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第四十二話~越境~


第四十二話~越境~



 オデンの町を出たあと、幾つかの町などを経由して到着した国境の町。そこは近くに、国境を守る軍が駐屯している町でもあった。





 エリド王国内に走る幾つか街道の一つ、隣国のルドア王国東部に繋がる街道を進んで国境へと赴く。ここで国を越える際に行う諸々の手続きを終えると、漸く国境越えとなるのだ。だが隣国とはいえ、両国の領土とならない空白地帯は存在する。この間はどの国にも属さないので、全ては自己責任となるのだ。

 そしてエリド王国とルドア王国の場合、同盟関係にあるということからか空白地帯の間隔が他の国々と比べて狭い。この辺りも、交易が盛んとなったゆえんかも知れない。

 ところでこの空白地帯だが、実はわざと空けている節が見られる。勿論、空白地帯の調査自体が進んでいないということもあるのだが、あえて国境を隣接させないことで国家間の戦争を避けているという思惑も働いているように思えた。

 今は、戦争をするより国力の向上をといったところなのだろう。

 だが、それも時間の問題に思える。いずれは、調査も進み各国が空白地帯を版図へ取り込んでいく。そうなれば、国境も隣接するのは間違いない。そのあとでどうなるかなど、神のみぞ知るといったところだ。

 幸いにも、空白地帯で魔物やいわゆる盗賊などに襲われることもなく、無事にルドア王国の国境へ到着する。もっとも、この空白地帯を進む者たちは、お互いを助け合うという一種の暗黙の了解がある。なので、襲われた場合、協力して撃退するというのが常であった。

 それは兎も角、ルドア王国への国境でエリド王国を出た時と同じように諸々の手続きを行ってからルドア王国領内へと入る。そのまま進めば、やはり町がある。この町は、エリド王国内にあった国境沿いの町と同じ役割を持つ町であった。

 その町に到着すると、すぐに宿屋を確保する。そこで部屋に荷物を置いてから、この町にある冒険者ギルドへ向かった。受付で、冒険者ギルドのスタッフへ届け物の申告をする。この町で降ろす荷物に大きなものはなかったので、その受け付けでのやり取りだけで、この町の逗留中にやらなくてはいけないことは終了してしまった。

 あとはこれといってやることもないので、町をぶらつく。急いでいるわけでもないし、何よりキャスがこういったことを喜ぶのだ。その点も踏まえて街を歩いたわけだが、残念ながら町にあまり見るところはない。正確にいえば、見るところがないのではなくエリド王国にある国境沿いの町とたいして変わらない町並みだった。

 だが、それも当然だろう。エリド王国にある国境沿いの町も、このルドア王国内にある国境沿いの町も同じコンセプトで作られている。しかも町の近くに、国境警備の軍がいる駐屯地があるというところまで酷似している。はっきりいえば、まるで鏡合わせでもしているかのような街並みなのだ。


「うーん。見るところがない」

「えっと、店にでも入ってみましょう?」


 市場調査でもないが、店の中に入ってみる。今となっては行商をしていないが、代わりに行ってくれているアンドロイドやガイノイドたちへ情報を提供するのも悪くないだろうと思えた。


「食品関連は、あまり利益が出ないことは分かっているし」

「利益が出るとすれば、嗜好品よね」

「そうだよな。だけどそれなら、研究所でも作ることはできる」

「じゃあ。道具屋に行ってみましょう」

「その方が、いいか」


 この道具屋だが、実は厳密にいうと二つに分かれている。一つは、様々な道具を扱う正に道具屋である。この店でも、一応は魔道具を扱うが、どの町にある道具屋でもその魔道具の価格帯は低価格のものとなる。それとは別に、魔道具を専門に扱う道具屋も存在するのだ。こちらは通称、魔道具屋とも呼ばれている。そして俺たちが向かったのは、この魔道具屋の方だった。

 町における魔道具の販売はどのレベルまで可能なのかということを知っておきたいのである。勿論、町や村によって多少は販売できるレベルは前後する。その点を考慮して、行商で販売できるレベルを把握するのだ。

 何せどんないい商品でも、購入側の財政的なキャパを越える商品を出したところで売れるわけがない。購入する客が買えると判断できる範囲に収めなければ、ただの客寄せパンダとなる。それが目的ならそれでもいいし、実際に行商をしていた頃はあえてそういった商品を作成して客へ見せていた。

 だが、今は自身の手で行商を行っているわけではない。行商を任せている者たちが、俺たちが行っていた方法と同じ手を使うというのならばそれでもいい。だが、自分たちで販売をしていないのだから、別のやり方も考慮に入れるべきである。この調査とも言えない簡単な調査も、その一助となればいいという考えもあってのことだった。

 店内を歩き、取り扱っている商品のラインナップを見る。適当にひやかしたあとで店を出ると、隣を歩くシュネに話し掛けた。


「男爵クラスまでの町に比べれば、よりいい物を売っているけど……」

「王都や公爵や侯爵、辺境伯の領都ほどではないわね」

「つまりこの町は、子爵の領都クラスということか」

「エリド王国でも、似た感じだからこの町も似たのでしょうね」

「そんなところだろうな」


 その後、念のために普通の道具屋にもいったが、予想した通りのラインナップである。これといって見るものもない、実にありふれた商品たちであった。それから道具屋を出たあと、セレンが少し難しい顔をしているのが見える。どうしたのかと思い尋ねると、彼女は微苦笑を浮かべていた。


「シーグたちと行動するようになってから、あたしも贅沢になったなぁと思って」

『贅沢?』

「だって、シーグやシュネが渡してくれるものって、王都であっても買えないような逸品でしょ? それに慣れちゃって、以前なら欲しいと思っていた魔道具があっても食指が動かない。こんなものかって思っちゃうのよ」


 そんなことを言われても、返答に困る。

 俺やシュネからすれば、フィルリーアで流通している魔道具に比べて圧倒的に性能がいい魔道具を作れるのが普通である。つまり、初めからこうなのだ。そのことに文句をいわれても、どうしようもない。答えることもできず、セレンのように微苦笑を浮かべるしかなかった。


「ごめん。ただの愚痴だから気にしないで」

「ならば、それはそれでいいとして。このまま、町に数日でも留まるか?」

「……情報という点では、前の町とそれほどは変わらないと思う」

「ならば念の為に、明日一日だけは待ちに留まって、明後日あさってには出発しよう」


 一まず、今日のところは宿屋へと戻ることにした。

 時間的にも夕食が近いので、ちょうどいい時間帯でもある。宿で夕食をとったあと、それぞれ割り当てられた部屋で休んだ翌日、町で情報を集めてみるが、手に入れられた情報はあまり関係のないものばかりであった。

 だがその件については予想されたことでもあるので、あまり落胆もせずに宿屋へと戻る。明日になれば町を出るし、それにシュネとセレンが研究所へ一旦戻ることにもなっている。そこでというわけでもないが、俺とシュネは男女の営みを行っていた。



 翌日、やや眠気のある俺と少し肌のツヤがいいシュネが朝食を取りに食堂へ向かう。すると、オルとキャスの兄妹とセレン、それからアリナが待っていた。

 因みに俺付きのビルギッタとシュネ付きのエイニは、既に部屋へ迎えに来ている。昨夜のうちは部屋にいなかったが、朝に二人は揃って俺とシュネを起こしに来たのだ。

 その後、宿屋の朝食セットを注文して食べてから、部屋に戻荷物を纏めると宿屋をチェックアウトした。その後、町を出ると、ルドア王国の東部辺境伯の領都へと繋がる街道を進む。やがて、途中で休憩でもするかのように街道から少し離れると、そこで馬車を停めた。

 そこで周囲の確認をして、人気がないことを確認すると、ビルギッタとアリナに警戒を続けさせる。そして二人以外のメンバーは、街道から見た場合には馬車の影となるような場所へ移動していた。


「私はセレンと研究所へ戻るわ」

「おう。何かあったら呼べよ」

「分かっているわ」

「じゃねー」


 シュネは普通に、そしてセレンは陽気に別れの挨拶をする。この辺りは、二人の性格によるのだろうと感じられた。

 それから間もなく、シュネとセレンとエイニが転送を開始する。そして、転送の際に発生する光に包まれたあと、その光が消えていく。あとには、何もない空間があるだけだった。


「本当に少し休んだあと、出発しよう」

「うん」

「はい」


 その後、しばらく休憩したあとで街道へ戻る。それから、街道を進んで幾つかの町や村に立ち寄っていく。依頼の関係上、メインの街道から離れることもあったが、脇道にそれたといえるのはそれぐらいであった。

 こうして依頼をこなしつつ街道を進んでいたが、その間に一回だけ魔物に襲われる。しかし魔物が少なかったこともあって、殲滅に成功した。

 なお、主に活躍したのはオルとキャスである。別に、俺が黙って見ていたというわけではない。証拠に俺とビルギッタが前に出て、いわゆる囮となっていたのだ。その隙を突く形で、オルは接近戦で倒し、キャスは魔術で倒したというわけだった。

 その後、魔物は無論のこと、野盗に襲われることもなく、やがてルドア王国の東部辺境伯となるエイガー辺境伯領内へ入る。するとその頃には、研究所へ戻っていたシュネとセレンとエイニが合流した。

 彼女たちが研究所へ戻っていたあいだは連絡がなかったので、問題は起きていないと思う。だがそれでも、念の為にシュネへ確認する。その彼女からは、問題が起きていないことが問題だったといわれてしまった。


「何だ、それは」

「全て、順調だったのよ」

「いいことじゃないか」

「そうだけど、張り合いがないわ」

 

 その言葉に、苦笑を浮かべた。

 確かに何でも思い通りにいったら、それはそれで面白くはないというのは分かる。それだけに否定もできず、微苦笑を浮かべるしかなかった。それに、人間万事塞翁が馬ともいう。そのうち、いやでも何かあるだろう考えていた。

 ましてや、悪魔関連のトラブルも抱えているのだ。どうやったところで、安定した静かな環境になるとは思えない。それに悪魔関連の事案が終われば、いよいよこのフィルリーアから離れることになる。そうなれば殊更に、安寧など恐らくだが無縁になるだろう。それだけは、確信して言うことができる、そう思えていたのであった。


シーグたちは、それまでのエリド王国から、隣国のルドア王国へ移動しました。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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