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30話

自然とゆっくりと、朝起きるみたいにいつも通り目を覚ます。

体も喉も痛くない。少し怠いくらいだ。

右腕に重みを感じで見れば、隣で兄さんが僕の腕を掴んで眠っていた。

それをゆっくり剥がしながら体を起こす。そして、雑にかかかってしまっている兄さんへの毛布をかけ直す。

改めて見れば、ここは兄さんの部屋だ。

僕の部屋とほぼ作りが似ているから見間違えたが、確か僕以外誰も入れないようにしていたから入れることができず、兄さんが使わせてくれたんだろう。

着ている寝間着も、兄さんのものだ。


「くぁ…あぁ、起きられたのですね。第二王子殿下…いえ、ヨムト様。」


左側、窓側から声が聞こえ、そこを向けば、用意されたソファに座って、伸びをしている少女がいた。

ルキデリル国の第一王女、フェノール・ロキサン。彼女だった。

彼女は、前のようなドレスではなく身動きのしやすい服装で、治癒師の証である緑の髪束と地毛である金色の髪の毛を編み込んだ出で立ちだった。

彼女の後ろにある、閉められたカーテンの下から差す光が、もう朝、もしくは昼頃であることを教えてくれている。

彼女は伸び切った後、落ちた毛布を拾って自身の代わりにソファに置けば、こちらへ近づいた。


「お体の状態を確認させていただきたいです。触れても?」

「あぁ、はい…」


彼女がいることに理解しながらも驚きつつ、承諾すれば、彼女が腕に触れ、治癒の力と魔力を使った。

1度彼女に治してもらったことから魔力の反発も無く、むしろ心地よいと感じるほどだ。

数秒で彼女は使用をやめ、腕も離した。


「体の内部の症状は治癒によりある程度回復していますが、全て治癒で治してしまいますと自己回復をしなくなる恐れがあるので、完全には治していません。自己回復するまで、お食事はしんどいかと思いますがご了承ください。」

「は、はい。」

「それと、服毒された劇薬に関しては完全に解毒させています。本当はこれも解毒剤や自己回復を待ったほうが良いのですが…そうもいかない状況のようでしたので。」

「でしょう、ね。貴女がいらっしゃるということは。」

「貴女なんてやめてください。私たちはお友達じゃないですか。」


彼女は早口ながらも簡易的に、僕に施した治癒と今後を伝えた。

それに圧巻されていれば、飲んだ劇薬に関して、苦い顔で笑った。

隣国の王女でありながら治癒師である彼女が、この国にいる理由を考えればわかりやすい話であった。

恐らく眠りについた後、僕は危険な状態になったのだろう。だから、解毒薬ができるのを待たず、彼女を呼び、治した。

そうでもないと、隣国から王女を呼ぶだなんてことはできないだろう。

そう考えて話せば、以前とはうってかわって、普通の少女のように僕の言葉に訂正を求めた。

そうだ、彼女とは友人になったんだ。であれば、呼び方を考えなければ行けないだろうか。


「うーん…なんとお呼びすれば…」

「フェノと及びください。家族や親しい者にはそう呼ばれております。」

「では、フェノさ、ま!?」


呼び方を考えていることを口に出せば、彼女が指定を指定をしてくれたのでそう呼び、感謝を伝えようとした時。

フェノ様と反対方向から引っ張られ、体制は崩さなかったものの、背後から強く抱きしめられた。

位置を考えれば、きっと起きた兄さんだろう。


「…」

「第一王子殿下おはようございます。不機嫌なお顔ですね。」

「顔の良し悪しは関係ないだろう。」


兄さんは何も言わないが、にこやかに笑ったフェノ様と言葉を聞くに、寝起きであまりよろしくない顔をされているのだろう。


「兄さん、おはようございます。」

「ヨムト…おはよう…起きてよかった…。」


抱きしめられている腕に触れながら、兄さんに挨拶をすれば、離れて僕の真正面に座り直した兄さんが、泣きそうになりながら挨拶を返してくれた。

少しやつれているように見える。僕が寝ている間、食事をしていないんじゃないのだろうか。後でちゃんと食事をしてもらうよう言わなければ。

兄さんを見ながらそう考えていれば、兄さんはおもむろにベッドから降りて、フェノ様の側に立った。


「コホンっ。此度は、我が弟を治癒くださりありがとうございます。ルキデリル国第一王女殿下。」

「あら。こんな貴族的なこともできたのですね。」

「馬鹿にしてるな?」

「そんな事ありませんよ。友人としてパーティにご招待いただいて、その友人が一大事とあれば手を差し伸べるべきでしょう?」


兄さんも寝間着のままであったが、フェノ様の手を取って、らしくなく丁寧な口調で感謝を述べられたと思えば、フェノ様の手に口づけをされた。

初めて見る光景に目を丸くしていれば、同じように驚かれたフェノ様は、兄さんに向かって失礼に当たりかねないことを口走った。

すぐに手から口を離し、手も放した兄さんは、文句を言うような口調ではあったものの、怒りや無作法であることを指摘する言葉は上げなかった。

つまりは、彼女の行動にある程度目は瞑っているということなのだろうか。

もしくは、治癒をしてくれた手前、そう行動できないでいるとか。


そうしていれば、ドアがノックされて、ゆっくりと開いた。

顔を覗かせたのは、お母様とお父様だった。

そして、僕を見るなり、ドアを大きく開けて駆け寄って、抱きしめてくれた。

よかった、お父様もお母様も、兄さんも生きている。



僕が目覚めて数カ月後。僕は中央広場の端に建てられた仮説のテント内に兄さんお父様と騎士数名で居る。

お母様には見るも酷いものと思い、王宮内にいるようにお願いをした。

視線の先。そこには、多くの大人の住民が、貴族が集まっている。

晴天の空。急造の処刑台には、グルヴェン・ジャギーと執行人の騎士2人が乗っている。


「王子様になんてことしたんだ!」

「サイテー野郎が!」

「殺されて当然だ!」


グルヴェン・ジャギーは、今日処刑される。これは僕が望んだことだ。

お父様は僕にグルヴェン・ジャギー、及びジャギー家をどうするかを委ねてくれた。

全てご自身で決めてしまっても良いのに、そうせず僕に委ねてくれたのは、僕が一番の被害者だからだろう。

そこで僕はこう伝えた。

「グルヴェン・ジャギーは処刑してください。後のご家族はお父様のご判断に任せます。」

処刑の方法も伝えた。過去、僕が処刑されたことと同じようになるよう。

お父様は驚かれていたが、それを承諾してくれた。


過去、僕は確かにお父様を殺してしまったが、原因はコイツが兄さんを唆したからである。

それがなければ、お父様を殺すことは無く、兄さんも泣くことは無かった。

コイツが生きていると、また過去の悲劇が繰り返される可能性がある。

だから、それを消す。王宮、この国の居場所を無くすどころか、この世から消したほうが良い。

それに、僕がお母様に飲ませようとした劇薬の話も、何故か「僕に元気になるようにと渡した薬が劇薬だった」と僕を殺そうとしていた話になっていた。

王族を殺害しようとした明確な罪で、アイツは今処刑台にいる。

人から人へ伝わる話というのはどこで変わるかわからないものだ。


「これより、罪人グルヴェンの刑を執行する。」

「…っざけるな!!私は第二王子を殺そうなどしていない!!言いがかりだ!!」


執行人が、アイツの首元に剣を置くと、アイツは叫びだした。言われようのない罪だと。

僕も、過去に言われようのない罪を着せられたな。同じだ。

まだ何かを叫んでいるが、それを無視するように執行人は、剣を振り上げ、勢いよく降ろした。

切れ味のよい剣は、きっと痛みなんてないだろう。過去も痛みなんて無かったから。

アイツの頭が胴体から離れ、処刑台の上を転がる。それと同時に、それを見ていた人達が大声を上げた。


「…ありがとうございます。お父様。」

「お前から、処刑の言葉が出るなんて思わなかったよ。」

「驚かせてしまい申し訳ございません。では、戻りましょうか。…兄さん?」


僕のお願いを聞いてくれたお父様にあらためてお礼を言えば、お父様は当時の心境を教えてくれた。

それもそうだろうと思い謝罪をしつつ、王宮に戻りたいと伝える。

先を歩くお父様を見て、動かない隣にいる兄さんを見る。

お父様の後ろを歩くのは兄さんだ。なのに何故?

見れば、伸びた髪の隙間から見える顔を青くして、口を抑えていた。処刑の光景が、ショックだったのだろうか。


「に、兄さん?!大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。平気だ。問題ない。」

「ですが、顔が…」

「本当に、大丈夫だ。これとは関係ない…大丈夫だ。」


あの兄さんがそんなことはないだろうと驚き、顔を覗き込むように心配する。

目線の合った兄さんは、すぐに目をそらして、僕から顔を背けて、思い出したかのように歩き出す。

それでも心配で横に並びながら尋ねるが、再度大丈夫だと念押しされる。

何か思案しているような。流石の僕でも相手の考え、ましてや兄さんの考えを読むことなどできない。

顔色は悪いが、兄さんが大丈夫なら大丈夫なのだろう。過剰な心配は嫌われる要素にもなる。


馬車に先に入っていたお父様の隣に兄さんが座り、向かいに僕が座る。

全員が乗ったことが知れれば、馬車はゆっくり動き出した。


「そういえば、ルキデリル国の第一王女から手紙が来ていたぞ。」

「あぁ、最近よくいただくんですよ。アカデミーへ行かないかと。」

「アカデミー?」

「はい。貴族平民。階級問わずに通うことができる学び舎です。望めば、専門的な知識や技術も学べるとか。」

「あぁ…学術院が名を変えたのか。私も通ったことがあるぞ。」

「そうなのですね。ですが…僕は」

「俺は行きたい。」

「おぉ、アテラは学術院…アカデミーに興味があるのか。」

「専門技術が学べるんでしょう?であれば力を、守る力を学びたいです。」

「ハハッ、良いことだな。で…ヨムトはどうするんだ?」

「兄さんが行くなら僕も行きます。僕も、守るための知力をより得たいです。」

「であれば、返答は決まるな。まぁ、まだ先の話だから、それまで学べることは王宮で学びなさい。」

「はい。」

「…はい。」

ここまで作品を読んでくださりありがとうございました。

こういった形の作品を書くのは初めてでしたので拙い部分もあったかと思います。

本当はより細かく、長くを考えていたのですが、毎日投稿することが自身には困難であることがわかり、想定していた内容を変更して、着地となりました。

ここまで毎日投稿することができましたのは、誰か一人でも見てくださってる方がいらっしゃるという暗示に近いものですが、その思いで続けることができました。

続きは未定ですが、投稿の形を考えながら検討できたらと思います。

改めまして、本作品をお読みくださりありがとうございました。


猫の真

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