~ 序章 ~
その部屋は薄暗かった。
かといって暗すぎて何も見えないほどではなく……ムードを重視したが故に光量を少しだけ落としている、という表現がぴったりなのだろう。
……今までの人生でムードなんてものを認識した記憶などなく……いや、そもそもそんな余裕すらなかった彼にとって、「だろう」以外の表現は使えそうになかったが。
その薄暗い部屋そのものは思っていたよりも遥かに広く……むしろ二人だけで使うには広すぎる気がしてならない。
彼が抱いていたイメージ的には、もうちょっとこう、小汚いような先入観があったのだが……こうしていざ入ってみると思っていたよりもずっと清潔に保たれている。
そのピンクを基調にした慣れない色合いは兎も角、むしろ設備的には普通の……彼に入った経験がある訳ではないけれど、ドラマなどで見る、普通のビジネスホテルとあまり変わりないように感じられる。
少しだけ違うのは、正面に据え付けられているベッドが普通のホテルに備え付けられているソレよりも遥かに大きく、柔らかそうな雰囲気があることと。
風呂場のドアが何故か透明で内部が覗けてしまうこと。
そして、飲み物以外を売っている自動販売機なんかが室内にあること……だろうか?
(何でボクは、こんな所にいるんだろう?)
そんな部屋の中で、彼……合歓木護少年は所在なく立ち尽くしたまま、胸中でそう呟いていた。
彼はまだ中学二年生であり、更には元来の童顔もあって『こういう施設』に入るべきはない容姿であることは確実であり。
そして、彼の眼前で妙に光沢のある清潔そうなシーツで包まれたベッドを待ち切れない様子で触っている少女は、たった3日前に出会ったばかりの転校生だったりすることもあって……彼が居心地の悪さを感じているはある意味当たり前だったりするのだが。
「さて、あんまり時間はないから始めよっか?」
少年を半ば強引な形で此処へと連れてきたその少女は、彼が挙動不審者のように落ち着きなく辺りを見回しているのを見飽きたのか、ついにそう切り出した。
そればかりか少年の目を気にすることもなく、その身に纏っていた黒のセーラー服とスカート、そして上半身を覆うシャツまでをも何の躊躇いもなく脱ぎ捨てたのだ。
「く、空さん!
なんで服を脱ぐんですか~っ!」
鬼敷空という名の少女が、色気も何もない安っぽい白い下着を平然と曝け出す姿を見て、女性の裸身に対する免疫が全くない少年は慌てて叫ぶ。
……だけど。
「だって、汚れる じゃない」
平然とした顔で、言外に「肌や下着を晒すよりも服を汚す方がイヤだ」と言い放つ少女に対し、護少年はもう何一つ言い返す言葉を持たなかった。
実際に『服装が汚れる行為』というモノがこれから行われることを、少年は3日前に思い知っていたからだ。
そして……再び『その行為』が行われることで、あの快楽にもう一度包まれることを護自身が心の底から望んでいることも。
「じゃ、いくよ?」
「……お、お願い、します」
ゲームでも始めるかのようにあっけらかんと少女は呟き。
護は少しだけ躊躇いながらも頷くと、祈るように手を胸の前で結び、身体を硬直させたままベッドにその身を横たえる。
3日前と同じく、こうなってしまえば彼に出来ることなど何一つないと思い知らされているから、だった。
「……あ、何か注文あるんだったら、出来る範囲ならシテあげるけど?」
「~~~っ?
構いませんから!」
色っぽいというより悪戯っぽい笑顔を見せながらの空の提案を、護少年は顔を赤くして拒絶して……
そして、少年はそのまま瞳を閉じる。
何しろ……これから少女の欲望を叶えるために、その身を任せるのだから。
「いただきま~す」
少年が瞳を閉じたのを見届けるや否や……空は口元から垂れかけた涎を舌で拭いながらそう呟くと……
横たわる少年の上へとのしかかっていったのだった。
何故合歓木護少年が今こうしてラブホテルのベッドの上で、転校生の少女にのしかかられているのか。
それを説明するには、今から3日ほど遡らなければならないのだった。




