第6話「今日が吉日」
第6話です。
ついに初ライブ本番。
ふたばにとって、大きな一歩となるステージが始まります。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
ライブ当日。
ステージ裏の空気は、思っていたよりも静かだった。
外からは、かすかにざわめきが聞こえる。
「……やばい」
ふたばは、自分の手が震えているのに気づいた。
呼吸も少し浅い。
頭が真っ白になる。
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「緊張してる?」
横から、美月が声をかけてくる。
「……してます」
隠せなかった。
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「いいじゃん」
「え?」
「そのまま出れば」
少しだけ笑う。
「変に慣れてるより、そっちの方が刺さるから」
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あの時と同じ言葉。
少しだけ、心が落ち着く。
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「大丈夫大丈夫!」
はじめが軽く背中を叩く。
「ミスっても死なないって!」
「それはそれで怖いです……」
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「……いくぞ」
れいじの一言で、空気が変わる。
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名前を呼ばれる。
足が、自然と前に出る。
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眩しいライト。
思ったより近い観客。
数は多くない。
でも――
確かに、そこにいる。
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「……っ」
マイクを握る。
心臓がうるさい。
逃げたい。
帰りたい。
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でも――
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頭の中に浮かぶ。
あの日のこと。
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失恋して。
何もかも終わったと思って。
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でも。
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あの歌に出会って。
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ここにいる。
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「……いきます」
小さく呟く。
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ギターが鳴る。
ドラムが入る。
ベースが重なる。
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――FirstDayの音。
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そして。
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ふたばは、歌い出した。
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最初の一音。
少し震えていた。
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でも。
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止まらなかった。
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歌う。
ただ、まっすぐに。
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“今さらなんてあきらめてしまう――”
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自分の声が、会場に広がる。
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下手だ。
完璧じゃない。
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でも。
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全部、本音だった。
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“思い立ったその日が 吉日なんだ――”
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言葉が、心の奥から出てくる。
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これは、誰かの歌じゃない。
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自分の歌だ。
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“本気でやりたいと思えた その瞬間が始まりさ――”
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気づけば、震えは消えていた。
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怖さも、不安も。
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全部、音の中に溶けていく。
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“輝ける日はこれからなんだよ――”
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会場の空気が、変わる。
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最初は静かに見ていた人たちが。
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少しずつ、前を見る。
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耳を傾ける。
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誰かの表情が、変わる。
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それがわかった。
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“新しい風に乗っていくんだ――”
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最後の音が、響く。
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静寂。
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そして――
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拍手。
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大きくはない。
でも、確かに届いた。
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「……っ」
ふたばの視界が、少し滲む。
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怖かった。
でも。
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やってよかった。
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「……悪くない」
隣で、れいじが小さく言った。
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それだけで、全部報われた気がした。
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はじめは笑っている。
美月も、少しだけ口元を緩めている。
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まだ小さなステージ。
まだ何者でもない。
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それでも。
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確かに、何かが始まった。
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ふたばは思った。
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あの日。
すべてが終わったと思った日。
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でも、違った。
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あれは――
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始まりだった。
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今日が、吉日だった。
第6話を読んでいただき、ありがとうございます。
初ライブ、そして楽曲「今日が吉日」。
ふたばにとっても、FirstDayにとっても、大きな意味を持つステージになりました。
ここから物語はさらに広がっていきます。
彼らがどんな評価を受け、どんな道を進んでいくのか、ぜひ引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
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引き続きよろしくお願いします。




