第8話「気づいてしまった気持ち」
第8話です。
ライブ後の時間の中で、ふたばの中に小さな変化が生まれていきます。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
打ち上げが終わる頃には、すっかり夜も更けていた。
店の外に出ると、少し冷たい風が頬に当たる。
「いやー、楽しかったな!」
はじめが伸びをしながら言う。
「飲みすぎた……」
美月は少しふらつきながら、れいじの方にもたれかかる。
「……重い」
「いいじゃん別に」
くすっと笑う美月。
その距離が、また少し近い。
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ふたばは、視線を逸らした。
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「じゃ、ここで解散な」
れいじが言う。
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「ふたば」
名前を呼ばれる。
「はい」
「送る」
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一瞬、言葉が止まる。
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「……え?」
「一人だろ」
当たり前のように言う。
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嬉しい。
はずなのに。
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胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
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さっきの光景が、頭から離れない。
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「……大丈夫です」
思っていたよりも、あっさりと言葉が出た。
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「近いんで」
少しだけ笑ってみせる。
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「そうか」
れいじはそれ以上、何も言わなかった。
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それが、少しだけ寂しかった。
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「じゃあねー!」
はじめが手を振る。
「気をつけて帰れよー!」
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「……お疲れ様です」
ふたばは軽く頭を下げて――
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そのまま、走り出した。
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足が止まらない。
夜の道を、ただまっすぐに。
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なんで走ってるのか、自分でもわからない。
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でも。
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止まりたくなかった。
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胸の奥が、ずっとざわざわしている。
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「……なんで」
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思い出す。
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さっきの光景。
美月とれいじ。
あの距離。
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楽しかったはずなのに。
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どうして。
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こんなに、引っかかるんだろう。
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足を止める。
息が上がる。
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静かな夜。
街灯の下。
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ひとり。
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「……あ」
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気づいてしまう。
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胸の奥にあった感情。
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ずっと、見ないふりをしていたもの。
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「……私」
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言葉にするのが怖い。
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でも。
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もう、わかってしまった。
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「……好き、なんだ」
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小さく、呟く。
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その瞬間。
全部が繋がった気がした。
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あの歌。
あの言葉。
あの時間。
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全部が、特別だった理由。
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でも。
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同時に、胸が苦しくなる。
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美月の存在。
れいじの態度。
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自分の気持ち。
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全部が、簡単じゃない。
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「……どうしよう」
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夜空を見上げる。
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答えなんて、出るわけがない。
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でも。
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ひとつだけ、確かなことがあった。
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もう、前と同じ気持ちではいられない。
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音だけじゃない。
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心も、大きく動き出してしまった。
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今日という日が、また一つ変わってしまった。
第8話を読んでいただき、ありがとうございます。
ふたばが自分の気持ちに気づく、大きな転換点となる回でした。
音楽とともに動いてきた物語が、ここからは心の面でも大きく揺れていきます。
この想いが、これからのバンドや関係にどう影響していくのか、ぜひ引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
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引き続きよろしくお願いします。




