第八十一話~急報~
第八十一話~急報~
ラトル共和国の辺境。資源惑星域のステーションコロニーにあるギルドで手に入れた情報を知らせる為に戻る途中、不幸なことに宙賊から襲撃を受ける。だが、俺と乗るキュラシエ・ツヴァイと祐樹の乗るキュラシエ・アインスによって撃退したのだった。
旗艦でもある戦艦カズサに到着した悠莉とハムーサとシュルンとサラサ、そして俺の代理を頼んでいた斗真も含め、彼らに手に入れた惑星の情報を公開した。
まずは惑星の位置だが、実はラトル協和国内ではない。ならば情報にある惑星はどこにあるのかというと、ラトル共和国の西に存在している。その地は、辺境となる。因みにこの場合の辺境とは、銀河としてみた場合の辺境だ。
正に、The・ド田舎である。
しかも、この領域には他に居住可能な惑星が見付けらなかったようで、アクセスの面倒さという点でも価値を見出せなかったらしい。その為、数回の調査を行っただけであとは放置された惑星系だったのだ。
「それでシーグ、環境はどうなんだ?」
「簡単に言えば、フィルリーアと同じ。違う点は、いわゆる知的生命体が確認されていないこと……らしいぞ」
「らしいって、どういうことなの? 何か問題でもあるの?」
「いや。単純に自分の目で確認していないから、そう言っただけだ」
「もう。驚かせないで」
「悪い悠莉。そんな気はなかった。それでどうする?」
「無論、行く」
そういうだろうなとは思いつつ、それでも一応は斗真に確認したのだ。もしかしたら、否定するかも知れないからな。
だが、やはりというか案の定、斗真はその惑星に向かうことに同意している。ふと見れば、彼だけでなく悠莉たちも頷いていた。ならば、俺としても異論はない。早々に、惑星へ向けて移動を開始することにした。
移動方法は、ハイパードライブという超光速航法となる。この銀河において、普通の航法となる。この超光速航法の詳細なデータ等は、クルドがコールドスリープしていた宇宙船のデータの中にあったので、実験がてらシュネたちが作り上げたのだ。
普通ならば取り扱ったことなどない理論やシステムなどを実現させるのは難しいかも知れないが、幸いなことにクルドの宇宙船のコンピューターが現役として稼働している。そちらからの情報提供で危険な点など分かるので、ただ作るだけならそれほどでもでもなかった……とはシュネの言だった。
本当にそんな簡単にできるものなのか思わないでもないが、現実に作り上げてしまった以上そういうものだと納得するしかない。流石に自分の目で見た現実まで、否定する気などないのだ。
それはそれとして、現地へ向かう途中で別の惑星系に寄る。そこは目的地となる惑星にもっとも近い惑星系であり、しかもラトル共和国周辺にある小国の首都がある惑星だ。というかこの小国は、そもそも一つの惑星系しか領有していない。地球的な意味で言えば、太陽系が国となっている。そう考えて、差し支えがないだろ。
「へー、居住可能惑星が二つあるのか」
「片方は、テラフォーミングしたみたいだけどね」
「ああ。えーっと、バダタ……バリタ……シュネ、何だっけ」
何かのサイエンス番組で、生命が誕生するとか生命の生存が可能な惑星があるエリアを示す言葉を紹介していた。だけど聞き流していたので、うろ覚えでしかない。そこで知っていそうなシュネに尋ねると、流石は天才。しっかりと、答えてくれたのだ。
「バビタブルゾーン。天文学では、生存可能領域とか生命居住可能領域とか言われているわね」
「あー、それそれ。そのバビタブ……ルゾーン? に惑星があったというわけか」
「そのようね。太陽系で言えば、火星とか金星ね」
「金星? 金星も可能なのか? 確か、滅茶苦茶高温だって聞いたことがあるけど」
「そうね。金星地表の気温は、四百度を軽く超えるわ。それとシーグ、生物が住んでいない惑星を生物が住めるような環境にするのがテラフォーミングなのよ」
はー。そうか。
今まで生物が住んでいなかった惑星を、住めるようにするのがテラフォーミング。言われてみれば、確かにその通りだわ。
「なるほどねぇ。そういうものか」
「そういうものよ」
科学者からそう言われれば、そうだと納得するしかないよな。こちとら、その分野に関する薀蓄などないのだから。
それはそれとして、今はこの小国……名前はグリッド国というらしい……に立ち寄ったわけだが、その目的は宙賊の首に掛けられていた賞金を受け取ること。そして、前に立ち寄ったコロニーステーションで念の為にと残しておいたレアメタルなどを売り資金を得る為である。これで得た金で物資の補給をしたあと、いよいよ情報の惑星へと向かったのだった。
グリッド国の首都星の上空、というか宇宙空間に浮かんでいるコロニーステーションを出る。ある程度距離が離れたところでハイパードライブを使い、いよいよ情報にあった惑星へ到着した。
ここでいきなり惑星上に降りる、などということはしない。何せこの惑星及び惑星系の調査が最後に行われてから、大分時が経っている。その間に、何か予想外のことが起きていたとしても不思議ではないのだ。
まずは惑星の衛星軌道上に、人工衛星を幾つか放出した。これで、地上の大まかな調査を行うのである。そこで得られた情報を基にして、惑星上に無人探査機を送り込むのだ。
この無人探査機で地形などといった詳細な調査を行い、得られた情報から惑星の着陸地を選定する。同時にこの調査は、悪魔たちが最初に居住する場所を選定する為の調査でもあった。
「さーてと。あとは任せるとして、俺たちは惑星系内の調査に従事しますか。この場は斗真たちに任せることになるが、大丈夫だよな」
「ああ、任せろ。シーグたちこそ、気をつけろよ」
「ああ」
ここで艦隊を二つに分け、惑星上には斗真が艦長を務めている重巡洋艦と元四天王最後の生き残りサラサが艦長を務める移民船が残る。さらに護衛として駆逐艦が二隻と、最初のキュラシエと同型機となるキュラシエ・ヌルとキュラシエの飛行ユニットでもあるキュラシエ・ファルケも幾つか残していく。
なお、ここで惑星上に残す艦やキュラシエは、惑星に問題なく移住できることが分かれば斗真たちに移譲することになっていた。
大型駆逐艦二隻は完全に自動化されているし、キュラシエ・ヌルとキュラシエ・ファルケは搭載されたコンピューターによる自動操縦と迎撃が可能なタイプなので、人材を使わなくても運用できるのだ。
何せ当初の予定では、俺とシュネぐらいしか宇宙的な知識や人型ロボットなどに対応できる人材がいなかった。その後、祐樹たち勇者一行や斗真と悠莉が加わったことで少しは対応できる者は増えたが、それでも人材不足という点は解消されたわけではない。悪魔たちも数こそはいるが、元はフィルリーアの住人でしかないのだ。
そもそも、宇宙という領域があることすら彼らは知らなかったのである。幾ら教育をするといっても、付け焼刃感はどうやっても否めないのだ。
それにこれは、オルやキャスの兄妹やセレン。そして、サブリナだって同じとなる。実際、フィルリーアを出てから暫く慣熟する為に惑星系に留まった理由も、彼らを宇宙に慣れさせるといった意味合いの方が大きかった。
宇宙に出た経験が少ないという意味においては俺やシュネや祐樹たちも同じだが、幸いSFアニメやノベルなどのサブカルチャーに慣れ親しんでいた面がある。そのお陰で、フィルリーア出身者から見ればその分だけ短時間で教育は済んでいるのだ。
それに俺の場合、実験で先に宇宙へ何度か出ている。その意味で言えば、俺自身は慣れていたので殆ど問題はなかったけどな。
話が少しそれた。
何であれ、人材不足を埋める為。またビルギッタたちガイノイドやアンドロイドの数を必要以上に増やさないという観点からも、自動化は具合がいい。その上、俺たちにはネルトゥースという凄まじいまでの性能を持つマザーコンピューターがあったことも幸いだった。彼女の長い時に渡って蓄えた様々なデータをコピーして、自動化されている宇宙船に移植搭載すれば、そちらで対応することができるからである。
なお、重巡洋艦にも移民船にもネルトゥースのデータをコピーしてあるので、こちらも問題とはならない。この辺りは、機械の利点と言えるだろうな。
何はともあれ惑星上空に斗真たちを残し、俺たちはカズサと一隻の大型駆逐艦で惑星系内の調査を行う。もっともこちらに関しては、実際に移住することになる惑星に比べれば重要度は低い。それほど慌てて調査を行う必要もないので、調査用に各惑星の衛星軌道上に人工衛星を幾つか運用することで、対応させていた。
寧ろこの調査で重要なのは、資源の確保だったりする。と言うのもこの惑星系には、太陽系で言うところのアステロイドベルトに該当するような領域が存在するのだ。この小惑星帯で掘削作業を行って、できるなら小惑星をも移住惑星近くに移動させて採掘資源として使うつもりなのだ。
他にも、自分たちの資金とする為や実際に使うようの資源などと、使い道はそれこそ色々とある。俺たちは惑星に移住する斗真や悠莉と違って、旅は続けるのだからだ。
「さて、作業とか頑張りますかね」
『おー』
こういったことをするという意味では、人型と言うのは都合がいい。足はとりあえず置いておくとして、腕が使えるというのは効率がいいからだ。戦闘用というコンセプトで開発されたキュラシエシリーズではあるが、別に土木などに使ってはいけないという縛りがあるわけではない。道具は、使ってなんぼなのである。
俺たちはシュネの建てた計画の元、着実に仕事をこなしていく。別に今回だけしか小惑星帯での削岩作業ができないというわけでもないので、根を詰めることなく余裕があるうちに切り上げて戻ることを計画していた。
そしてあくまで予測となるが、戻った頃には大きい意味での惑星調査は終わっているだろうな。などと考えていた時、緊急の連絡が入る。その内容は、襲撃を受けているという物だった。
「どういうことだ、斗真!」
「こちらが知りたい! 調査しているさなかに、いきなり攻撃を受けた!!」
「は? なんだそりゃ! ええい、分かった! すぐ戻る!!」
斗真にそう返答すると、全員をカズサに集めた。
僚艦となる大型駆逐艦は、自動操縦なので付問題はない。寧ろ問題なのは、資源収集用にと稼働させている機材等を積みこんでいる時間がないことだ。
「くそ! 放り出すしかないか」
「いえ、駆逐艦を残しましょう」
「え? シュネそれはどう……ああ! そうかっ!!」
駆逐艦を残して、拠点とさせればいいのか。人員等は、アンドロイドやガイノイドたちに任せればいいわけだしな。
急遽、大型駆逐艦と現地スタッフを残して、俺たちはカズサで惑星へ向かう。襲われたという斗真たちを救うべく、小惑星帯から単艦での離脱をするのであった。
なぜか、無人惑星の筈なのに襲撃を受けています。
というわけで、転進ですよ。
ご一読いただき、ありがとうございました。




