第16話「この瞬間のために」
第16話です。
いよいよイベント本番。
これまで積み重ねてきた想いと音が、ステージで一つになります。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
ステージ袖。
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ライトの熱が、すでに伝わってくる。
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観客のざわめき。
機材の音。
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すべてが、現実を強くしていく。
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「……やばい」
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ふたばは、小さく呟いた。
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緊張している。
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でも。
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それだけじゃない。
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胸の奥が、ずっと熱い。
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「大丈夫?」
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美月が横に立つ。
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「……はい」
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「顔、いい感じじゃん」
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軽く笑う。
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「そうですか?」
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「うん」
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「ちゃんと“やる顔”してる」
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その言葉で、少しだけ力が抜ける。
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「いくぞ」
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れいじの声。
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短い一言。
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でも。
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それだけで、空気が締まる。
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名前を呼ばれる。
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足が、自然と前に出る。
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ライト。
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視界が白くなる。
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観客の顔は、よく見えない。
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でも。
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そこに、誰かがいる。
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その事実だけで、十分だった。
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マイクを握る。
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一瞬だけ、怖くなる。
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でも。
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思い出す。
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ここまでのこと。
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奈緒の言葉。
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れいじの一言。
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美月の曲。
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全部。
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繋がって、ここにある。
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「……いきます」
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小さく呟く。
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音が鳴る。
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ギター。
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ドラム。
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ベース。
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FirstDayの音。
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そして。
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ふたばは、歌い出した。
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“あなたの何気ない一言で――”
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声が、空間に広がる。
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もう、震えていない。
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まっすぐに。
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届ける。
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“こんなにも嬉しくなるなんて――”
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観客の空気が、少し変わる。
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さっきまでざわついていた空間が。
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少しずつ、静かになる。
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聴いている。
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それが、わかる。
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“気づかないふりしてた想いが――”
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胸の奥から、言葉が溢れる。
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隠していたもの。
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逃げていた気持ち。
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全部。
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そのまま、ぶつける。
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“もう隠せないほど 大きくなってた――”
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声が、強くなる。
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音が、重なる。
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バンドが、一つになる。
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ふたばは、前を見る。
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観客の中に。
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ひとり。
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真っ直ぐ、見ている人がいた。
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れいじ。
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視線が合う。
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一瞬。
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時間が止まる。
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でも。
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その一瞬で、十分だった。
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全部、伝わった気がした。
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ラスト。
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“これはきっと はじまりの声――”
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最後の音が、響く。
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静寂。
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そして――
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拍手。
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さっきよりも、大きい。
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確実に、届いた。
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「……っ」
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ふたばの目に、少しだけ涙が滲む。
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でも。
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今度は、怖くない。
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むしろ。
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嬉しかった。
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ここまで来たことが。
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歌えたことが。
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伝わったことが。
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「……いいな」
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横で、れいじが小さく言う。
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それだけ。
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でも。
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その一言で、全部報われた。
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ふたばは、強く思った。
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この場所で。
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この音で。
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もっと、先へ行きたい。
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音も。
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想いも。
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すべてを乗せて。
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まだ見たことのない景色へ。
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今日が、また一つのはじまりになった。
第16話を読んでいただき、ありがとうございます。
ふたばの想いが音に乗り、しっかりと届いたライブになりました。
ここまでの積み重ねが一つの形になった、大きな節目の回です。
そしてここからは、新たな出会いや評価など、物語がさらに広がっていきます。
バンドとしても、それぞれの関係も、どう変化していくのかぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




