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第六十四話~事情~

今年、最後の更新となります。

皆様よいお年を。


第六十四話~事情~



 悪魔王のオリハルコンの剣を奪うと、そのまま奴の右肩口に突き刺して腕を切り飛ばす。そして間髪入れずに、デュエルテクターに装備されている爪を突き付けることで、戦いを幕切れにしたのであった。





 悪魔王スイフルを動けないようにしたあとで、それぞれで戦っていた味方の状況を確認する。無論、味方が劣勢な事態となっていた場合に助けに入る為だったが、どうやら杞憂きゆうであった。

 既にオルたちは、対峙していた悪魔たちを既に倒していたし、さらには祐樹たちの手助けも行っている。その為、元から祐樹たちと戦っていた男女の悪魔も、反撃もままならず完全に劣勢へと追い込まれていた。

 既に男女の悪魔が率いていた悪魔たちは倒されているし、両者とも体のあちこちに傷を負っていて、そこから血を流している。このままいけば血が足りなくなって倒れるか、それとも戦って倒されるかのどちらしか選択は残っていないとしか思えなかった。

 また、腕を切り飛ばされた際にスイフルに対してトーマと呼び掛けた悪魔妃も、シュネによって追い詰められている。どうやら彼女は、肉体的には兎も角、接近戦は苦手としているようだ。その動きを見れば、それは明らかといえる。その証拠に、シュネと比べても稚拙な動きでしかないからだ。


「どうする。悪魔王。このまま続けるか? それとも……全滅するか!」

「……」


 言葉初めこそ穏やかに言ったが、全滅のところだけは殺気を多分に込めて言い放つ。その殺気に当てられたスイフルの表情が、強張っていた。そればかりではない。視線を向けていないので気配でしかなかったが、他の戦っている敵味方問わず動きが止まっているように感じられる。例外はシュネで、彼女だけは殺気に固まることなく動き悪魔妃へ接近したようだ。

 流石は幼馴染、伊達だてに二十年以上俺の近くにいただけはある。とはいえ、その彼女も殺気を手加減せずに放った時は多少なりとも動きがおかしいように思えたがな。


「それで、もし続ける気がないなら止めさせろ」

「…………分かった」


 不承不承ふしょうぶしょうなのか、それとも力なくなのかは判別できないが、スイフルは俺の言葉に従ってまだ戦っている男女の悪魔へ指示を出す。諦めずに抵抗を続けていた二人だったが、スイフルの言葉に驚きの表情を浮かべる。やがて力なく項垂れると、手にしていた武器を手放していた。

 なお、悪魔妃は既にシュネの持つ風火輪を首元へ着きつけられた状態となっていて、抵抗をしたくてもできない状況に陥っていた。


「ねぇ、シーグ。どういうつもり?」

「ちょっと、確認したいことがあるんだよ。それが終われば、セレンに任せる」

「…………貴方あなたたちがいなかったら、あたしはここにいることもできなかった。だから、そちらの意向従うわ。納得はできないけど」

「悪いな、セレン。さて、スイフル。一つ語ってもらおうか」

「いいだろう。どちらにしても、否はないだろう?」

「当たり前だ。負けた方に選択肢などあるか」


 その後、スイフルたち悪魔へ血止めの為に治癒術を掛ける。流石に完治させるには、彼らの負っている怪我が重い。この怪我を完治させようとすれば、魔力もそうだが治癒術を施された相手の体力を、かなり消耗するのは間違いない。生命力が強い悪魔だから、簡単には死なないかも知れない。だが、それを差し引いたとしても、一気に完治させるのは難しいように思えた。

 何より、今はこちらに従っているとはいえ敵であったことに変わりはない。そこまでしたいとも、思えなかった。ともあれ俺は、血止めを行ったあとで気になっていたことを問い掛ける。まず尋ねたのは、スイフルが転生者であるかどうかについてであった。

 それに関しての返答は、イエスである。さらに詳細を聞くと、そもそもスイフルは祐樹たちと同じ立場であったらしい。彼はアシャン教によって呼び出された転生者であり、それは今から五十年ほど前のことだというのだ。

 当時、フィルリーアを恐怖のどん底へと叩き落していた最強の魔獣、その魔獣を討つ為に呼び出されたのが彼らしい。その頃、彼は斗真と名乗り、最強と称された魔獣との戦いに勇者としてのぞんだのだ。また、悪魔妃とされている彼女も転生者で、スイフルと同様にアシャン教によって呼び出された者であったそうだ。


「ほう? その五十年前の勇者が、どうして悪魔王などになった?」

「理由は、裏切られたからだ」


 話は、魔獣との最終決戦にまで遡る。

 仲間と共に艱難辛苦かんなんしんくの末、ついにスイフル……いや、斗真は魔獣を討ち果たしていた。そこまではいい。だが、折角魔獣を倒したにも関わらず、その段になって突然仲間たちが襲ってきたというのだ。いきなり仲間から攻撃を受けた斗真と、悪魔妃こと悠莉は、まさかの事態に混乱をきたしてしまう。それでも死にたくない一心で、二人は必死に抵抗した。

 しかしながら斗真たちは、魔獣との最終決戦を終えた直後である。魔獣との死闘で負った怪我すらも治療できていない状況であり、攻撃した側も動きに精細を欠いていた。それゆえ二人は、何とか嘗ての仲間を倒すことで勝ちを収めたが、斗真にしても悠莉にしてもさらに重篤じゅうとくな怪我を負ってしまっていた。

 この話を聞いて俺たちが思い至ったのは、サブリナへと掛けられていた呪術である。恐らく、斗真の仲間にも同様の呪術が掛けられていたのだろうことが想像できてしまった。

 ともあれ、敵となった嘗ての仲間を打ち倒すことでどうにか生き残った二人だったが、先に言ったように重篤な怪我を負っている。このままでは死を迎えてしまったかもしれないが、幸いにして悠莉が聖女であり、治癒に精通していたことがプラスに働いたのだ。

 さらに言えば、もう一つある。それは、魔獣との最終決戦がこの施設内であったことだ。実はこの施設に、力あるモノを悪魔へと変えるあの装置のオリジナルがあったのだ。そして二人がその装置に気付いたことも、偶然に他ならない。悠莉の治癒術のお陰もあり短時間で倒れることは免れたが、所詮それは延命処置に過ぎない。二人とも負った怪我を命の危険が及ばないレベルにまで完治させなければ、遠くないうちに死んでしまうことは考えるまでもなかった。

 かといって、こんな文明圏から遠く離れた地から移動して治療をするなど難しい。それでも万全の状態なら、可能であっただろう。だが、今の状態では難しかったのだ。

 また、ここまでの足であった魔力飛空艇も、着陸した際に損傷でもしたのか調子がよくない。何より二人だけとなると、魔力飛空艇を動かすには手が足りかった。そんな二人が一縷の望みとしたのが、正にこの施設であった。

 彼らが魔獣との決戦行う際に、施設内を探索したことである程度だが、施設についての概要を把握していたらしい。どうやらこの施設、元は生物の研究施設であったらしく、実は彼らが相対した魔獣も、この研究所によって生み出された存在が元であったようだ。

 古代文明の崩壊直後に偶然生き残っていた魔獣が動き出し、長い歳月を経て強大化したというのがことの真相らしい。さらに、魔獣の研究だけでなく、生物をより強化するという目的の研究をも行っていたようなのだ。そしてその研究の答えの一つ、それが悪魔化であった。

 そして、斗真と悠莉はそこに活路を見出す。もっとも、その時は二人とも悪魔化するとは知らなかった。のちに悪魔化するなど夢にも思わず、二人は装置に入り生き残ることへ成功したのだ。

 悪魔化の代償を引き換えにして。


「……なるほど。そんなことがあったか。だが、分からないな」

「何がだ」

「何で、世界へ攻撃などを仕掛けた?」

「単純に復讐だ。俺が嘗て勇者として活動していた時、仲間は人間とエルフだったからな。だから、国への本格的な攻撃は人間の国かエルフの国にしかしていない」


 言われてみれば、確かにその通りかもしれないな。

 少なくとも、ドワーフの王国であるドゥエフ王国が、悪魔による大体的な侵攻を受けたとは聞いていない。そのことを考えれば、嘘ではないだろう。

 

「なるほど。大まかなことは分かった」

「そうか。それで、俺たちをどうする気だ?」

「そうだな……セレン、お前はどうしたい?」


 成り行き上、こうして悪魔と対立したわけだが、俺やシュネにセレンほど明確な理由があったわけでもない。何より、セレンへあとを任せると約束して、さきほど留まって貰ったのだ。ならば、ここはセレンへ譲るべきだとして彼女へ問い掛けてみる。とはいえ、内心は複雑とも言えた。

 悪魔王の抱える事情を聞いたのだが、まさか祐樹たちと同じ立場であったとは正直言って想定外だったからである。つまるところ、悪魔王もある意味でアシャン教の犠牲者なのだ。

 確定ではないが、俺やシュネも状況証拠から同じ立場である。同情できる要素があり、そこまで明確に敵とは思えない。しかし、セレンからすれば悪魔は明らかに仇でしかない。俺やシュネ、祐樹たちが抱えている事情は、セレンに関係がないのだから。

 そのセレンはというと、じっと悪魔王と悪魔妃を見詰めていた。それから俺とシュネへ視線を向けたあとで、ゆっくりと斗真と悠莉へ近づいて行く。するとその時、オルたちと対峙した男女の悪魔から絶叫にも近い声が掛かる。必死とも取れる声を張り上げたのは男女の悪魔であり、その内容は嘆願といっていい物だった。


「ま、待ってくれ! スイフル様とフルン様を助けてくれ!!」

「お、お願い。もし願いを叶えてくれるなら、私たちの命を捧げてもいい!」

「馬鹿を言うな! ハムーサ!! シュルン!!」

「その通りよ! これは私たちが始めたこと、二人が責任を負うことではないわ!」


 ここにきて、何か色々と名前が出てきたな。

 場の流れから察するに、フルンというのが悪魔妃なのだろう。要は二人とも、斗真と悠莉という名前は使ってなかったわけだ。確かにその名前を使ってしまえば、アシャン教や各国に正体が判明してしまう可能性がある。それを回避したいのならば、偽名を名乗るのも当然と言えた。

 次にハムーサとシュルンだが、名前のイメージからハムーサというのが男の悪魔なのだろう。そうであるとすると、消去法で女性の悪魔がシュルンということになるわけだ。

 さて、呼びかけられたセレンはというと、愁嘆場しゅうたんばといっていい状況を黙って眺めていただけである。顔に表情もなく、さながら能面でも着けているようにも見えるので結構怖い。だがそれぐらい、彼女の顔から感情というものが感じられないのだ。

 どちらかといえば、セレンは感情豊かである。そのことを知っているだけに、彼女の雰囲気は異様だと感じられた。


「……貴方たちの言い分は聞いたわ」

「だったら頼む!」

「ハサーム! 待てと言っている」

「ですが!!」


 その時、セレンは表情がないまま静かに近づいていく。その際に発生した、足音がなぜか耳に残る。やがて彼女は悪魔王スイフル、いや斗真の前へ静かに立ったのであった。


スイフルの事情、というか正体です。

全員、被害者なんやー。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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