第12話「見透かされた気持ち」
第12話です。
新しい楽曲が動き出し、それぞれの想いが少しずつ形になっていきます。
音楽を通して見えてくるものにも、ぜひ注目していただけたら嬉しいです。
次の練習の日。
スタジオには、いつも通りの空気が流れていた。
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「とりあえず、今日は新曲の話するか」
れいじがギターを置きながら言う。
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「お、来たな」
はじめが笑う。
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「……一応、作ったけど」
美月がスマホを取り出す。
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「デモあるから」
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「もうできてんの?」
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「仮だけどね」
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美月はそう言って、音源を再生した。
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流れてきたのは、ベースと打ち込みのリズム。
そこに重なる、自分で入れた仮歌。
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“近くにいるほど 遠く感じるのは――”
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「……っ」
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ふたばの呼吸が止まる。
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イヤホン越しじゃない。
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空間に、そのまま広がる声。
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“何気ない言葉 一つ一つに――”
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胸が、締めつけられる。
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思い出す。
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れいじの言葉。
何気ない会話。
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“誰かの隣で 笑うその横顔――”
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あの夜。
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美月とれいじ。
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「……っ」
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目を逸らす。
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でも、耳は離れない。
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“言えないまま 飲み込んだ想いが――”
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やめてほしい。
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でも。
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最後まで、聴いてしまう。
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曲が終わる。
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静かな余韻。
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「……いいね」
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最初に口を開いたのは、れいじだった。
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「これでいこうか」
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「まじ?」
はじめが笑う。
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「完成じゃん」
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「まだ仮だって」
美月は軽く言う。
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「タイトルは?」
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れいじが聞く。
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「……“まだ言えないまま”」
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「……いい」
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短く、はっきりと言う。
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「そのままでいこう」
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決まった。
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あっさりと。
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でも。
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ふたばの中では、全然あっさりじゃなかった。
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胸の奥が、ずっとざわついている。
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(……なんで)
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こんなに、わかるんだろう。
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言葉にしてないのに。
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まるで。
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自分の気持ちを、そのまま歌にされたみたいで。
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「……どう?」
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美月の声。
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「……すごく、いいです」
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本心だった。
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でも。
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それ以上、何も言えなかった。
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ふと、視線が合う。
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一瞬だけ。
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美月が、少しだけ笑った気がした。
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何も言ってないのに。
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全部、わかってるみたいで。
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「……っ」
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ふたばは視線を逸らす。
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恥ずかしい。
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悔しい。
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でも。
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否定できない。
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あの歌は。
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自分だった。
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「……で」
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れいじの声。
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「ふたば」
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「え?」
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「歌詞の方、どう?」
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現実に引き戻される。
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さっきまでの感情が、まだ残っている。
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でも。
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その中で、はっきりしたものがあった。
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逃げたくない。
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「……まだ全然です」
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正直に言う。
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「でも」
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一度、息を吸う。
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「ちゃんと書きたいです」
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れいじは、少しだけ目を細めた。
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「……いいな」
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その一言が、胸に残る。
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見透かされて。
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逃げ場がなくなって。
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でも。
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だからこそ。
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自分の言葉で、伝えたい。
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音も。
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想いも。
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全部。
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重なっていく。
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もう。
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止められない。
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心は、すでに前に進み始めていた。
第12話を読んでいただき、ありがとうございます。
美月の楽曲によって、ふたばの中にあった気持ちがよりはっきりと浮かび上がってきました。
音楽が、ただの表現ではなく、それぞれの心を映し出すものになってきています。
ここからは作詞を通して、ふたば自身の想いがどう言葉になっていくのかも大きな見どころになります。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




