第六十三話~幕切~
第六十三話~幕切~
ふとした言動から、転生者の疑いが濃くなった悪魔王スイフル。とはいえ、今のままでは確認することは難しいだろうことも分かる。そこで相当にまで追い詰めることを、内心で決めていた。
別段、煙に巻く気もなかったし、スイフルを馬鹿にした気などなかった。だが、相手は馬鹿にしたとそう感じたらしい。そのことを示すように、スイフルが手にしているオリハルコンの剣で切り掛かってきた。
全くもって、言葉というかコミュニケーションというものは難しいものである。とはいえ、このまま黙って切られるわけにもいかない。こんなところで、死ぬ気などさらさらないのだから。
ゆえに俺は、スイフルの攻撃を迎撃するべく身構える。そこに、上段から振り降ろされるオリハルコンの剣。しかし聞こえてきたのは、切り裂かれたような音ではなく、金属同士がぶつかり合ったような甲高い音だった。
「……ば、馬鹿な……」
オリハルコンは、フィルリーアでは最高の金属とされている。金属的な硬さと粘りを併せ持ち、しかも魔力すらも宿らせることが出来るのだ。正に、最上級といっていいだろう。そのオリハルコンによって作られた剣が、俺によって受け止められているという現状を見て驚きの声を漏らしていた。
スイフルが剣を持って戦うなどそうあることではなかったかもしれない。何せ悪魔を統べているのだから、そう簡単に前線へ出るなどということはないだろうからだ。しかし、全くの皆無ということもないだろう。それこそ数こそは多くないだろうが、実際に剣を交えて戦ったことぐらいはある筈だ。
その数少ない戦いの中でも、恐らくオリハルコン製の剣はその性能をいかんなく発揮して、それこそ相手の鎧ごと切り裂いていたと思われる。実際、俺の持っていた短杖が切り裂かれているのだから間違いはない筈だ。
前にも述べたが、短杖はオリハルコンには及ばなくても、オリハルコンの次に堅いとされるアダマンテインより僅かに劣るアダマンティンで作られていた。その短状を、苦も無く切り裂いたのだから、スイフルの持つ剣の性能について語ることはない。だからこそ、彼は目の前に展開された現状を見て、驚きに彩られたのである。そんなスイフルに対して俺は、にやりと笑みを浮かべつつ受け止めた彼の剣を弾き返していた。
「ど、どうして受け止めるなど……まさかっ! オリハルコンか!!」
「残念だが、違う」
「ならば……ならばどうして受け止めたばかりか、弾き返すなどができるのだ!」
無論、そんなことが出来るのは俺が身に纏っているデュエルテクターが、緋緋色金製だからに他ならない。オリハルコンと同じで、いわゆる魔法金属と分類されているミスリルだが、残念なことに性能としてはオリハルコンよりは劣ってしまう。そのミスリルをシュネがさらに追加工することで生まれたのが、緋緋色金なのだ。
どのような追加工がされたのかについては、俺も分からない。というか、とても専門的過ぎてそれこそ科学者などではないと理解できないだろう。いや魔科学を根拠としていることを考えれば、科学者でも分からない可能性すらあった。
ただ俺としては、緋緋色金がオリハルコンと遜色ない性能を持っていることが分かっていれば十分なのだ。
因みに、スイフルのオリハルコンの剣を受け止めたのは、デュエルテクターの両腕に取り付けられた爪に他ならない。この爪もまた緋緋色金製なので、オリハルコンと打ち合っても負けることはなどないのだ。
オリハルコンの剣を受け止められたという驚きも理由に入っていると思われるが、スイフルの動きが悪い。幾ら弾き返したといっても、それだけで体勢を崩すとは思えない。それであるにも関わらず、彼はたたらを踏んでいたのだ。
これは正に好機と言えるし、隙だと言える。俺は一気にスイフルの近くまで踏み込むと、肩口からぶつかる。体勢が崩れていたところにショルダータックルを受けたスイフルは、部屋の壁近くまで飛ばされた。
いや、そのままであれば勢いそのまま壁にぶつかっていた筈だ。しかしスイフルは、咄嗟に羽を出して勢いを緩和する。しかし、完全には止めきれていなかったようである。勢いこそ大分減退していたが、壁にはぶつかっていたのだ。
「ぐっ! はっ!」
一瞬だけ、かっと目を見開いただけでなく、肺の空気も吐き出してしまったらしい。幾ら勢いを減退したといっても、まだそれぐらいの威力はあったわけだ。
そんなスイフルであるが、容姿も先ほどまでと変わっていた。つい先ほどまでは、ほぼ人間と変わらない姿をしていたのである。しかし今は、背中から羽を一対生やしている。また肌の色もいわゆる肌色から少し青みが掛かったような肌へと変色している。そして最大の特徴といえば、やはり頭から生えているねじくれた一対の角であった。
その容姿は、まさに悪魔である。地球に生きる人間で、相応に知識を持っている者ならば間違いなくそう思うだろうと思える姿だった。いわゆる宗教画とかで、奇麗な容姿で描かれる名前持ちの悪魔。そう考えれば、イメージし易いかもしれない。具体的な例を挙げれば、ルシファーとかそんな感じの存在である。
「正に、悪魔。悪魔王の名に相応しい……といえるのか?」
「う、うるさい!」
壁を背に立ち上がったスイフルは、数度頭を振ったあとでしっかりと剣を構える。不思議なことに、その構えた姿は祐樹と非常に酷似していた。祐樹から聞いた話だと、アシャン教に伝わっている武術は一般的に教わることが出来る武術とは色々(いろいろ)と違うらしい。何ゆえにそんな違いがあるのかは、祐樹も知らないとのことだったが。
つまり、アシャン教に伝わっている武術は、アシャン教関係者でしかも直接戦闘に参加するような者ぐらいしか使えないというわけである。そのような、ある意味で門外不出とも言えそうな武術を、存在が対局といっていい悪魔を統べる男が使っているのだ。これを不思議といわず、何を不思議というのだろうか。
「せいっ!」
「……っと。考えている場合じゃないか」
少しだけ思考に沈んでしまったことで、隙でも生んでしまったのだろうか。スイフルが、踏み込んできた。その剣を紙一重で避けると、前方へ回転して追い越し、後方から回し蹴りを叩き込む。虚をつけたことでまともに食らうかと思ったが、そのわりには手応えというか足応えが軽い。それもその筈で、スイフルは半ばその蹴りを避けていたのだ。
どうやら、切り掛かってきた勢いを殺さなかったらしい。結果として、蹴りの打点をずらした形となったようである。要するに蹴り半分、押し半分という中途半端なものとなってしまったのだ。
だが、ここで追撃も難しい。俺としても、いささか無理な蹴りであったことは否めない。まずは体勢を立て直し、そこで身構える。そしてスイフルはというと、彼も数歩押し出されたあとで体勢を整え、剣を構えていた。
「悪魔王、一つ質問だ。貴様が何で、その剣術というか武術を使っている?」
「ん? ……ああ、そうか。そこの勇者にでも聞いたか」
「そうだ。祐樹からその武術は、アシャン教独自だと」
「さあな。知りたければ、俺をぶちのめしてみろ!」
「そうか、分かった。では……てめーをぶちのめしてやらぁ!」
俺はスラスターを使い、一足飛びどころか瞬きする間こそないとばかりに接近して見せる。そのまますれ違いざま、自身の腕をスイフルの首に引っ掛ける。同時にスラスターを切り、相手を背中から床へと叩きつけた。当然だが俺も床に転がっているが、その状態から再度スラスターによって空中へ移動する。そこ三度スラスターを切ると、自由落下しながらスイフルの鳩尾近くへ肘を叩き込んだ。
元々(もともと)、御堂流は、武芸十八般は当たり前という古武術である。それでも飽き足らず、現代武術や軍隊格闘なども積極的に取り入れてきた。だからこそ、俺も武芸十八般は普通にこなせる。そんな俺がもっとも得意としたのは、体術である。次いで、剣術と杖術だった。
つまり、近接格闘は俺の十八番といっていい。その十八番である体術にスラスターが加わることで、いま行ったようなより立体的な動きが可能となっているのだ。
「ごはっ」
首と後頭部、それから腹へと連続でダメージを受けたスイフルへさらに追撃を掛けるべく素早く起き上がると、相手の頭へ足を振り降ろす。しかしスイフルは寸でのところで気付くと、形振り構わず転がることで避けていた。
スイフルにまだそれだけの余力があったことに、少しだけ驚く。何せ首にダメージを負ったことで息苦しくなり、その上、後頭部と背中にダメージが入っている。それだけでなく、鳩尾近くに肘打ちまで食らいながらも、避けてみせたのだ。その避け方が、たとえ無様であってもである。どうやら、まだダメージが足りないようだった。
そのかろうじて避けていたスイフルだが、表情を歪めながらも何とか自身の足で立っている。ただ、彼の浮かべている表情が痛みによるものなのか、それとも痛みを与えられたことからくる悔しさからなのかは分からなかったが。
「……ふむ。勇者よりは腕が立つようだが……その程度か」
「何だとっ!」
「やれやれ。大言を放つなら、相応の実力ぐらい身に着けていろよ」
「舐めるな!!」
俺はあえて肩を竦め、残念そうな表情をしつつも首を左右に振ってやる。そんな仕草を見て激昂したらしく、痛みすら忘れたかのようにスイフルが飛び込んできた。そのことに、俺は内心で笑みを浮かべる。無論、このような仕草をしたのはわざとでしかない。相手から、この場合はスイフルから冷静さを失わせる為に取った行動だった。
そして目論見通り、ただ真直ぐに飛び込んできたというわけである。しかもご丁寧に、上段からの振り降ろしというとても読みやすい攻撃でだ。その振り降ろされた剣を、半身になることで避ける。その際に、振り降ろされた剣のグリップと剣を持つスイフルの手を掴み、捻りながら足を払って転ばせた。
その際、思わず剣を離してしまったスイフルのオリハルコンの剣を持つと、倒れこんだ悪魔王の右肩口へ、オリハルコンの剣の切っ先を勢いよく突き刺した。
「ぐはぁああ!」
「斗真!!」
オリハルコンの剣は、肩からスイフルの右腕を切り離す。しかも剣は見事な切れ味を見せ、剣身の半ば以上まで床へと埋没していた。その一撃をお見舞いした時、シュネと相対していた恐らく悪魔妃と思われる悪魔からスイフルに向けて呼び掛けをしている。しかしその時に出た名前はスイフルではなく、なぜかトーマという聞いたこともない名前だった。
そのことに眉を寄せたが、あと回しにする。俺は腕が切り落とされた肩を抑えているスイフルへ拳を振り降ろすが、寸でのところで止める。その為、俺の腕に付いている爪がスイフルの顔面へつきつけていた。
「まだ、やるか?」
「……くっ!」
完全に勝敗がついたこの状況では、流石に動きは取らない。それでもスイフルは、下から俺を睨みつけていたのだった。
一応、シーグと悪魔王の勝敗は決しました。
これでまた一つ、動きます。
ご一読いただき、ありがとうございました。




