↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/244

第四十一話~国境~


第四十一話~国境~



 オデンの町へ無事に到着した俺たちは、用事のあるセレンと一旦別れると、オデンの町に二つある観光名所のうちの一つ温泉プールへと向かう。そしてもう一つの観光地となる間欠泉には、用事を済ませたセレンと共に向かったのだった。





 オデンの町にある二つの観光地を堪能した翌日、この町にある冒険者ギルドの建物へ向かう。朝ということもあってか、比較的混雑している冒険者ギルド内の建物内を進み、依頼所が貼られている掲示板を見る。そこにはまだ、それなりの数、依頼があった。

 とはいえ、そこまで依頼にこだわっているわけではない。冒険者ギルドに来たのも、とりあえず見ておこうというお気軽な気持ちに従ってであった。その中で一つ、妙に気になった依頼がある。それは、ランクとしては低い依頼なのにも関わらず、報酬が高いのというものだ。

 しかもその内容というのが、ペットの散歩という子供の小遣い稼ぎかと思える内容である。つまり、依頼内容と報酬に釣り合いが取れていないのである。そこで、先輩でベテランのセレンへ尋ねてみると、彼女は苦笑を浮かべていた。


「それはやめておいた方がいいわよ」

「何で」

「その依頼主って金持ちの奥様、いわゆるセレブなの。その女性は、可愛がっているペットの面倒を見てくれる人を探しているのよ」

「……そんな理由で、冒険者ギルドに依頼するのか?」

「冒険者ギルド自体は犯罪の匂いがするような依頼でないならば受けるし、冒険者も何でも屋というイメージが大きいからね」


 苦笑こそ収まっていたセレンだったが、代わりなのか肩を竦めている。その仕草から物語っていたのは、「処置なし」といった風情だった。だが、その依頼内容ならば仕方がないだろう。何せこの依頼者は、冒険者に向かってペット専属のスタッフを探していますといっているのと同じなのだ。

 確かに冒険者には金さえ出せば何でも受けるという、セレンが言ったような何でも屋というイメージがある。だが、厳密に言えば違うのだ。彼らが求めるのは、冒険と一攫千金(いっかくせんきん)。つまり彼らは夢や浪漫を追いつつも金を稼ぐことが一番の目的なのだ。

 少なくともこの依頼のように、ペットの面倒を見たくて冒険者になることを選ぶ奴はいない。幾ら報酬が高くても、誰もその依頼を選ぶわけがなかった。

 普通ならば。

 だが、どこの世界でも明日の生活にも困っている輩(やから)はそれなりに存在する。そこで、緊急避難的に依頼を受ける者はいるといえばいるのだ。

 その数は、少ないけどな。


「なるほど。じゃあ、この依頼は結構前からあるのか」

「殆ど常設の依頼に近いわね。それで、その依頼だけど受けたいの?」

「まさか。依頼内容と報酬のアンバランスさ、それが気になっただけだ。こんな依頼を受けるなら、まだそっちの依頼にするさ」

 

 そういって指し示したのは、冒険者ギルド依頼の仕事である。何てことはない、エイムの町で受けた郵便や物品の運送と同じ依頼だ。それにこの依頼だが、実は都合がいい依頼でもある。俺やシュネは、一般的な冒険者と違って一獲千金の夢などを求めて冒険者ギルドに所属したわけではない。いや、全くないとは言わないが、それでも他の冒険者と違っている。あくまで、大陸中に広がっている冒険者ギルドのネットワーを利用するのが一番の目的なのだ。

 つまり、運び屋のような依頼を受けていればあちこちへ移動できる。しかも、馬車かそれに準ずるものが必須というが依頼を受ける条件のネックとなっていて、競合する冒険者も殆どいないのだ。

 まぁ、この依頼ばかりというのも何なので、ほかの依頼を受けるつもりではあるけれど。


「それで、最終目的地は?」

「えっと……隣国の東部辺境伯の領都だな」

「隣国ってルドア王国? 国境で時間が掛かりそうね」

「シュネ、そうでもないよ。エリド王国とルドア王国は仲がいいし、血のやり取りも何度もある。少なくても、他の国に比べればましだよ」

「でも、完全にフリーということはないでしょ」

「それはそうよ。幾ら仲が良くても、他国には違いないもん」


 エリド王国とルドア王国は、婚姻を両王家の間で何度か繰り返したという過去の経緯から遠い親戚と言っていいぐらいの間柄となっている。その為か、両国は同盟関係にあった。しかもかなりのレベルの同盟で、外交は元より軍事や経済にまで波及しているらしい。エリド王国西部でルドア王国と、より正確にはルドア王国東部と交易が盛んという背景には、この同盟も影響していたのだ。

 だからといって、手放しで国境を開放するということはしていない。どこまでいっても国家であり、他国は敵という考えは常にあるのだ。


「ね、ね。それで、ルドア王国に行くの?」

「そうね。取りあえず、受けてもいいかな?」


 キラッキラした目を向けながらキャスがシュネへ尋ねている。その、いかにも楽しみですと言わんばかりの目を向けられたシュネは、少し狼狽(うろた)えながらも肯定的とも取れる返事をしていた。同時に、こちらへ向けて視線を向けてくる。その目は間違いなく助けてと訴えているが、俺を含めたこの場にいるメンバーは視線をそらしていた。


「ちょっと! 酷いじゃない!!」

「何が?」

「何が、じゃないわ!」

「どうしたの、シュネお姉ちゃん」


 俺に詰め寄り文句を垂れていたシュネに対して、キャスはとても不思議そうに首を傾げている。その無邪気な、言い換えればあざといとも取れそうな仕草に、シュネも口をつぐんでいた。

 グッジョブだ、キャス。


「皆(みんな)、覚えていなさいよ」


 一つ溜息を付いたあと、俺たちを睨むような目で見つつそういったシュネの言葉が妙に耳に残ったが、気にしないことにする。ただ、本の少しだけ背筋に寒気が走ったような気もしたが、それも気のせいだと思い込むことにした。

 何であれ、隣国のルドオア王国へ向かうことで意見の一致をみる。完全にキャスの仕草に引っ張られた形だが、俺たちには悪魔という目的はあっても、情報という当てはないので何も問題とはなりえなかった。

 取りあえず、向かうことになるルドア王国の情報が欲しいと思っていたが、大雑把なところはセレンが知っていたので、集める必要もなかった。

 彼女曰く、ルドア王国とは、元はルドア王国の南部地域で発祥した国らしい。ルドア王国南部には、国を横断するように山岳地帯がある。この山岳地帯の南側で国を興したというのだ。

 のちに三代目国王が、その山岳地帯を越えて現在のルドア王国中央部に当たる地域へ進出を果たして国としての版図を広げている。その後、立地条件や利便性の観点から、首都を現在の地へと移す。だが、ルドア王国南部地域は国発祥の地として王家直轄領となっていた。


「ふーん。南部地域が国の発祥ねぇ。けど、どっかで似たような話を聞いたなぁ」

「ああ。それはエリド王国でしょ。この国も、南部が発祥だから」

「……そうか。エリド王国も、南部が発祥だっけ」


 とはいえ、発祥はルドア王国に比べて少々異なる。エリド王国の場合、この大陸とは違う地より海を越えて現れたとされているのだ。のちに初代国王となる人物によって率いられていた彼らは、エリド王国南部に上陸を果たす。その後、初代国王が即位してエリド王国を興したというのだ。

 その為、エリド王国にもルドア王国と同様に南部辺境伯のような人物はいない。エリド王国も国の南部地域は王国発祥の地とされており、王家直轄領となっていたからだ。この、隣国でありながら、由来は別にして同じく国の南部地域を発祥とする奇妙な偶然の一致が、他国に比べて両国の仲がいい一助となっているらしい。しかも現在、悪魔王という共通の敵がある。その要因も、両国の関係を深めている一因となっていた。

 情報を集める必要もなくなったが、あえて数日町へ留まることで追加の情報でも入ってこないかと淡い期待をしていた。だが、そんな都合のいいことなどないらしい。全く追加の情報などなく、オデンの町を出ることになる。勿論、冒険者ギルドが出している仕事を受領してからであった。

 町を出たあとは街道をのんびりと進み、途中で町に立ち寄りながら冒険者ギルドへ届けものを渡していく。やがて俺たちは、ルドア王国へ入る前にある国境沿いの町へと到着した。この町は国境沿いにある町というだけでなく、近くに駐屯する国境警備をする軍の補給を賄っている町でもある。その為、街中には軍人も多く存在していた。

 そんな軍人の全てが、軍服を着て街を闊歩(かっぽ)しているわけではない。だが、雰囲気だけは隠せていないのだ。

 まぁ、素人目には分からないだろうが。


「やっぱり、駐屯地近くの町だな。軍関係と思える人間が多い」


 何せ駐屯地にいる将兵が、飲む・打つ・買うをする為には、この町にくるしかない。それを考えれば、誰もがこの町へ来るのも当然なのだ。その点を考慮してか、この町の歓楽街は結構発展している雰囲気がある。恐らく夜になれば、さぞかし繁盛していることだろうことは想像に難くなかった。

 キャスの教育に悪いから、夜の外出はご法度だな。


「この町と、ルドア王国にもある国境沿いの町は、それなりの歓楽街があるから。その意味でも、冒険者も多いわ」

「なるほど。それで、冒険者をそれなりに見掛けるのか」


 実は軍人ほどではないが、冒険者も町中を歩いている。

 しかし、国境を守る部隊の駐屯地があるということから魔物などが少なさそうなイメージがあったので冒険者が多いのは意外に感じたのである。だが、歓楽街を目的としているなら話は別だ。しかも、エリド王国とルドア王国の仲は悪くない。それは意味で、両国の関係が安定しているといっていい。即ち国家間の戦争が起きにくいともいえるので、国境が近い割には治安も落ち着いているのだ。


「治安がそれほど悪くもなく、危険も国境近い割には少ない。そして、飲む・打つ・買うの三拍子が揃っている。お金に余裕があれば、冒険者はくるわよ。特に、男連中がね」

「まぁまぁ」


 少し言葉を荒げるセレンを、シュネが宥(なだ)めていた。

 元々冒険者には、男が多い。この辺りは夢見がちな男と現実的な女という性質的な物が影響している……のかも知れない。勿論、必ずしもその考えが罷(まか)り通るなどとは思っていない。実際、シュネやセレンは現実的というよりは夢見がちだと思うからだ。


「まずは、宿をとろう。その後は、数日留まって情報集める。それから、国境を越えるぞ」

「あ、ごめん。私、国境を越えてルドア王国に入ったら、一度研究所に戻るわ。魔力溜まりの調査とか、諸々(もろもろ)な進捗(しんちょく)状況が気になるし」

「それなら、全員で戻ればいいだろう」

「問題がなければ、必要はないわ。それに、私とネルトゥースだけいればいいことよ」

「それなら、あたしもいい? 結構気になっているのよね、その魔科学ってやつ」


 意外な申し出に、シュネが驚いていた。

 それはシュネに限らず、俺も驚いている。確かに好奇心旺盛だなと思ったことはあるが、まさか魔科学に興味を示すとは思ってもみなかったからだ。


「いいわ。私だけより他にも精通している人がいた方がいいし」


 そういいながら、シュネが俺をチラ見する。多分彼女のなかでは、科学者に遠く及ばなくても科学の恩恵を受けたことがある俺にその役目を果たして貰いたかったのだろう。だが、雑学などから多少は知識があるにしても、基本俺は武術を嗜(たしな)む人間なのだ。シュネのようには、まず無理である。俺から言わせて貰えば、多少の知識があるからといって無茶ぶりはやめてほしいのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。