が宙賊の船でしかないからだ。
しかし、これがギルドに所属しているメンバーの乗艦であれば話は別になる。様々な仕事を請け負うことを求められるので、どうやっても自身の持船には気を遣うからだ。
そうしておかないと仕事が限定されてしまい、結果として儲けが減ってしまう。そのような事態とならない為には、日頃からメンテナンスやバージョンアップに手間を掛けた方がいい。そうしておいた方が生き残れる可能性が上がるし、何より儲けになるからだ。
その一方で宙賊はと言うと、そこまで気にはしないようだ。全ての宙賊がそうだとは言わないが、そういった者が多いのは事実である。
話がそれた。
何であれ宙賊の制圧は完了したので、次は先にも述べたように整備を行うことになる。一隻ずつカズサに運び込んで、そこで整備を行うのだ。
なお手に入れた三隻だが、整備班リーダーとなるマウノからの話では、性能的にめだつようなことのない宇宙船であるらしい。しかし、素早くエンジンを壊したことと、その後の艦内制圧の手際が良かったことで損傷は少ないとのことだ。その結果を聞いたシュネからは、二隻を売却することが提案された。
それならば残りの一隻はどうするのかと聞くと、補充部品の代わりとするつもりのようだ。今後のことを考えれば、それもまた一つの手かもしれないなと話を聞きながら俺は考えていた。
無事に二隻の整備と、パーツ取り用に確保した一隻の分解も終わったので、俺たちはコロニーステーションへと戻った。幸いなことに戻る途中で宙賊に襲われることもなく、実に安定した航海である。こちらとしても宇宙船を二隻も抱えていることもあるので、問題に遭遇しないのであればそれに越したことはないのである。
やがて到着したコロニーステーションで停泊させたカズサから下船した俺たちは、ギルドへと向かう。そこで捉えた宙賊たちを、ギルドへと引き渡した。全員ではないが、賞金首がいるので賞金を貰えるのだ。その後、窓口で手続きを行い、提示されている賞金を確保した。
本来であれば、賞金首の引き渡しなどといった用件については、きちんと申請した上で国から受け取るというのが正しい姿と言えるだろう。しかし、一々国に申請していると、お役所仕事の宿命としてとても時間が掛かってしまう。その為か、国とギルドの藍で話し合いが持たれた結果、国からギルドに対して賞金支払業務の委託を行っている。これにより、ギルドが賞金首に掛けられた賞金を払う代行をしているのだった。
賞金首に掛けられた賞金を受け取ったあと、引き続いて宙賊の為に通商を止められて迷惑を被っている商人たちが連名でギルドに出している賞金首狩りの依頼に該当する賞金首の報酬をいただく。残念ながら、該当したのは一人だけであったが、間違いなく報酬の二重取りが成功した瞬間だった。
「こちらが、依頼の報酬となります」
「確かに」
これでデータ上で賞金首が三つなくなり、同時に依頼が一つ完了扱いとなるわけだ。
報酬の手続きを終えたあとにギルドを出ると、宇宙船を取り扱っている業者を複数訪問するつもりだ。宇宙船のメンテナンスもあるので、大抵の宇宙船で使用されている共通のパーツならギルドでも購入できるし売却することもできる。しかし、いかなギルドと言え、宇宙船そのものまでは取り扱っていない。専門に取り扱っている業者がいるので、そちらに鹵獲した宇宙船を売却するのだ。
その後、ギルドに紹介された業種に向かったわけだが、当然のようにシュネが同行している。彼女がいれば、査定価格が妥当なのかが分かるので、寧ろありがたかった。他にも、セレンや俊が同行している。この三人がいるのだから、俺のようにメカに詳しくはない男がいても問題にはならないだろう。少なくとも、知らないことに付け込まれてぼったぐられる心配はないのである。
やがて到着した業者と、宇宙船売却の交渉を行う。先にも言ったように、俺には宇宙船の査定などはできない。ゆえに業者の相手は、シュネでありセレンであり、そして俊となる。そこに、俺の出番はなかった。少し寂しいが、仕方がないのである。
なお、訪問した業者だが、都合で三つだった。そしてその中の一つの業者へ、二隻の宇宙船が無事に売却された。その間、終始俺は蚊帳の外であった。だが、それだけに交渉の場を観察することができるというもの。その際に感じた交渉の場での印象だが、訪問した三つの業者から一様に疲れたかのような雰囲気が感じられていたような気がしていた。
確かに俺たちを言い包めて安く仕入れようとしていても、その端からシュネたちからたちまち撃破というか……論破? されていたことを考えれば当然かも知れない。そんな業者たちに俺は、これまた内心でご愁傷さまと手を合わせておいた。
まぁ、これは相手が悪かったと思って貰うしかない。いい経験をした、そう思えばいいんじゃないかな? と、俺は思うのだ。
因みにシュネたちだが、こちらは実にいい気分のようである。何でも事前に自分たちで行った査定額とほぼ変わらない……いや、多少は売却金額に上乗せができたらしい。このことを聞けば、今回の売却における交渉でどちらが勝利者だったのか言うまでもないないだろう。
「機嫌がよさそうだな、シュネ」
「そう? そうね、そうかもね。ほぼ満点と言っていい、売却だったから」
「……それで、エレンや俊も機嫌がいいと」
「そうね。多分」
「そうだな」
「なるほどなー」
業者との交渉がおわったあと、カズサに戻ってからもシュネの機嫌がいい。確かに機嫌が悪いよりはいい方が、それこそいいに決まっている。何より売却額が多いのだから、憂う必要などない。寧ろ、喜ばしいことなのだ。
「それで、シーグ。次は、どうする気なの?」
「ギルドの仕事もこれというのがないのは変わらずだから、暫く賞金首狩りを続けようかと考えている。一石二鳥、いや結果から考えれば三鳥だからな」
夢の二重取りという形で賞金は手にすることができるし、続けていれば宙賊も減る……かも知れない。もし、減らなかったとしても宙賊から襲われることは減ることになるだろう。そして宙賊が減れば、今は落ち込んでいる輸送などの依頼もギルドに出てくるのは必至なのだ。
というか、今は宙賊のせいでギルドが取り扱っている依頼などが激減しているのだから、宙賊が減るかいなくなりさえすれば反比例して依頼が増えるのは間違いなかった。
「分かったわ。それなら、出港の準備を急がせるの?」
「いや。そんな立て続けにはいいよ。今まで通り休みを挟みつつ、やっていけばいいさ。俺はいわゆる社畜やワーカーホリックになる気はないから」
「それもそう、ね。ゆっくり、行きましょうか」
俺の言葉に同意したシュネは立ち上がると、彼女が甘えるようにしなだれ掛かってくる。俺としても断る理由などはないので、肩に手を回すとシュネと共にカズサのブリッジから出て行った。その際に、ネルにあとを任せると声を掛けておく。すると、了承したようにネルが頭を下げていた。
その後、俺とシュネはしっぽりと過ごしたのである。
夢の賞金二重取りが成就です。
さらなる二重取りを求めて、宙賊狩りへ出発です。
ご一読いただき、ありがとうございました。




