第10話「選んだ道」
第10話です。
ふたばが自分の進む道を選ぶ、大きな決断の回になります。
これからの物語にとって、とても重要な一歩です。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
「……バイト?」
店長の一言に、ふたばは思わず聞き返した。
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「人手ちょっと足りなくてな」
カウンター越しに、軽い調子で言う。
「ライブも増えてきてるし、スタジオの方も回したいし」
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「……でも、私」
言葉が続かない。
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ここは、ライブハウス。
その隣には、練習スタジオ。
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今、一番近くにいる場所。
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「別に無理にとは言わねぇよ」
店長は肩をすくめる。
「ただ、お前――」
一瞬、ふたばを見る。
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「ここ、嫌いじゃないだろ」
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「……っ」
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答えられなかった。
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でも。
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答えは、もう出ていた。
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大学の帰り道。
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奈緒の言葉が、頭の中で繰り返される。
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『後悔しない方、選びなよ』
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立ち止まる。
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空を見上げる。
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もうすぐ、卒業。
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周りはみんな、就職が決まっている。
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自分だけ、まだ決めていない。
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不安はある。
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怖い。
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でも。
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思い出す。
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ステージの上。
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あの光。
あの音。
あの瞬間。
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胸の奥が、熱くなった。
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「……やりたい」
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自然と、言葉が出た。
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「私、やりたい」
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次の日。
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ふたばは、もう一度ライブハウスに来ていた。
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「……あの」
店長に声をかける。
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「昨日の話なんですけど」
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「おう」
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「やらせてください」
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少しだけ、間を置いて。
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「ここで働きたいです」
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店長は一瞬だけ驚いた顔をして――
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「……そうか」
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小さく笑った。
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「歓迎するよ」
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その日から。
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ふたばの生活は、大きく変わった。
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ドリンクを作る。
機材を運ぶ。
スタジオの受付をする。
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覚えることは多い。
体も疲れる。
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でも。
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全部が、新しかった。
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「お疲れ」
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後ろから声がする。
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振り返ると、れいじが立っていた。
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「……お疲れ様です」
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「慣れた?」
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「まだ全然です」
少しだけ笑う。
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「でも、楽しいです」
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れいじは少しだけ目を細める。
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「……そうか」
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それだけ。
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でも。
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その一言が、なぜか嬉しかった。
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「無理すんなよ」
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ぽつりと、付け加える。
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その言葉に、胸が少しだけ高鳴る。
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「……はい」
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ふたばは、小さく頷いた。
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不安は、まだある。
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将来のことも、全部決まったわけじゃない。
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でも。
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選んだ。
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自分で。
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この道を。
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音楽のそばで生きていく。
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その一歩を。
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踏み出した。
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今日が、吉日だった。
第10話を読んでいただき、ありがとうございます。
ふたばが就職ではなく、音楽のそばで生きる道を選びました。
不安もありながら、それでも一歩踏み出したことが、これからの物語に大きく影響していきます。
ここからは、バンド活動と日常がより深く絡み合い、関係性もさらに変化していきます。
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引き続きよろしくお願いします。




