第9話 12歳/告白
第9話となります。
ご意見ご感想などお待ちしております。
私とガブリエルとの手合わせはその後どうなったのか。
結果としてかなり煩わしいことになってしまった。
翌日、私は生徒指導室に呼び出されると先生方からガブリエルとの手合わせの件で事情を聴かれた。
今までガブリエルの手合わせの件を触れなかったくせに、今更になって学園側が事情を聴いてくるとは思いもしなかった。
のちにドイチュマン先生から聞いたのだが、ガブリエルが負けたことでスプリンゴラ家が激怒したのがきっかけになったそうだ。
その日のうちにスプリンゴラ家は長子が恥をかかされたとの理由で私に罰を与えるように学園に圧力をかけてきた。
だが、多くの学生の前で行った手合わせが治安を守る騎士団や法律に重きを置く貴族院の関係者の耳に入ったために翌日にガブリエルの両親が騎士団に呼び出され注意を受けた。
騎士団長が「子供の喧嘩に親が出るとはなんたることだ!」とガブリエルの両親に激高したと聞く。
さすがにガブリエルの両親、特に息子を愛する母親が畏縮してしまいすぐに謝罪としたと言う。
どうしてそうなったかと言えば、学生の中には騎士団や貴族院の関係者が少なからずおり彼らが親や親類に伝えたのだ。
当然の如く、学園にも事情を知った騎士団の指導が入った。
騎士団は学園での生徒同士の手合わせ、つまり、決闘行為を止めなかった学園に対して「なんたる失態」と彼らに厳重に注意したと言う。
学生同士の手合わせであろうと私的な決闘は許されていない。
しかも寄付金を盾にして子供の喧騒に親が出てくるなど常識外れであると。
学園長もガブリエルの両親からの話があったことを認めるしかなく、やもなく体裁を整えるために調査を始めたのだ。
聴取された生徒の中にはエミーナもいた。
エミーナも学園の聴取が終わると私にどんなことを聴かれたのか話してくれた。
「先生方はあなたとあいつがどうして手合わせをしたか聞かれたけど、私はあいつが勝手にあなたに絡んできて手合わせをすることになったと言ったわ」
エミーナもあの手合わせの後に彼女の父に今回の件を話をした。
事情を知ったエミーナの父は騎士団に知り合いがおり、この話をすぐに騎士団の関係者に伝えたそうだ。
「これでガブリエルの家も大人しくなると思うわ」
エミーナは苦笑しながら話してくれたが、この手合わせはさすがに事が大きくなってしまった。
私は一夜にして私は優等生から怒らせたら怖い要注意人物へと評価が変わってしまった。
あれほど私に話しかけてきたクラスメイトや同級生たちは私に遠慮し始めた。
ドイチュマン先生以外の講師も私にぎこちない対応で接してきたのにも困ってしまった。
やはりガブリエルへの制裁が強烈な印象を残してしまった。
あれはよろしくなかった。
時戻りの前の制裁として行った行為が周囲に壁を作らせてしまった。
・・・しばらくは様子見か。
私は悪い意味で目立ってしまったことに反省する。
時間が経てば解決はしてくれるだろうし、ガブリエルの心境にも変化が現れるかもしれない。
だが、ガブリエルは私の前に現れることはなかった。
ガブリエルが学園に通うことなく転校したのだ。
転校先は王都だった。
手合わせで散々な目にあったから彼も私の顔など見たくなかったのだろう。
結局、ガブリエルは私に仕返しをすることなく目の前から逃げ失せたことになる。
なんとも言えない結果に私は言い知れぬ虚無感に襲われた。
同時に私自身の処分も決まった。
私は両親と共に改めて生徒指導室に呼び出されると今回の件は学生同士の喧嘩なので謹慎処分ではなく反省文を書かされることになった。
私も両親も謹慎や停学ではなかったので今回の指導を受け入れることにした。
反省文ならそれほど書くことに問題はないし学園には通える。
屋敷に戻った後、両親からは「それでも手合わせの件は話して欲しかった」と言われてしまった。
両親としてはガブリエルの手合わせの件を報告しなかったことがショックだったようで、親として信頼されていないのではと思ったそうだ。
私自身、時戻りの前の事もあったので今も両親に自分の事を話すことを躊躇うことがあったのだが、今回は素直に話すべきだったかもしれない。
両親は茫然自失と言った感じで母のビオレットは私に「今後、何かあったらちゃんと相談して欲しい」と涙を流しながら話してきた。
これには私もさすがに困惑していまい、「申し訳ありません」と謝罪した。
時戻りの件があっても母の涙はまだ私に十分に効果があったのだ。
私の手合わせの話は、べラック先生にも伝わってしまった。
私は稽古後にべラック先生に声をかけられた。
「君が学園でとある生徒と手合わせをしたと聞いたんだが本当かい?」
何故かべラック先生が楽しそうに聞いてくる。
「はい」
私は素直に答える。
「なるほどね」
べラック先生はうんうんと頷きながら話を続ける。
「実際、戦ってみてどう思いましたか?」
これまで聞かれたことのない質問に私は少し考え込んでしまう。
どうしてガブリエルと手合わせしたのか聞かれるかと思ったのだが、べラック先生は予想もしない事を聞いてきた。
「どうと言われても・・・」
私は困惑した。
「正直に言ってみなさい。余裕で勝てたと」
また、べラック先生が予想もしない事を言う。
「先生がそんなこと言っていいんですか?」
「当たり前です、私の剣術を知るあなたがそこいらの学生では勝てるはずありませんからね」
べラック先生は自信満々で答える。
「私の剣術は身を守るためのものですが、言い換えればどんな相手でも勝てるし負けることがないと言うことですよ」
べラック先生がその場を整理するために両手を叩く。
「私が知りたいのはそこではありません。あなたがその相手を倒した後のことです」
べラック先生は私にガブリエルに行った制裁の話を進めるよう促してきた。
「さ、言いなさい」
私はべラック先生に言われるままにガブリエルに対して行ったことを素直に話した。
べラック先生には嘘など通用しないのも理解していた。
「これがすべてです」
私が話を終えるとべラック先生が残念そうに首を横に振る。
「君もまだまだですね。まだ十二歳とはいえ、仮にも私の弟子なのですよ。剣術使いを目指すなら感情をコントロールしないと」
「・・・はい」
べラック先生の言う通りだ。
確かに私は感情のままに動いてしまった。
言い訳などできるはずもない。
「では、次回はそのようなことはないようにしなさい。感情に左右しても勝負に勝てませんからね」
「はい」
先生にそう言われてしまうと私は頷くのみだ。
そして、これでべラック先生の話は終わると思っていた。
だが、ここからが本番だった。
「でも、気になることがありますね」
べラック先生は話を変える。
「何でしょうか?」
「私が思うに君はどうも相手に対して制裁などしないタイプだと思っていました。ですが、君はその相手に並々ならぬ思いがあったのでしょう、その女の子が止めるまで制裁を加えようとしました。でも、君とその手合わせの相手はあまり関係性がないはずです。要はその相手にそこまでやる必要があったと言うことになります」
べラック先生が私の周囲をうろうろと歩く。
そして、私に顔を向ける。
「あなたの秘密はなんですか?」
べラック先生は私の秘密に気付き始めている。
私は焦り出す。
「先生は何が言いたいんですか?」
動揺する私をよそにべラック先生は私に尋ねる。
「私はボヴァリー様に頼まれてあなたに剣術を教えることになりました。ボヴァリー様からの頼みが珍しかったので私はあなたを受け入れました。その際、ボヴァリー様からはあなたが自分の身を守る術を教えて欲しいと言われました。そのような頼みはボヴァリー様以外でも初めてのことでした。つまり、あなたにとって自分の身を守る事はとても大切なことなのだと私は思いました。しかも、あなたはどんな厳しい訓練も文句も言わずにこなしてきた。その姿に私は違和感を覚えました。ただ、あなたの心境に変化があったのでしょう、その後はなたは純粋に剣術を覚える楽しみを覚えたので私はこれ以上何も詮索することはやめました。ですが、今回の件であなたには秘密があるのだと思いました。出なければあなたが相手を徹底的に叩きのめすことをするはずはありません。言っている意味がもちろんわかっていますね?」
先生の言葉は私のすべてを的確に当てていた。
「正直に言いなさない。あなたの秘密は何ですか?」
すべてを見据えるようにいるべラック先生に私はこれ以上、あの秘密を隠すことができなかった。
私は全ての秘密を話した。
私が二十歳のあの日、同窓会のパーティー会場でパルダビュー・アリンガローサ王子に断罪されたこと。
パルダビュー・アリンガローサ王子が私に邪な想いを抱いた上、私を軟禁し私の貞操を奪おうとしたこと。
パルダビュー・アリンガローサ王子の愛人だったガブリエル・スプリンゴラに斬られたこと。
なにより婚約者だったエミーナ・・ナイトレイに裏切られたこと。
結果、私は八歳の年齢に時戻りを起こしたこと。
その秘密をボヴァリーお祖母様に打ち明けて、べラック先生を紹介してもらい入門したこと。
べラック先生も自分の考えていた以上に事情が複雑だと知ったようで私の話を頷きながら聞いてくれた
「そんなことがあったのですね」
「先生は信じてくれるのですか?」
「はい。あなたが嘘をついているとは思えないですしここで嘘をつく必要などありませんからね」
べラック先生の心の中がどうなのかはわからないが、今の話を自分の胸の中で話を包摂させてようだった。
「そんな事情があるとは思いもしませんでした。だから、あなたの言動が年頃のものではないのも納得できます」
「その辺りは気を付けていましたがわかりますよね」
「ええ。あなたは無理して大人びた態度でもないのでおかしいとは思っていたのですよ」
私の様子はべラック先生も気付いていた。
さすが一流の剣術使いだ。
「しかし、そうなると大変ですね」
べラック先生が何かに気付いたようで唸るさまを見せる。
「どうしたんですか?」
「いやね、考えてみたんですがガブリエルと言う生徒の件が気になりましてね」
「何故ですか?」
「彼は王都に転校したんですよね?」
「はい」
「そうなるとその彼が王都に転校したのは悪手になるかもしれないね」
べラック先生の言葉に私は理解できないでいる。
「どう言うことですか?」
「わからないかね?」
「はぁ」
「さて、王都には誰がいんだろうか?」
その時、私はある人物の事をすぐに思い出した。
「・・・パルダビュー・アリンガローサ王子」
「そう」
べラック先生が言いたいことはわかった。
ガブリエルが王都にいると言うことはパルダビュー王子と接触する確率が高くなる。
いや、王都の中等学園にパルダビュー王子がいた場合はガブリエルと会うことになる。
「これは悪手だね。まさか時戻りの関係者が同じ場所にいると言うのがいけないいけない」
これは盲点だった。
もしかするとこれは時戻りの影響かもしれない。
今回のガブリエルの手合わせで時間軸が強引に修正を行ったかもしれない。
これが事実になるのならこれほど時戻りの恐ろしさはない。
「先生、僕はどうしたらいいですか?」
「一番いい方法は王都に行かないことさ」
「でも、さすがに家の都合もありますので・・・」
「それなら剣術使いとして名を上げなさい」
「名をですか?」
私の頭は理解できずにいた。
どうして剣術使いで名を上げることが逃れる術なのか?
「剣術使いで有名になれば他国でも剣術留学が受けることができます。特に王都で行われる剣術大会で優秀な成績を収めれば留学の推薦状を手にすることができるのです」
「そうなのですか?」
「はい。実際、私もそこで優秀な成績を収めたので他国に修業に出ることができたのです」
べラック先生は両手を叩くと私に向けてこう告げた。
「私も君の秘密を知った同志です。今後は遠慮なく鍛錬を積ませます。君がその時戻りの運命から逃れられるようにね」
「先生・・・」
「大丈夫です。君は剣術の素質がある。なにより運命に抗う強い意志がある。これほどに良い条件はないでしょう」
そう言うとべラック先生は私の前に鍛錬用の剣を出した。。
「高等学園に入学するまでにわたしの技術を可能な限り教えます。あなたは心してかかってきなさい。いいですね」
「はい!」
私はべラック先生から鍛錬用の剣を受け取った。
私が断罪されるまで残されたのは8年。
私はべラック先生と言う新しい仲間を得ることができた。
そして、私の剣術使いへの道は本格的に動き始めた。
〇登場人物
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。
べラック先生に秘密を打ち明けてました。
今後は剣術使いの道を進むことになります。
・ペラック・ベルドリッチ
グヤコールスの剣術の師匠です。
彼の時戻りの秘密を知りました。
時戻りの運命に抗うグヤコールスを一つの道筋をアドバイスしました。
エミーナ・ナイトレイ
主人公の元婚約者です。
時戻り後は正義感が強い女性になっていますが、グヤコールスの秘密は知らないままです。