↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/100

第13話「言葉にできないもの」

第13話です。


ふたばが作詞に向き合い、自分の気持ちと正面から向き合っていきます。

静かな中で、少しずつ変化が生まれていく回です。


ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

夜。


 スタジオの隅で、ふたばは一人ノートを開いていた。


⸻


 ペンを持ったまま、止まっている。


⸻


「……書けない」


⸻


 小さく呟く。


⸻


 頭の中には、いろんな気持ちがある。


⸻


 でも。


⸻


 それを言葉にしようとすると、全部消えてしまう。


⸻


「……なんで」


⸻


 さっきまで、ちゃんとあったのに。


⸻


⸻


 美月の曲が、頭に浮かぶ。


⸻


 “言えないまま 飲み込んだ想い――”


⸻


⸻


「……っ」


⸻


 胸が、少し苦しくなる。


⸻


⸻


(あんな風に、書けない)


⸻


⸻


 自分の気持ちなのに。


⸻


 うまく形にできない。


⸻


⸻


「……はぁ」


⸻


 ため息をついた、そのとき。


⸻


「まだいたのか」


⸻


 後ろから声がした。


⸻


⸻


「……れいじさん」


⸻


⸻


「帰らないの」


⸻


⸻


「ちょっとだけ……」


⸻


⸻


 れいじは、隣に腰を下ろす。


⸻


⸻


「書いてる?」


⸻


⸻


「……全然です」


⸻


⸻


 ノートを少しだけ閉じる。


⸻


⸻


「難しいです」


⸻


⸻


「そりゃそうだろ」


⸻


 あっさりと言う。


⸻


⸻


「簡単に書けたら、誰でもやってる」


⸻


⸻


「……ですよね」


⸻


⸻


 少しだけ、気が楽になる。


⸻


⸻


「何書こうとしてる?」


⸻


⸻


「え?」


⸻


⸻


「テーマ」


⸻


⸻


 少し考える。


⸻


⸻


「……好きな人のこと」


⸻


⸻


 言った瞬間、顔が熱くなる。


⸻


⸻


「……へぇ」


⸻


⸻


 れいじは、特に驚いた様子もなく返す。


⸻


⸻


「いいじゃん」


⸻


⸻


「え……?」


⸻


⸻


「一番、嘘つかなくていいやつだろ」


⸻


⸻


 その言葉に、少しだけ救われる。


⸻


⸻


「でも……」


⸻


⸻


「うまく書けなくて」


⸻


⸻


「うまく書こうとするなよ」


⸻


⸻


「え?」


⸻


⸻


「そのまま書けばいいだろ」


⸻


⸻


「そのまま……」


⸻


⸻


「思ってること」


⸻


⸻


 シンプルだった。


⸻


⸻


 でも。


⸻


⸻


 それが、一番難しい。


⸻


⸻


「……怖いです」


⸻


⸻


 ぽつりと、本音が出る。


⸻


⸻


「何が」


⸻


⸻


「言葉にしたら」


⸻


 一度、言葉を飲み込む。


⸻


⸻


「戻れなくなりそうで」


⸻


⸻


 静かな空気。


⸻


⸻


 少しだけ、時間が止まる。


⸻


⸻


「……いいじゃん」


⸻


⸻


 れいじが言う。


⸻


⸻


「戻らなくて」


⸻


⸻


「……え?」


⸻


⸻


「変わるために、やってんだろ」


⸻


⸻


 その言葉が、まっすぐ胸に入ってくる。


⸻


⸻


「……っ」


⸻


⸻


 何も言えない。


⸻


⸻


 でも。


⸻


⸻


 逃げていた理由が、はっきりした気がした。


⸻


⸻


 怖かったんだ。


⸻


 変わることが。


⸻


⸻


「……書いてみます」


⸻


⸻


 小さく言う。


⸻


⸻


 ノートを開く。


⸻


⸻


 ペンを持つ。


⸻


⸻


 ゆっくりと。


⸻


⸻


 言葉を、落としていく。


⸻


⸻


 “あなたの何気ない一言で”


⸻


⸻


 手が、止まらない。


⸻


⸻


 “こんなにも嬉しくなるなんて”


⸻


⸻


 胸の奥にあったものが、少しずつ形になる。


⸻


⸻


 怖い。


⸻


 でも。


⸻


⸻


 止めたくない。


⸻


⸻


「……いいじゃん」


⸻


⸻


 横から、れいじの声。


⸻


⸻


「ちゃんと届くよ、それ」


⸻


⸻


 顔を上げる。


⸻


⸻


「……ほんとですか」


⸻


⸻


「嘘ついてどうすんだよ」


⸻


⸻


 少しだけ笑う。


⸻


⸻


 その表情に、胸がまた高鳴る。


⸻


⸻


「……ありがとうございます」


⸻


⸻


 ふたばは、もう一度ノートを見る。


⸻


⸻


 まだ途中。


⸻


 まだ未完成。


⸻


⸻


 でも。


⸻


⸻


 確かに、そこにあった。


⸻


⸻


 自分の言葉。


⸻


 自分の気持ち。


⸻


⸻


 音楽と一緒に。


⸻


⸻


 少しずつ。


⸻


⸻


 形になっていく。


⸻


⸻


 もう。


⸻


⸻


 止まれない。


⸻


⸻


 言葉にした瞬間、心もまた前に進んでいた。


第13話を読んでいただき、ありがとうございます。


言葉にすることの難しさと向き合いながら、ふたばは少しずつ自分の想いを形にし始めました。

そしてその過程で、れいじとの距離も少しずつ縮まってきています。


ここからは楽曲の完成に向けて、さらに物語が動いていきますので、ぜひ引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。


よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。

引き続きよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。